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2023年ことしのおかず大賞

 ご来賓の皆さま――

 本日は年末のお忙しい中、また多数の良質な記事がある中で、2023年ことしのおかず大賞授賞式へお越しいただき、心より深く御礼申し上げます。

 司会進行は2022年に引き続き、私、タベル・ノ・スキーが務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 ことしのおかず大賞は、本ページの著者でありまするしあ昌が、2023年に食しましたおかずの中から、もっとも印象に残った逸品に贈られる賞です。独断と偏見のみで選出されたこの賞に、名誉なんていうものは一切ございません。よって賞典がないことも、言わずもがなでしょう。

 本賞の目的は、1年間365日、貴重な命をいただきながら生かされていることを心に刻み、またこの受賞式を通して、命を生み出す母なる地球、食材を育ててくれる生産者、私たちのもとへ食材を届けてくれる運搬業者、心を込めて調理してくれる料理人、そして食に関わるその他すべての方々に対して日頃の感謝を表明し、さらには今回ご来賓の方々と共に、互いの命、すでに旅立たれた命、これからやって来る命を祝福することにあります。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、大賞の発表に参りたいと存じます。2023年ことしのおかず大賞は――

(だだだだだだだだ~~~~~~だん!)

豆の葉の漬け物

 です。

(ぱちぱちぱち~!ひゅーひゅー。どんどん。ぱふはぷ~)

 さて、こちらのおかずでございますが、ご存知でない方もいらっしゃるかと存じますので、ご説明差し上げます。

 韓国には、コン二ㇷ゚ジャンアチ(콩잎장아찌)と呼ばれる料理がございます。コン(콩)は豆、イㇷ゚(잎)は葉、ジャンアチ(장아찌)は漬け物という意味で、日本語に訳すと「豆の葉の漬け物」になります。

 漬け物という名の通り、キムチのように長期間寝かせて食べるのが特徴の発酵食品で、食材が豊富な沿岸地域よりも内陸部で発達しました。主に慶尚道(경상도)地域にて食されており、現地では「コンニパリ(콩니파리)」という名でも親しまれています。

 それではここで、唯一の審査委員であり、審査委員長でもあり、さらには主催者でもありまするしあ昌から預かりました受賞理由を、僭越ながら代読させていただきます。

「お噂はかねがね伺っておりました。しかし、ソウルではあまり食されない食材であること、また、近年は慶尚道でも入手するのが難しくなったと耳にしていたこともあり、あなたを食す日が来るとは想像もしておりませんでした。

 それがある日、韓国人の旦那がネットで注文していたのです。それはそれは、心弾む出逢いでございました。

 食してビックリ。

 あなたは想像していたものと全く違いました。エゴマの葉っぱの漬け物に近いだろうと思っていたら、見事に裏切られたのです。

 特にその食感は、なんとまあ、葉っぱそのもの

 子どもの頃に近所のあぜ道を歩きながら想像力を膨らませた、そのままの食感です。ザ・葉っぱ。ザ・繊維。あまり良い表現ではないのは重々承知しておりますが、それでも敢えて例えるならば、朝露で湿った落ち葉でした。

 それが、タレと発酵の力でここまでなるものなのですね。

 正直なところ、美味しいかと訊かれれば、『味付けが美味しい』と答えるだけで精いっぱい。豆の葉の香りはというと、分かるような、分からないような・・・。そりゃそうです、初めて食す野菜なのですから。自分が感じている少し独特の香りがタレから来ているのか、それとも豆の葉から来ているのかを判断するのは非常に困難でした。

 それでも、ご飯との相性は抜群。お米の甘さを強く感じました。そして、食べれば食べるほど、なぜか癖になるのです。

 誠に奇妙な、唯一無二の逸品。

 あなたのような料理を生み出した先人たちの努力と知恵には驚くばかりですし、その恩恵を享受できることに関しては、感謝してもしきれません。

 その功績を称え、ここに表彰いたします。」

(ぱちぱちぱち~)

 さてここで、今回受賞されましたコンニㇷ゚ジャンアチ様よりご挨拶を賜りたいところではございすが、皆さまもご存じの通り、コンニㇷ゚ジャンアチ様は料理でいらっしゃいますのでお話しすることができません。食されるだけの運命です。

 非常に残念ではございますが、しかし、もしお気持ちを伺うことができるのであれば、「湿った落ち葉と言われるほどの食材を絶品にまで作り上げた先人たちの努力と知恵を、より多くの方々に感じてほしい」そう仰るに違いないと、恐縮ではございますが、推測する次第でございます。

 以上を持ちまして、2023年ことしのおかず大賞授賞式は終了させていただきます。

 来年の受賞式に関しましては、どんなレストランのシェフよりも気まぐれな主催者でございますので確定ではない旨、予めご了承いただけますと幸甚です。

 それでは最後になりますが、皆さま、どうか素敵な年末年始をお過ごしください。

 なお2024年にお越しいただいた方におかれましては、謹んで新春のお慶びを申し上げますと共に、本年も皆さまにとってびゅんびゅん天に昇っちゃうくらいの喜ばしい出来事が続く一年となりますようお祈り申し上げます。


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