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悪女か聖女か?春の祭典ホーリーとホーリカー・ダハン

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ホーリー(Holi)という日ほど、インドに住んだことがある日本人の間で印象が変わる日はないだろう。いや、日本人だけでなく、インド人の中にも楽しみにしている人もいれば、そうでない人もいる。あまりにも有名なホーリーは、ヒンドゥー教の春の到来を祝う一日という大儀よりも、色水や色粉を掛け合い、酒(中には大麻ジュースも)に酔ってハメをはしゃいで大騒ぎする日というイメージが強い。
ヒンドゥー教の祭りといっても、参加している人はヒンドゥー教だけにとどまらない。かく言う私は、ホーリーを「楽しみにしている」派だ。


騒々しさの前の厳かさは早朝に

今回は、色の祭典と呼ばれるホーリーの違った一面を紹介しようと思う。ホーリーが近付くと、近所の掲示板にホーリーのイベント予告が発表された。

最初のイベントに、「朝4時30分より準備開始 ホーリカー・ダハン(Holika Dahan)」 をみつけた。夜が明ける前に始まるこのホーリカー・ダハン。果たして、どのくらいの人が集まるのか半信半疑だったが、目覚まし時計をセットして眠ることにした。

ところで、ホーリカーとは何か?現在、ホーリーと呼ばれているが、元々はホーリカーという一人の女性の名前にちなんでいる。ホーリカーは女性といっても、人間ではない。ここでホーリカーにまつわるお話を簡単に紹介しよう。


悪魔の娘として描かれるホーリカー

最強の悪魔ヒラニャカシプ王(Hiranyakaship)の娘ホーリカーは、炎に巻かれても燃えることがないという力を持っていました。

ヒラニャカシプ王は自身の力に溺れ、次第に人々は自分を神として讃えるべきだと思うようになっていました。しかし、ヒラニャカシプ王の息子であるプラハラード(Prahlad)はそれに反対し、ヴィシュヌ神への信仰心を絶つことはありませんでした。

ヒラニャカシプ王はそのことに怒り、プラハラードを殺そうと試みましたが、いつも失敗していました。そこで、ヒラニャカシプ王は娘のホーリカーを呼び寄せ、彼女とプラハラードを焚き木の上に座らせて火を放つという作戦を思いつきます。これで、プラハラードは死に、ホーリカーは焼かれることなく出てくるだろうと目論んでいました。

ところが、実際に火を放ったところ、プラハラードはヴィシュヌ神の加護により火傷ひとつことなく平然としていました。一方、ホーリカーはそのまま焼け死んでしまいました。

実は、ホーリカーが焼け死なないためには、ホーリカー一人だけが炎の中にいなければならないという条件があったのです。このことから、悪魔の滅びと神の勝利を祝う日として、ホーリカー・ダハンが行われるようになりました。


ホーリカーダハンの儀式とは

火をくべる© 2012 Liem

さて、まだ星が瞬く午前4時30分。春といえども夜明け前は相当冷える。

広場に行くと、すでに多くの人がココナッツや米などの供物をもって集まっている。

中には、牛糞を藁紐で通したもの(ホーリカーが炎の中でも燃えないかを確認する際、実際に牛糞を投げ入れた炎で練習したという話もある)や、魔女のほうきのような竹蔗を持っている人もいる。

皆、すっきりと身支度を整え、子供たちは眠そうに目を擦っている。人々の輪の中心には、高く詰まれた焚き木が準備されている。

僧侶が、儀式の手順を踏みながら火を放ち、人々は僧侶の指示で供物を炎に捧げながら火の回りをぐるぐると廻る。まさに、目の前で悪女ホーリカーが焼かれるシーンが再現されているのだ。


優しい娘として語り継がれるホーリカー

しかし、ホーリカーの死には、もうひとつ異なる説がある。ホーリカー自身に特殊な力が与えられていたわけではなく、彼女の着ている服に燃えないという力が宿っており、燃え盛る炎の中で、ホーリカーがプラハラードを救うために自ら服をかけて救ったという説だ。

つまり、ホーリカーは優しい悪魔の女性だったという話もある。


勢いを増す炎と煙© 2012 Liem

炎は夜明け前の空の下で勢いを増し、目にしみる煙をもうもうと上げて燃え続ける。炎の勢いが弱まってくると、皆、灰や炭をとって自宅に持ち帰る。

この灰には、不吉なものを遠ざける力が宿っており、人々はこの灰を体に塗るとのことだった。子供たちにとっては、この有難い粉よりも、数時間後に迫った色粉の方が重要なのだろうが…。

ホーリーのお祝いは地域色に溢れている!

私自身、何度もホーリーを祝ってきた。しかし、毎回祝う場所が変わっているので、いつもホーリーへの印象が変わっている。ホーリーは、「どんな人」と「どこで」迎えるかによって、大きく異なってくるからだ。

たとえば、今回紹介したホーリカー・ダハンは、インド南部では盛んではない。また、コルカタは水も豊富なため、色粉よりも色水遊びに興じる傾向がある。近年、都市部では水不足を懸念して、ホーリーの水遊びを控えるよう呼びかける報道もあるが、コルカタは当てはまらないようだ。

コルカタのホーリーは水分多め© 2012 Liem

その他にも、ラトゥ・マール・ホーリー(Lath Mar Holi)という一風変わったホーリーが行われる地域がある。その名のとおり「棒叩きのホーリー」といって、村の女性が男性を棒で叩くといった儀式がある。

クリシュナ神が恋人のラーダをからかった際、ラーダの友人がクリシュナ神を棒で叩いて追い払ったという言い伝えから、始まったとされている。主に、ウッタル・プラデーシュ州やビハール州の一部でみられるそうだ。根気よく探してみれば、コルカタでもこの儀式をみることができるだろう。

ホーリーを安全に楽しめる場所は…

ホーリーは最もエネルギッシュな一日が過ごせる日。もし、この日をインドで過ごす機会があれば、是非参加して欲しい。「見てみたいけど、色をつけられるのは困る」という人は、年長者の隣の席がベストだ。

大人も子供も一緒に楽しく!© 2012 Liem


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