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専門学校はこれからどうする?愛をもって叱咤激励する。

専門学校数:1998年・3,020校をピークに2022年・2,721校→299校消滅。
在籍数:1993年・701,649人をピークに2022年・581,522人→約12万人減少。専門学校の広報担当として35年間フロントに立ってきましたが、いよいよ専門学校はアレが近いかもしれません。まず第一弾目として専門学校をとりまく脅威、弱点を書いてみました。少しでも専門学校マーケティングの参考になれば幸いです。※主観で述べているので、異論がある方はいらっしゃると思います。予めご賢察のうえ、お読みいただければ幸いです。

文部科学省「学校基本調査」より筆者が作成
◎最新情報では2023年の専門学校数はさらに減少し、2,693校となり1998年ピーク年から327校が消滅しました。


❶言わずと知れた18歳人口の激減

2022年の18歳人口は1,121,285人、その親世代が18歳だった頃の1993年に比べて約86万人が減少しています。また、2022年の出生数はなんと777,747人なので、2022年18歳人口の69%以下になります。激減した18歳人口をめぐって入学生獲得競争のなか、今のところ増加傾向にある大学進学者数を横目に専門学校入学数は令和2年以降3年連続で減少しています。ご存じのとおり、将来的にも日本の若年者人口の減少は回復せず、市場環境は厳しさ増すことから専門学校は斜陽産業だと言えます。※下記表は、高3生(18歳人口ではない)を、子世代とその親世代で比較した表です。

高校3年生(全日・定時)の進路に関するデータ:「学校基本調査」から筆者が作成。

❷年に一度だけの収入に賭ける

「進学」は一生のうち1回だけ購入する″商品″です。なので、年に1度の募集活動に失敗し入学生が減ると、専門学校の運営には大きなダメージとなります。専門学校は文部科学省の認可ではないので、大学のような国の補助金はなく、収入は入学生・在学生の学納金のみです。小売業なら、同じお客さんに再来店を促して商品を複数回購入してもらう戦略や、品ぞろえを変更して別セグメントのお客さんへのアプローチ戦略も検討できますが、専門学校という業態の弱点として、同一人物の複数回入学が望めない、対象者セグメントが限定される、入学以外の代替え商品が無いこと等が挙げられます。大学も同様ですが、補助金に加え、専門学校より就学年数が長く、大学院もあり、また付随事業収入等もあるので、大抵の大学には専門学校を上回る資金力があります。専門学校から見れば大学は「金持ち喧嘩せず」の余裕が見えます。※大学でも定員割れにより経営が悪化している大学は増えています。2040年までに大学入学者は2割分減ることが予測され、自主的縮小に対して補助金を増額することが文科省において検討されているとのことです。


❸プロモーション活動への依存体質

高3生は卒業していくので、募集対象の高3生は毎年入れ代わります。大抵の専門学校は認知度が低く、学校の存在を知ってもらうことから募集活動が始まります。進学雑誌掲載、業者による相談会への参画、SNS広告配信等からはじまりオーキャン誘導等々。危惧するのが、このようなプロモーション活動を頑張れば入学数は増えるというプロモーション依存体質から未だに脱出できていない専門学校の存在です。開校当初からプロモーション頼りの体質なので、毎年ソワソワした専門学校は割と多く存在すると思います。高校生が見ているのは、広告ツールの出来栄えや営業努力ではなく、教育実践とその結果、施設設備、先輩学生、校風等の学校品質です。それありきのプロモ活動であるはずです。開校から何年も経過しているのに、募集数字の対策や皮算用ばかり話し合っている場合ではないと思います。それよりも、好ましい学びの環境の提供や教育サービス向上についてこそ、優先順位高く積極的に議論し実行しないと、ずっと旧態のままの魅力が薄い学校になり、競争力が低下していきます。

➌-2プロモーション活動の先祖返りを繰り返す

プロモーションに頼っている体質であるにもかかわらず、規模が大・中の専門学校においてはプロモ担当者(広報)の入れ替えがけっこうあり、畑違いの教務部からの異動やマーケティングに疎い管理職の就任等があったりします。そうなると、それまで積み上げてきたせっかくのノウハウがゼロクリアになったりします。データの分析力やプロジェクトの完成度が低下したり、効果が薄く切り捨てたはずの戦略・手法が担当者が代わるごとに新アイディアとして繰り返される"プロモの先祖返り"があったりと、防げるはずの失敗の再発や先取性やスピード面での欠如等、不合理が生じたりします。古いものがいいとか新しいものがいいとかではなく、効果があるもの・価値があるもの・弊害や無駄が少ないものを見極める視点と・先進的なチャレンジや工夫が継続できる人事体制を恒常的に備え、知識を繋いでいきましょう。


❹不慣れなマーチャンダイジング(商品計画)

学科をよくいじる専門学校があります。それも、大した調査もせず、季節行事のように、新設学科やマイナーチェンジの計画をルーティン的に。それに従い、教室のリフォームや新たな教員の採用を図り、結果、各学科間の入学数のみ変動しただけで全体入学数は前年とほぼ変わらなかった。ということを懲りずに繰り返している学校があります。流通業界ではマーチャンダイジングは重要度の高い中核的活動ですが、専門学校では、緻密な調査に基づく成功率の高い商品計画が実行できているとは言い難く、都度都度の思いつき感が否めません。スクラップ&ビルドについての思い入れは旺盛なのに、それを上手くPDSCができる専門部署や担当を持つ学校は多くないのではないでしょうか。でももうそろそろ、ビルドへの余裕が持てない時代が迫ってきています。


❺教員の疲弊と情熱の低下=授業準備が後回しの本末転倒

入試で不合格者を出さない・退学者を出さないことを方針にしている学校は、教員が疲弊しています。不合格者を出さないということは、高校からの「最終受け皿」ということなので、授業よりも学生指導の方に熱を吸い取られることになります。専門学校は担任制が多いので、学生や保護者とのやりとりをはじめ、欠席や退学の対応、その経緯を管理職が読むためだけの書類作成や報告業務にかなりの時間をとられます。また、カリキュラムの作成やシラバスづくり、学校行事の運営、職業実践等の行政関連の書類作成・申請、長期休み中には研修・会議・・・等々に忙殺されて、授業準備ができないという本末転倒の状況が生じています。さらに年に何回も開催のオーキャンでの体験授業や参加者フォロー、高校内での相談会、クラス学生の就職支援などもあります。専門学校の教員は元々その専門分野の実務経験者です。教育や生活指導、事務処理や営業のプロではいので、授業以外の業務が重荷で離職する人を何人も見てきました。

授業という生命線が後回しになる本末転倒現象

また、退職しないと求人しないという人材計画の学校では、教職員の高齢化問題があります。カリキュラムや授業内容のトレンド性の劣化とかの課題もありますが、それよりも、ある期間でたくさんの教員が退職するような年齢バランスの学校は、18歳人口の減少による廃校よりも、教員不足による自滅に注意すべきだと思います。


❻留学生は救世主か?

日本人が集まらないのなら留学生で補填を図ろうとする学校が増えてきました。N1・N2取得の日本語が堪能な留学生は有名大や都市部の学校に留学を希望する傾向があると思われ、それ以外の学校では、日本語があまり分からない留学生への専門教育と、文化が違う留学生への生活サポートという難題が生じます。その割には「技術・人文知識・国際業務」に絡む限定学科設置の壁や、留学生の学納金を日本人の学納金より値下げしている学校もあるので、コスパとしては非効率です。アルバイトをして母国に送金する留学生も居り、賃金が安く円安の日本に魅力を感じているかどうかも疑問です。このような経済状態が続けば、日本は留学先から外されるかもしれません。また特定技能の拡張も専門学校にとってはネガティブ要素になるかもしれません。あてにしていた留学生の入学がコロナ禍で滞ったというような脆弱性も秘めています。専門学校にとっては、欠くことができない新セグメントですが、留学生を受け入れる学校ならではの様々な課題がありますが、これらを乗り越えられた学校は留学生で席が埋まるということになります。将来的には日本人よりも留学生の方が多く在籍する専門学校が増えていくかもしれません。


❼「大学全入」のインパクト、入学数と層の変化

進学先には、大学、短大、専門学校、専門職大学、専門職短大の5つの高等教育機関があります。そのうち、大学進学率だけは右肩上がりで55%を超えています。専門学校はずっと横ばいの17%前後です。ずっと横ばいということは、今後の伸びが期待できず、一定の需要のみということなので、18歳人口減少に比例して人数が減少するということです。2022年高3生の専門学校進学率は、その親世代が高校3年生の1993年に比べ0.1%は増えたものの、人数でいうと約12万4千人が減少しています。一方、大学進学率は、親世代が高3時の2.7倍に上昇し、「率」だけでなく「人数」も親世代より約19万人の増加です。「大学全入」とは、全国の大学入学定員(歩留まり勘案の余剰合格数含む)よりも、全国の大学志望者数のほうが少ないので、倍率が高い人気大学を選ばなければどこかの大学に合格できるという環境です。こうなると従来の専門学校進学層が大学進学へ吸収されることにもなり、人学数での影響はもとより、入学生の層(出身高校偏差値等)にも変化が生じています。

文科省による、経営困難な私立大の撤退支援補助も拡充されることに

❽国の「新就学支援制度」による影響。

2020年から国の新就学支援制度として、一定の収入未満の世帯の高校生を対象に、生活費と学納金減免の奨学金が併せて返済不要で支給されるようになりました。また、2024年より、世帯収入600万円以下で、子ども3人以上の多子世帯または理工農系学部進学予定者を対象に拡大されます。世帯収入600万円以下の世帯は地方ではけっこう多いはずです。大学と専門学校とでは進学目的が異なりますが、大学希望だったけど経済的な理由から、短期間なので学費支出が安くて済む専門学校に変更する消極的選択の高校生もいます。その高校生たちの大学進学への道が少しでも広がったことで専門学校を選択しなくてもよくなる高校生が増える分、専門学校への減少が見込まれます。


❾ライバル「高校就職」と実業高校の進学熱でも軽視?

まだ専門学校の認知度が低かった30年以上前、工業高校の先生から「就職環境が良いと専門学校希望者は減る・悪いと増える」ということ教えてもらったことがあります。当時の実業高校は、就職したいから実業高校に通っている人がほとんどで、就職を標榜する専門学校と目的は同じなのでそれは納得できるアドバイスでした。地元の就職先では専門学校と高校が競合すると言われたこともあります。専門学校の競合先として、自校以外の専門学校、周辺の大学や短大を想定しがちですが、高校就職は強力なライバルです。昔から「専門学校は就職の学校」という訴求を行ってきました。就職環境の好転は、高校にも大学にも平等です。高校新卒者への求人倍率が2018年に2倍を超え、2023年には3.01倍と好調です。就職希望者が減少したからということもありますが、大学全入と同じように、就職しようと思えば就職が可能です。とすると、専門学校に来てもらうためには高校での就職よりも専門学校の就職の方が魅力的である必要があります。また、専門学校より先に少子化の影響が出ている実業高校にとっては、志願者の多い普通科高校への対抗策としてや、大学入試の多様化、もちろん本人の希望も含め、有名企業への就職と有名大学進学の実現を目標とする高校が増えたような気がします。専門学校はというと、誰でも受け入れる便利さがあだとなって軽く見られ、注目されない置き去りのポジション感があります。専門学校の秋季の募集対策で、就職試験不合格高校生へのアプローチを画策しがちですが、複数回挑戦できる求人倍率や学納金等の経済的理由がたちはだかります。専門学校希望から就職への変更はいますが、就職希望から専門学校への進路変更は期待薄だと思います。


❿高校時に将来のシゴトを決めるハードル「進学率17%の壁」

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