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LIBYA UPDATES: May 2020 Week 1 (5/1-7)


こんにちは🕊
リビア関連の主な動きを今週もまとめました。
今回は、パンデミックのなか紛争の続くリビアの医療現場の様子のほか、新型コロナの感染拡大が同国に与える影響についても整理してみました。

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これまでのリビア
リビアでは、2011年に40年続いたカダフィによる独裁体制が崩壊。その後、新たな政府樹立を巡り国が分断状態にある。
現在は首都トリポリを拠点し、国連の仲介で作られた国民合意政府 (以下GNA)と、東部の都市トブルクを拠点とする政府(以下HoR)、二つの「政府」が正当性を主張し合っている構図だ。
HoRとつながりを持つハフタル将軍率いる勢力は2019年4月、首都トリポリへの侵攻を開始。GNAに忠誠を誓う民兵組織などがこれに応戦し、軍事衝突へと発展した。 GNAにはトルコ、ハフタル勢力側にはUAE、ロシアなどがつき、軍事支援などを行っている。

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1. ハフタル「リビアを支配」宣言から1週間

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ハフタルは27日、自身の率いる民兵組織LNAが「人びとからの委任を受ける形」でリビアを支配することを宣言。30日には独自にラマダン期間中の停戦を公言した。

GNA政府はこれに対して「信頼できない」として、戦いを続ける見通しを発表した。

両勢力は3月中旬に一度、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて停戦に合意。だがハフタル勢力は停戦に直後の3月21日、市民の暮らす地域に対して爆撃を行ったことが報じられている。

ハフタル勢力は停戦期間中であったとしても、攻撃を受けた場合は報復を行う意向を明らかにしており、停戦は実現しない格好となった。


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市民が戦闘の被害に巻き込まれる状態も続いている。
トリポリのファルナージュ地区では1日朝、ハフタル勢力によるロケット砲が住宅に直撃。2名が死亡した。


さらに8日には、トリポリ中心部、イタリア・トルコ大使館近くでハフタル勢力による爆撃が起こり、市民少なくとも5人が死亡した。


これに対して、イタリア外務省はTwitterで声明を発表。ハフタル勢力を名指しで非難した。


英国大使館も大使館のTwitterを通して「明らかな軍事的標的はなく、国際法を軽視している」と非難。加害者については明記しなかった。


EUも8日、非難声明を出した。


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国連リビア特別ミッション(以下UNSMIL)は4月30日、2020年第1四半期の市民の犠牲に関するレポートを発表した。


UNSMILによると、2020年の第1四半期の市民の死者は64名。負傷者は67名。2019年の第4四半期より死者・負傷者数が45%増加したこととなる。

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出典: UNSMIL 2020


この期間に最も市民の死者・負傷者を生んだのはハフタル率いるLNA勢力。だがGNA勢力も市民の犠牲を生んでいる。

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出典: UNSMIL 2020


市民の死亡・負傷件数の7割以上が、地上での戦闘に巻き込まれたことによるものだという("Heavy weapons" と "Small arms fire"に該当)。

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出典: UNSMIL 2020


2. 新型コロナの感染拡大状況

新型コロナの感染拡大状況

リビアの新型コロナ感染者数は、7日(現地時間)時点で64人。先週から3名増えた。死者は1名増え、3名となった。


WHOのリビア代表エリザベス・ホフ氏は2日、「リビアはまだパンデミックの初期段階にあり、感染拡大のピークには達していない」と言及。「検査数が増えなければ、感染拡大の程度や地域ごとの拡大状況を確認することは不可能」とした。


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トリポリの病院で働くモハメド医師は、3人の新型コロナ感染者の対応に立ち会ってきた経験を振り返り「ほとんどの医療関係者は感染症の対応について全く訓練を受けていないため、みんなパニック状態に陥っている」と話す。「どうしたら良いか誰も分からないために、みんな勘を使い、自分たちが正しいと思うことをやるしかない」

医療装備の不足も問題だ。モハメド医師の働く病院ではN95マスクやゴーグルのほか、フェイスシールド、全身を覆う防護服の支給はないという。
「誰かの誕生日が来たら、その人のためにN95を探してプレゼントするんだ」


リビア政治のアナリストであり研究者のタレク・メゲリシ氏は「リビアの医療保険制度は新型コロナの流行以前より崩壊していた」と話す。

日常的に日用品の不足や停電が続くリビア。新型コロナの感染拡大により、人びとの怒りはますます腐敗した政府へと向かう可能性があるとメゲレシ氏は話す。
「これが良い方向へ向かえば、リビア国内でより良い状態へ協調が進むことにつながるかもしれない。だが悪い方向へ向かえば、更なる破壊やインフラの劣化、分裂につながってしまう可能性もある」


国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのハナン・サラー氏は、パンデミックのなか医療施設や医療従事者への攻撃が続くなど、GNAとハフタル両勢力ともに市民を戦闘から守ろうとする努力をしていないと指摘する。
さらに、こうした行為に対する責任が不問に付され続けていることも問題だという。

「明らかなことは、戦争を続ける勢力がリビアのわずかに機能が残っている医療や公共保健システムを破壊し続ける限りは、いくらマスクがあっても役に立たないということだ


3. 国際社会の動向

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ロシアの民間軍事会社 (PMC) ワグナー・グループが800人から1,200人の傭兵をリビアのハフタル勢力に送っていると、国連で提出されたレポートが結論づけたという。ロイター通信の取材により6日に判明した。

ワグナー・グループは、ロシアのプーチン大統領と強いつながりを持つとされているPMC。以前より同社の傭兵が数千人規模でリビアの戦闘に参加していることが報じられてきた。
同国政府はハフタル勢力への関与を否定してきたが、昨年10月にはハフタルとモスクワで会談を行うなどしている。

同レポートによると、ハフタル勢力側としてシリア人の傭兵も戦闘に参加しているとのこと。

昨年末に出された国連のレポートでも、リビアの戦闘に外国の武装勢力が関与していることには言及していたが、その際にはワグナーグループについては触れていなかったという。

これに対して米国は、ロシアがリビアの紛争を悪化させていると非難。


GNA側を支援するトルコも、シリア人の傭兵をリビアに送り込んでいることが分かっている。リビアで実質、シリア人同士が闘っている格好だ


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トルコとハフタル勢力を支援するUAEとの間では、リビアを巡る批判合戦が発展している。

UAEは30日、トルコがGNA側にシリアからの戦闘員を送っていると非難。


これに応じる形でトルコ政府は30日、UAEがテロリストやクーデター首謀者を国際法を破る形で支援していると批判「返し」。その他にも同国が「ソマリアのアルシャバブやイエメンの分離主義者を支援している」と主張した。


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今週は、トリポリの中心部の写真で締めることにします。

右手に見えるのは「赤の城 (Red Castle)」。その左に見える2本の塔の辺りは「殉教者広場 (Martyr's Square)」と呼ばれる広場です。
奥に上がっている煙は、ミサイル砲によるものとのことです。


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