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It's morning and as I wake, I see your eyes ~読書note-6(2022年9月)~

最高の夜だった。9月13日、高崎芸術劇場での山下達郎ライブに初参戦。オープニング「SPARKLE」のギターのカッティングが聴こえてきた時、「おーっ、中2の時にダビングしたカセットを何百回と擦り切れるほど聴いてきた『FOR YOU』のあの音だぁー!!」と自然と目が潤んだ。前から5列目のど真ん中という最高の席で、3時間弱のライブを堪能。

新旧織り交ぜ、聴きたいなぁと思ってた曲がほぼ聴けた。のっけから、「SPARKLE」「あまく危険な香り」「RECIPE(レシピ)」だもん、テンション上がるよ。ただ、噂通り途中まで皆大人しく着席して聴いていて、終盤の「BOMBER」辺りでようやく総立ち。ずっと立ちっ放しではキツイ!?俺ら世代(いや、もっと上も多かった)には優しいライブ。

「さよなら夏の日」を聴いて、この日で俺の夏は終わったし、3ヶ月先取りの「クリスマス・イブ」を聴いて、今年もひとりきりのクリスマス・イブかぁなんて考えたし、「いつか(SOMEDAY)」を聴いて、いつか一人じゃなくなるかなぁと願ったし、そして、ラストの「YOUR EYES」のアカペラで、涙が頬を伝わり落ちた。

次は絶対、妻と一緒に来たいなと思った。でも、チケット1枚だったから、あんな特等席に滑り込めた訳だよね。


1.希望の糸 / 東野圭吾(著)

最近、「ガリレオ」シリーズの最新作「沈黙のパレード」(4月に読了済)が映画化され騒がしいが、東野圭吾のもう一つの看板である「加賀恭一郎」シリーズの最新作が文庫化されたので早速購入。湯川教授より加賀恭一郎の方が、人情味があって好きだ。

本の紹介文には、東野圭吾の「家族」の物語、とある。小さいが常連客で賑わう喫茶店の女性店主が殺される。この事件に関わるある家族の隠された謎、そして、この事件を捜査する加賀の従弟・松宮刑事の出生の謎、この二つの謎解きの「家族」の物語が、同時進行していく。

この事件の関係者達は、とんでもない「秘密」を抱えている。この事件を解明していくことで、その真実が明らかになり、ある人物を傷つけることになる。まぁ、誰にでも墓場まで持っていくつもりの「秘密」の一つや二つはあるもので、俺にもある。果たして、それを死ぬまで隠し通せるのか、隠すことで家族のように近くて常に一緒にいる人間とは関係がギクシャクして来ないか、そうなったら、真実を打ち明けるべきなのか。

家族という大切に思う存在だからこそ、難しいよね。思わず、自分が東野作品の最高傑作だと思う「秘密」(1998年刊行)を思い出した。あれもとんでもない「秘密」だったなぁ。


2.イニシエーション・ラブ / 乾くるみ(著)

帯に「300万人が騙された!」とあったが、まんまと俺も騙された。いやぁ、問題の「最後から2行目」(絶対に先に読んではいけない、と裏表紙にある)も単に恋人の名前を呼び間違えただけだと思って、再度読み返してみても、どこがミステリーなのかよく分からなかった。やむを得ず、ネットでトリックを調べてみて、あぁなるほどねと。

表題の如く、イニシエーション(通過儀礼)としての、誰でも経験する最初のうぶな恋模様を描いていく。舞台は1980年代後半の静岡、大学生の主人公・鈴木が合コンで知り合った繭子と付き合うことになるside-A、そして、社会人となって東京の会社で働きながら、新たな恋にも目覚めるside-B、からなる。それぞれの章のタイトルが、「木綿のハンカチーフ」とか「君は1000%」とか「ルビーの指輪」等々、70、80年代に流行った曲名になっている。

そのトリックを知ってしまえば、あぁこれも、あっこれも伏線だったか、と気付く箇所が多々あって。印象的なエピソードや道具・パーツが色々あるので、やっぱ、こんなトリックを思いつくなんて、改めてミステリー作家って凄いなぁと。男女七人の夏物語と秋物語の使い方だったり、繭子の主人公の呼び方など、あんまり言うとネタバレになってしまうので止めとく。

あぁ、この本を読んだことのある人と色々語り合いたい。


3.甲子園の詩 完全版 敗れざる君たちへ / 阿久悠(著)

足利市立図書館へ読み聞かせの絵本を探しに行った際、ついでにサッカーの戦術の本でも借りようとスポーツコーナーへ行ったら、この分厚い鮮やかな青の表紙が目に入ってきたので思わず借りた。

作詞家の阿久悠さんがスポニチで1979年から2006まで27年間連載していたものを完全収録。一応、自分も元野球少年で甲子園オタクだったので、その連載は何度も読んだことがある。90年代、夏の営業の合間に喫茶店に入った時には、必ずスポニチのこの紙面を開いた。

自分の甲子園ベストゲームは、1979年8月16日の「箕島対星稜」。いや、今まで見てきた全てのスポーツの試合の中でも、一番心に残っている試合かも。我がリヴァプールの「イスタンブールの奇跡」に勝るとも劣らない、感動的な大逆転劇だ。

この試合を阿久悠さんがどんな詩にしたのか、物凄く興味があったので、真っ先にページを捲った。すると、阿久さんも「最高試合」と詩っていた。詩の冒頭と締めで同じ言葉を綴っている。

君らの熱闘の翌日から
甲子園の季節は秋になった

「甲子園の詩 完全版 敗れざる君たちへ」本文より

他にも、1992年8月16日の松井秀喜5連続敬遠では、将来の松井の活躍を確信していたかのような、彼の精神的な強さを詩っていたり。自分の思い出の試合を探してみるのも、楽しいかも。もう、市販のものは中古でも1万円以上するので、Kindle版かお近くの図書館で。


4.熱源 / 川越宗一(著)

俺は「アイヌ」について何を知ったつもりでいたのか。誇り高き民族だとは知っていたが、これほどまでとは。久々に骨太の小説を読んだ気がする。

数年前に直木賞を獲った時に「あぁ読みたい」と思ってたが、文庫になったのでようやく読んだ。樺太生まれのアイヌ「ヤヨマネスク(山辺安之助)」とリトアニア生まれのポーランド人「ビウスツキ」の二人の主人公が、樺太(サハリン)を舞台に「アイデンティティ」とは何かを問い続ける物語。二人の別々の物語が、途中から交差していく。

つい最近、ロシアの捕虜となったウクライナ兵が爪を剝がされたとのニュースを見たが、百数十年前とロシアは変わんねぇなぁと。ロシア帝政に反旗を翻した罪でサハリンに流刑されたビウスツキも、両手両足の爪を剥がされている。まぁ、そんなロシアの今も変わらぬ同化政策に抗おうとしたヤヨマネスクとビウスツキには、ホント頭が下がる。でも、今もロシアの西や南の淵、あっ東の淵の我が国もそうだけど、同様の戦いが続いているからね。

「アイデンティティ」と「故郷」を守るためには、熱源・熱さが必要なのだと。俺にとって「アイデンティティ」、「故郷」とは? 思わず、尾崎の「十七歳の地図」が頭に流れた。

すみからすみはいつくばり 強く生きなきゃと思うんだ


5.拾われた男 / 松尾諭(著)

最近、アマプラで「BARレモンハート」を見始めていて、そこで松ちゃん(いつもウィスキーのウーロン割を頼むフリーライターの常連客:松尾諭さんが演じる)を見てたら、この人が書いたエッセイがドラマ化されたって何かで見たなぁと思い、本屋に直行。

元になったエッセイは、ネットで配信された最初の方は読んでいた。役者を夢見て上京するも、劇団のオーディションが一年後と知り、出鼻を挫かれ、金もなく途方に暮れていたところ、自宅前の自販機横で航空券を拾い警察に届ける。なんと、その持ち主がモデル事務所の社長で、そこに拾われて役者人生をスタートさせた、という強烈なシンデレラストーリーだけでなく、その文章がとても面白く、何とも言えぬ味があり引き込まれた。

後に奥さんとなる彼女の元カレとの修羅場の話までは読んでいたが、後半の世界ウルルン滞在記での話やアメリカに渡って病に倒れたお兄さんの話は、ちょっと泣けて新鮮だった。何せ、このエッセイの大半は、松尾さんのダメ男っぷりが描かれていて、借金まみれ、酒におぼれ、彼女には愛想尽かされ、って昔の自分を見ているようだもんなぁ。

一昨日の結婚記念日も、愛想尽かされた男の隣には、共に祝うはずの妻は居らず。子どもが巣立ったら、夫婦で結婚記念日はワインで乾杯してるだろう、と想像してたけど、現実は厳しい。「朝、目が覚めた時、そこにはあなたの瞳がある」って、どんなに幸せなことか。

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