【公開エントラッセン(和製独)】😅#医龍🤣 リンパ芽球性リンパ腫・白血病

遠い遠い異国でのできごと。ここに書く内容が、事実かフィクションかは、読者の皆様のご判断にお任せします。


私はICUから一般病棟に移った。そして、普段はロンドン在住の同年代くらいの女性と二人部屋で和気あいあいと過ごしていた。

彼女は検査入院中だった。

別の科の受診から帰って来た彼女は、「扁桃腺膿瘍」というのが最終的な診断だと話してくれた。

この時、「扁桃腺膿瘍の手術って大変なの? あなたは経験がある?」と質問された。

私は扁桃腺膿瘍で彼女の症状の全てを説明するのを疑問に思いつつも、まぁ、それが最終的な診断名なら…… と安堵しながら答えた。「扁桃腺膿瘍なら、私も経験がある、結構簡単な手術だよ。ただ、口から膿瘍を切るだけだよ。よかったね。」と心底安堵しながら言ってしまった。

翌朝の朝回診で、教授代役の次期教授は私のところに来て、色々話し、相部屋のドア側のベッドの彼女を完全に無視して出ていこうとした。

当然、彼女は“教授”を引き止め、診断された病気の詳細や今後の治療について、色々と質問をした。

次期教授は一言「あなたは脳外科の患者だから、もうここでは診ない。今日退院だから。昼食前に帰っていい。さようなら。」と無感情に顔も患者に向けずに言い捨てるように言い放ち、そのままドアめがけて歩き出す。

後方の部下が、次期教授を引き止め、「その言い方はダメです。ここは丁寧に。」と注意を入れる。

次期教授は「そうなの? じゃぁ、なんて言えばいいの? 扁桃体腫瘍は脳外科で、もう転科したけど?」と部屋中に聞こえる声で部下に尋ねる。

この時点では、私も青ざめている。扁桃腺膿瘍は口を開けた時に見える喉の両脇にある組織で、結構切除する人も多い。扁桃腺炎とかの、あの組織。日帰り手術が一般的だ。

対して、扁桃体は脳内だ。次元が違う手術になる。しかも、膿瘍じゃなくて腫瘍?  病理が分からなければ、厳密には良性か悪性かも判明していない。彼女に、あたかも実習生でもできる簡単な手術かのように言ってしまった。未知を探る心構えで、実際の手術のことを聞くのと、具体的な簡単な処置が思い描かれている状態で全く別の処置の話しを聞くのとでは、ショックの大きさが全く異なるだろう。私の発言のせいで、彼女は死角から大きな打撃を受けてしまうではないか!

なんと、彼女に申し訳ないことを言ってしまったことか。

しかも、この突き放し方で言われたら、ショックで心が割れる前処置のように、私の言葉が凍結効果を帯びる。そこに重症度が随分と異なって聞こえる病名を聞かされ、実質開頭手術をすると言ったも同然のフレーズが強い衝撃として弾丸のように放たれる。せめて、それを安心感のあってプライベートな一室で、温かみのある口調で目を見ながら説明されれば、緩衝になる。しかし、次期教授の意図しない冷徹な態度は、割れかけた心の彼女の後頭部を鷲掴みにして、氷点下の冷水に顔をいきなりぶち込まれるかのような衝撃だろう。

私は、「脳外科に転科するからといって、なんだよその態度は! この次期教授、絶対にASDだな。こんなにも若くしてこの分野で伸びてるのは、ASDの長所からか?…… 部下、ナイスフォローだけど、多分こりゃぁ相部屋の彼女に相当な心労だろうなぁ…… あ〜、扁桃腺膿瘍は私もできるくらい簡単な手技だなんて言ってなければ、せめてここまでショックを受けずに済んだだろうにー😭😭😭」と憤慨と分析と自責が混同している。

次期教授との会話中に、彼女の目からは涙が溢れ出した。

そうだよね……

そして、泣いていることを謝り続けている。

この時、私の叔母も同席していて、「親切心で慰めたつもりが、完全に裏目に出たわね。もう、助言はしちゃダメよ。」と……

たしかに、自分が主治医じゃない限り、助言はすべきではない。相手に聞かれても、バーでの会話程度に信頼できないただの会話だと理解してもらって発言するか、そもそも発言しないのがおそらくは正しい行動だ。(これ、ちゃんと肝に銘じないとだなぁ、本当。)

彼女は、その日の昼頃退院した。後日、「短髪の髪を自分で染めようとしたら、オレンジ色になちゃってしっぱ〜い」と可愛い写真をオペ前に送ってくれた。

色々あったけど、その後も仲良くしていたんだけどな。

病気の残酷さは、年齢も何もかも厭わない。

今を大切に生きよう!


追記:最近、私自身もASDがあるかという疑惑を抱く時がある。相手の感情の想像や言葉の目的がよく分からない時がある。周囲に聞くと、違うんじゃない? と言われることも多いけど、ただ知らないことや不慣れなことがあるからかな? 文化や経験の差? 普段の関わり方の差? ま、気にしなくていい気もする。

そして、この次期教授の態度は、別に珍しいことじゃない。悪意で無遠慮でデリカシーのないことを、態度悪く言っているつもりではないだろう。それでも、患者にとっては命運を分けることが、医者からしたら日常的によくある些細なことだったりしてね。立場が違えば、感じ方や相手への配慮や相手の心情の想像も違うだろう。

知人から「胆石でした」と我が家に連絡が来て、私も母も、ファーストリアクションは「よかったね~😍」だった。何故ならば、「膵癌じゃなくて、胆石でよかった。切れば完治だよ」と考える。しかし、胆石になった本人からしたら、「よくなんかないよ!健康が一番だ。胆石になんかなりたくなかった。」と考える。

#コミュニケーション って難しいね~

今を大切に生きよう!

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