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連載:「新書こそが教養!」【第65回】『日独伊三国同盟』

2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

独裁国家と同盟を結ぶ愚行!

比較文化論の講義中、第1次世界大戦の「戦勝記念パレード」の映像を見ていた受講生が「あっ、日章旗だ!」と叫んだ。再生してみると、たしかに無数の多国籍旗の中に日章旗が幾つか映っている。アジアから参戦した日本は、インド洋や地中海で連合国側の船団を防衛し、非常に高く評価された。1919年7月19日時点では、日章旗がロンドン市内に、はためいていたのである!

1920年に「国際連盟」が発足した際、日本はイギリス・フランス・イタリアと並ぶ「常任理事国」に選出された。1928年、日本は戦争が「違法」であることを認め、「戦争放棄」を誓う「パリ不戦条約」(64カ国参加)にも調印している。もし当時の日本の指導層が軍部の独走を許さず、連合国との国際協調路線を歩んでいたら、今頃は超大国に成熟できていたかもしれない。

ところが、1931年に軍部が暴走して「満州事変」を起こし、日本は世界で最初に「パリ不戦条約」を破った汚名国となってしまう。当時の日本が中国と東南アジアに侵出し、アメリカとの開戦にまで踏み切った戦略の背景には、破竹の勢いで1940年にフランスを手中に収めたドイツが、イギリスも占領し、いずれはヨーロッパ全域を制覇するに違いないという思い込みがあった。

つまり、日本の軍事戦略的な基盤は、1940年に調印した「日独伊三国同盟」にあったのである。ところが、同盟国のイタリアは1943年9月に早々と降伏し、ドイツも1944年6月の連合軍によるノルマンディ上陸以降は敗色が濃厚になっている。それにもかかわらず、日本の「大本営」は優柔不断な見通しのまま降伏までに1年以上を費やし、無謀な特攻やバンザイ攻撃を繰り返したうえ、120万人以上の日本人兵士を戦場に置き去りにして餓死させた。

歴史を振り返ると明白なのは、「独裁者」は巨大な権力を掌握すればするほど「不安と恐怖」に基づく「認知バイアス」に強く左右されるようになり、有為な人物を粛清し、無能なイエスマンばかりを周囲に残し、最終的に、とても理性的とは思えないバカげた行動を取って無数の犠牲者を生み出すことだ。要するに、ヒトラーとムッソリーニに支配される独裁国家と締結した「日独伊三国同盟」こそが、日本を破滅に向かわせた根本の愚行だったわけである。

本書の著者・大木毅氏は、1961年生まれ。立教大学文学部卒業後、同大学大学院文学研究科修了。ボン大学留学、千葉大学非常勤講師、防衛省防衛研究所講師などを経て、現在は作家。専門は現代史・ドイツ史。著書に『独ソ戦』(岩波新書)や『「砂漠の狐」ロンメル』(角川新書)などがある。

さて、本書には「根拠なき確信」と「無責任」の果てに「日独伊三国同盟」が締結されるまでの経緯が綿密に描写されているが、その中でも、とくに注目すべきなのが、幼少期からドイツを崇拝する父親に育てられ、「ナチス以上の国家社会主義者」と呼ばれた当時の駐独武官・大島浩大佐の行動である。

本書で最も驚かされたのは、1937年4月、日本の参謀本部の訓令に基づく「軍事協定案」をドイツに引き渡す際、大島が「ドイツないし日本の利益に根本的にかかわる国際政治情勢の変化が生じた場合、ただちに両軍の協議会が開催される」という一文を勝手に付け加えたことだ。この一文によって対ソ連のはずだった軍事同盟が無制限に拡大解釈されるようになり、日本とナチス・ドイツは運命共同体になってしまったのである。この種の軍人の「独断専行」の数々が日本を破滅に追い込んでいった事実を忘れてはならない!

本書のハイライト

外国を崇拝し、その国の人間になってしまったかのような言動をなすもの。国家が崩壊することなどないとたかをくくり、おのが権力の維持だけをはかるもの。自らの構想の雄大さを誇るばかりで、足下を見ず、他者をまきこんで破滅していくもの。彼らのようなひとびとは、戦前の日本のみならず、読者諸氏のまわりにもいるのではないだろうか。(p. 9)

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