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都内の出版社で働くアラサー会社員。読んだもの記録用(予定)。朝井リョウがいちばん好き。

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    読んだもの記録

記事一覧

固有名詞の鬱(この部屋から東京タワーは永遠に見えない/麻布競馬場)

Twitterの人気者、麻布競馬場(@63cities)の小説をまとめた本。 いつしか彼の短編小説がバズっていて、センスのある文章を書く人だなぁと感心してからというもの、しばら…

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3日前

実在(存在のすべてを/塩田武士)

神奈川県で起きた二児同時誘拐事件。 警察の助けがあったにも関わらず身代金の受け渡しに失敗した方の4歳の子供・亮は、連れ去られたまま帰ってこなかった。 ところが3年…

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11日前
1

生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

人生は4000週間しかない。効率化ツールや時短家電で生産性を上げれば幸福度は上がるかというと、そうではない。生産性は罠であるー たまたま立て続けに読んだ『DIE WITH Z…

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2週間前
3

記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

人生でいちばん大切なのは、思い出をつくることだ。 だから自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまずお金を使おう。また、人生の充実度を高めるのは、”そ…

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1か月前
4

自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

高卒で就職、営業マンとして朝から夜中まで死に物狂いで働き続け、会社でそれなりの地位を得たものの鬱になりかけ、40歳を過ぎて脱サラ。本当にやりたいことは何かと自問…

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1か月前
4

信じる(星の子/今村夏子)

※ネタバレあり※ 宗教2世の子どもを描いた小説。芦田愛菜主演の同タイトル映画を先に観て、後から今村夏子原作だったと知り読んでみた。 赤ちゃんの頃から体が弱く、乳…

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1か月前
4

普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

タイトルのまま、50歳で東大に合格し、本当に入学した主婦の勉強ノウハウが書かれた本。受験に関係のない社会人にも役に立つ!と言われ手に取ったが、読み終わって「これは…

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1か月前
7

戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

私は投資歴10年を迎えるが、ここ数年最もホットな半導体という分野についてあまりにも知らなすぎる…と思っていた矢先、これさえ読めば歴史が全部わかると聞いて手に取っ…

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2か月前
2

私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

クィア・スタディーズの専門家・教授であり自身もゲイである森山氏と、以前ここに書いた『結婚の奴』の著者であり、トランス女性である能町氏の「性と身体をめぐるクィアな…

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2か月前
4

許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

※ネタバレ含みます※ 5人の連続した自殺には、ある共通点があった。 それは遺体のどこかに「暃」というタトゥーシールが貼られているというもの。この「暃」という漢字…

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2か月前

抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

2019年最も売れたビジネス書らしい。 SHOWROOMの前田社長、そうえいば最近見ないな。SHOWROOMはいまどうなっているのだろう?と思い調べたら、なかなかの赤字決算続き…

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3か月前
15

腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

1年ちょっと前、健康診断のついでに受けた子宮頸がんの検診で、子宮筋腫があると言われた。 症状がなかったので数ヶ月は経過観察をしていたが、筋腫は生理のたびに大きく…

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3か月前
3

言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

早稲田大学探検部出身の作家が、25の言語を学ぶに至る過程を記したノンフィクション。著者は言語オタクではなく、「コンゴの幻獣を探す」「アヘンケシ栽培をする」といっ…

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3か月前
22

ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)

ストーリーテリング(物語化)のおかげで、文明は発達した。物語には人の思考と行動を大い変える力があるが、ほとんどの人はその影響力に無自覚で「自分は物語の語り手にな…

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4か月前
4

雑誌のポテンシャル(「若者の読書離れ」というウソ/飯田一史)

子どもの「読書離れ」は、実は過去の話である。 本離れが進んだのは1980年〜90年代のことで、官民が連携した読書推進運動のおかげで2000年代にはV字回復を遂げた…

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4か月前
3

早押しという競技(君のクイズ/小川哲)

※ネタバレあり※ 優勝賞金1千万円、早押しクイズ界のM-1的な番組「第1回Q-1グランプリ」に出場した主人公のクイズオタク・三島。最終決戦まで勝ち進み、イケメン天才タ…

Magricco
5か月前
3
固有名詞の鬱(この部屋から東京タワーは永遠に見えない/麻布競馬場)

固有名詞の鬱(この部屋から東京タワーは永遠に見えない/麻布競馬場)

Twitterの人気者、麻布競馬場(@63cities)の小説をまとめた本。

いつしか彼の短編小説がバズっていて、センスのある文章を書く人だなぁと感心してからというもの、しばらくフォローして見ていた。

ほとんどTwitterやnoteにアップ済の作品ばかりで、「地方から東京に出てきて、早慶を出て就職し、ちょっと無理してタワマンに住み、だけど何者にもなれなかったアラサーの悲しき俺/私」みたいな鬱

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実在(存在のすべてを/塩田武士)

実在(存在のすべてを/塩田武士)

神奈川県で起きた二児同時誘拐事件。
警察の助けがあったにも関わらず身代金の受け渡しに失敗した方の4歳の子供・亮は、連れ去られたまま帰ってこなかった。
ところが3年後、亮は突然、祖父母の家に姿を現す。実の母からネグレクトされていた亮は、母親と暮らしていた時よりも明らかに大切に育てられたことが見て取れたが、彼自身も祖父母も、育ての親については一切口を開かなかった。
果たして育ての親はどこの誰なのか?な

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生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

人生は4000週間しかない。効率化ツールや時短家電で生産性を上げれば幸福度は上がるかというと、そうではない。生産性は罠であるー

たまたま立て続けに読んだ『DIE WITH ZERO』に通じる内容も多かったが、こちらも名著だった。読んでよかった…。

お金と時間は常にトレードオフの関係にあるが、『DIE WITH ZERO』がお金に焦点をあてた作品なら、こちらは時間に焦点をあてた作品の印象。時間と

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記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

人生でいちばん大切なのは、思い出をつくることだ。
だから自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまずお金を使おう。また、人生の充実度を高めるのは、”そのときどきに相応しい経験”である。限りある時間とお金をいつ、何に使うかを正しく判断したうえで、DIE WITH ZERO=死ぬときにちょうどお金を使い果たすことを目指そう。
という趣旨の本。

有り金を使いまくれ!ということではなく、アリと

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自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

高卒で就職、営業マンとして朝から夜中まで死に物狂いで働き続け、会社でそれなりの地位を得たものの鬱になりかけ、40歳を過ぎて脱サラ。本当にやりたいことは何かと自問自答した結果、昔から好きだった本を広めることを仕事にしようと、盛岡で「BOOK NERD」という書店を立ち上げた著者の半自伝的な作品。

あ、村上春樹好きなんすね…と思わざるを得ない文体と、一人称「ぼく」、エッセイなのに「きみたちは〜だろう

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信じる(星の子/今村夏子)

信じる(星の子/今村夏子)

※ネタバレあり※

宗教2世の子どもを描いた小説。芦田愛菜主演の同タイトル映画を先に観て、後から今村夏子原作だったと知り読んでみた。

赤ちゃんの頃から体が弱く、乳児湿疹が治らなかった主人公・ちひろ。
ちひろの父が同僚に相談すると、ある宗教団体が販売する水を薦められ、その水を使うようになってから湿疹が治ったことで、両親ともに宗教にのめりこんでいく。
おかしな両親に嫌気がさした高校生の姉は家出をする

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普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

タイトルのまま、50歳で東大に合格し、本当に入学した主婦の勉強ノウハウが書かれた本。受験に関係のない社会人にも役に立つ!と言われ手に取ったが、読み終わって「これは普通の主婦ではないと叩かれてるんじゃないか…?」と思いレビューを見てみたら、案の定そうだった。(本を売るために編集者が付けたタイトルだから仕方ない。私にはわかるぞ。)

まず著者は、現役時代に3回も東大京大を受け、二浪の末に早稲田大学を卒

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戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

私は投資歴10年を迎えるが、ここ数年最もホットな半導体という分野についてあまりにも知らなすぎる…と思っていた矢先、これさえ読めば歴史が全部わかると聞いて手に取った。
1958年、グローバル化という言葉が生まれるはるか以前より、半導体のをめぐって世界中で金と技術が行き交っていた。国際政治の形、世界経済の構造、軍事力のバランスを決定づけ、私たちの暮らす世界を特徴づけてきた立役者は、半導体なのだ。

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私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

クィア・スタディーズの専門家・教授であり自身もゲイである森山氏と、以前ここに書いた『結婚の奴』の著者であり、トランス女性である能町氏の「性と身体をめぐるクィアな対話」をまとめた作品。

※クィアという言葉は、日本語でいうオカマ・変態に近い侮蔑語である。ただ、本来は侮蔑的に使われていた「変態」が、自虐的に使われることでメジャーになっていったように、ネガティブなニュアンスが取れた状態でじわじわと浸透し

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許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

※ネタバレ含みます※

5人の連続した自殺には、ある共通点があった。
それは遺体のどこかに「暃」というタトゥーシールが貼られているというもの。この「暃」という漢字は、JISコード「5A73」で登録された”意味をもたない漢字”、すなわち幽霊文字である。
この文字の意味するところは何か?5人の関係性は?
2人の刑事が、事件を追っていく。

アメトークの読書芸人の回で紹介されていた作品。
設定が抜群に面

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抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

2019年最も売れたビジネス書らしい。
SHOWROOMの前田社長、そうえいば最近見ないな。SHOWROOMはいまどうなっているのだろう?と思い調べたら、なかなかの赤字決算続きだった。

新しいSNSや配信サービスが増えすぎたいま、ライブ配信ビジネスでどうやって稼いでいくの…?とSHOWROOMの今後が気になりつつも、この本自体はなかなか面白かったのでメモ(紙じゃなくてすみません)。

・メモ魔に

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腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

1年ちょっと前、健康診断のついでに受けた子宮頸がんの検診で、子宮筋腫があると言われた。
症状がなかったので数ヶ月は経過観察をしていたが、筋腫は生理のたびに大きくなり、一番大きいものが8cm近くになったので、やはり取ることにした。(あまり大きくなると、開腹手術になるから)

5泊6日の入院で腹腔鏡手術を受けた。
誰かの、あるいは再発した時の自分のためになればと思い、簡単に記録しておく。

腹腔鏡手術

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言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

早稲田大学探検部出身の作家が、25の言語を学ぶに至る過程を記したノンフィクション。著者は言語オタクではなく、「コンゴの幻獣を探す」「アヘンケシ栽培をする」といった風変わりな目標を達成するための手段として、現地の言葉を学ぶ必要があったと主張する。(が、この本を読んだ人のほとんどは、彼を語学の変態と位置付けるのではなかろうか)
1980年代の若者の勢いを感じさせる冒険譚として、また、テキストはおろか文

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ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)

ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)

ストーリーテリング(物語化)のおかげで、文明は発達した。物語には人の思考と行動を大い変える力があるが、ほとんどの人はその影響力に無自覚で「自分は物語の語り手になびかない」と考えている。ここに、物語の危険性がある。
具体的には、以下の通り。

・語らず、示せの科学

アーネスト・ヘミングウェイにこんな逸話がある。(ただし現在は、ヘミングウェイではないという説が濃厚)
友人たちとレストランにいた彼は、

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雑誌のポテンシャル(「若者の読書離れ」というウソ/飯田一史)

雑誌のポテンシャル(「若者の読書離れ」というウソ/飯田一史)

子どもの「読書離れ」は、実は過去の話である。
本離れが進んだのは1980年〜90年代のことで、官民が連携した読書推進運動のおかげで2000年代にはV字回復を遂げた。

読書離れが進んだのは、ラノベと雑誌だ。
文庫ラノベ市場は2013年以降の約10年で半減以下となり、中高生の読書調査で名前があがることもなくなった。これは、ウェブ小説の人気作品の書籍化(=なろう系)が急速に増えた結果、既存の文庫ラノベ

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早押しという競技(君のクイズ/小川哲)

早押しという競技(君のクイズ/小川哲)

※ネタバレあり※

優勝賞金1千万円、早押しクイズ界のM-1的な番組「第1回Q-1グランプリ」に出場した主人公のクイズオタク・三島。最終決戦まで勝ち進み、イケメン天才タレントの本庄絆と対戦することになるが、アナウンサーが最終問題を一文字も読み上げる前に本庄がボタンを押して回答し、敗戦する。
なぜ本庄は問題が読み上げられる前に回答できたのか?ヤラセか?魔法か?
という”クイズ”の答えを紐解いていく、

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