見出し画像

Design&Art|デザインの眺め〈03.生け花とアアルトベース〉

アアルト大学でデザインを学ぶため、2年間のフィンランド生活を経験した優さん。帰国後もデザインリサーチャーとして、さらに活躍の場を広げています。「デザインの眺め」では、フィンランドのデザイン・建築についてさまざまな切り口で語っていただきます。今回は、日本の伝統文化である華道を、なんとフィンランド人の先生に学んだという貴重な体験談をシェアしていただきます。

みなさんお花見は楽しみましたか?北海道にお住まいの方は、今がちょうど満開の頃かもしれませんね。こういった状況下でなければ桜前線を追いかける旅に出たいくらい、私は桜が大好きです。フィンランドへと旅立つ時には、残りの人生であと何十回かしか訪れない桜の機会を逃してしまうことに寂しさを感じていましたが、実際のところフィンランドにも桜が咲いていて、お花見を楽しむことができました。それだけでなく、森を歩けば多種多様な植物との出会いがあったり、馴染みの花屋さんができたり、フィンランド人華道家の方から生け花を教わったり、充実した ”花のある暮らし” を送りました。今回は、私が現地で体験した花にまつわるエピソードを紹介します。


画像1

ヘルシンキでよく見られた桜は、日本でよく見られるソメイヨシノと比べると花びらの枚数が多く、まるでバレリーナのドレスのような装いをしています。北欧ならではの気候の影響で満開となるのは5月で、空気もほのかにひんやりとしています。

画像2

鳥が蜜を吸うのにつついていくため、朝早くに公園に行くと木のそばに綺麗なままの桜の花がたくさん落ちています。桜をひろって持ち帰り、水に浮かべておくと部屋の中でもしばらくお花見を楽しむことができます。


画像3

フィンランド語で花屋さんは、“KUKKAKAUPPA(クッカカウッパ)”といいます。 KUKKAが花、KAUPPAがお店という意味です。街で見かけて、フィンランド語って魔法の呪文みたいだなと思った言葉でもあります。


画像4

どの器にどんな風に入れてあげようか、長さはどうしようか、どこに置いてあげようか...。花を飾るという行為は、自身の感性を磨くことにつながると感じています。


画像5

フィンランドで暮らしはじめて半年ほど経ったころ、知人からご縁をつなげていただき、生け花教室に通いはじめました。花ともっと向き合いたいなと思っていたこと、そして、海外の視点を経由して日本の文化を学ぶことに興味があったことが、通いはじめた理由です。先生はフィンランド人。建築家であり華道家、そして禅の思想に対する造詣が深い女性でした。

画像6

先生のつくりだす場の空気感はゆったりとしていて、とても心地のよいものでした。建築家でもあり華道家でもあるバックグラウンドや、外国人として日本の文化に触れてきたことが、多角的に物事をとらえようとする思慮深さにつながっているように感じられました。花と静かに向き合いながら、ものごとの捉えかた、人としての在り方、さらには人生についての思考の旅に出かけるような、そんな時間でした。


画像7

生け花とは少し離れますが、個人的にリクエストをしてアアルトベースを使った花の飾り方もレッスンしていただきました。というのも、アアルトベースはとっても素敵だけどとっても花を飾るのが難しいのです!(お持ちの方はこの気持ち、分かっていただけるはず...! )

画像8

まず最初に教わったのは、アアルトベースは水を入れた部分をどう美しく見せるかが大切で、楽しみどころだということ。そして、空間としてのバランスと、余白をどうとるかを意識してね、と。この時、岡倉天心の『茶の本』に書かれている以下の文章を思い出しました。

〝部屋というものの実質は、屋根や壁それ自体にではなく、屋根や壁に囲まれたからっぽの空間にある。(中略)作品のうちのなんらかを表現せず、空白のまま残しておくことによって、鑑賞者はその空白を自分流に補い、最終的に作品内容を仕上げる機会を与えられるのであり、偉大な傑作は、このようにして鑑賞者の注意をひきつけ、ついには、鑑賞者は自分が作品の一部になってしまったように思われてくるのである。”
出典:岡倉天心 (2005) 『新訳 茶の本』角川ソフィア文庫

建築とは柱や壁のことではなくそれらに囲まれた実態のない空虚のことであり、花を生けるという行為もまた花と花が切り取る空虚の総体なのだということ。そして、アアルトベースに花を飾ることはとても生け花的だなと日本とフィンランドの親和性を感じた瞬間でもありました。


画像9

フィンランドもそろそろ本格的に春の訪れを感じる頃だと思います。思い返される景色は、桜の木と白樺の木の組み合わせ。ひらひらと揺れ動く白樺の若葉と桜の花びら。光に透けて見える淡い緑色と桜色の美しさを恋しく思いながら、現地からの桜レポートが届くのを楽しみにしています。

スクリーンショット 2021-03-14 17.48.41

Instagram:@kake_yu
Twitter:@kake_yu