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「置き場」第0号を読む

読んだものの感想が1ヶ月以上遅れがちです。
わりきって第1号からにしようか迷いましたが、やっぱり第0号も素敵な連作がたくさんあったので……!
第1号については3月中のスペース配信を予定しています。

それでは「置き場」第0号から好きな1首、次に好きな連作とそこから1首を引かせていただきます。
全ての連作には触れられなかったのでごめんなさい……

作品はこちらから!

※以下、敬称略

好きな1首(全12首)

骨といふ骨がすなはち折れなむと言いたいような烏の視線

鵺を放つ(マイグラデーション)/金森人浩

文体の組み合わせ方が面白い。烏の言いたげな台詞として文語を使っているのが新鮮でした。全身の骨がすぐ折れるよ、という意味(ざっくりの訳ですみません)がなかなか凄惨なところのギャップとシュールさ……!


カルピスにカラダにピースされてからピースの痕が消えてくれない

セットドリンクバー/笠原楓奏(ふーか)

あのCMをすぐに思い出しました。「ピースの痕」がなぜか傷痕っぽく感じられる。ピースそのものは前向きな象徴のような気がするけれど、実はそうではなかったというか。主体の感じる軽いわだかまりみたいなものがみえて面白かった。


ミラノ風あなたの言葉で着火した気持ちを知らないでしょうねドリア

熱源/なべとびすこ

「着火」という言葉で、恋心なのか怒りなのか、どちらかの強い思いを想像した。「あなた」からなにか決定打となる言葉をくらったのだけど、「あなた」はどこふく風、といったところか。一緒にサイゼリヤにいるのだろうか。というか、ミラノ風ドリア、という名称だけで「あ、サイゼだな」と思わせるサイゼってすごいな。関係なくてすみません。


ショートボブに近づきながら壁打ちの要領で聞く子育てのこと

ショートボブ/真島朱火

「壁打ちの要領」、自分で壁に打ったら球は返ってくるからそれをまた打って、を繰り返す。子育てという話題に主体はだんだん慣れてきていて、その反応には作業的な面も出てきているのかも。比喩の納得感。「近づきながら」という表現に、だんだんと時間の過ぎていく臨場感もある。連作全体も、実際の美容室にいる体感も合わせて迫ってくる連作でした。


音のない雪(たとえれば女子だけが体育館へ移動した日の)

無職の冬/小俵鱚太

なんだかすごくわかってしまうのが不思議。実際にわたしの小学校でも、女子だけが体育館に集められた日があった。いわゆる性徴についての話を保健室の先生が喋った。特別な感じがしたからよく覚えている。雪は目に見えて降っているのに音がなくて、その底知れなさとか、いっそう静けさを増す空気感が()内と響き合うように感じた。


煮えかへる湯にこころなく炎よりおろせば事もなくしづまりぬ

短日/寺阪誠記

沸騰するまではちょっと時間がかかるのに、いざ沸いたらぐつぐつと蓋をうごかすほど、まるでこころがあるかのようなお湯。実際はそんなことはないから人の手によって静めることができる。当たり前なのですが、韻律にのせた景がふっと浮かぶ歌でした。


カフェラテは地層となって沈みゆくどのうたかたもふれれば記憶

影絵のための花/早月くら

コーヒーの部分とミルクの部分がだんだんとわかれていくカフェラテの描写に時間の経過を感じる。「うたかた」とあるように一瞬一瞬が過ぎていくのだけれど、ふれればたしかな記憶としてそこに留まる。言葉や景の取り合わせがよく合っていると思った。


アーモンドミルクを口にふくませて何も出来ない日もあつて良い

生活のすべて/古河惺

「アーモンドミルク」のやさしさとまろやかさが、下の句にかけての主体が主体をゆるすような発話を助けてくれる雰囲気。モチーフの取り合わせが絶妙だと思った。


両肺を留める金具のぎんいろのわたしはわたしを使い切らねば

花の匂いで空っぽの宇宙服/穴棍蛇にひき

「置き場」第0号でいちばん好きな1首かもしれない……。
肺をつかって呼吸している主体の、いずれ死ぬこととしての表現だと思うのですが「わたしはわたしを使い切らねば」の息せき切ったような言い方。謎の焦燥感も伝わってきて、歌のなかで「ぎんいろ」が印象的にひかる。
「ぎんいろ」にフォーカスしていく上の句の語順と合わせて、下の句の内情の発露的な表現もとても迫ってきて、好きでした。


いづれまたお会ひしませうなんどでもゆめやゆめではないコンビニで

冬の浮力/有村桔梗

相手と現実で会うのは「コンビニ」しかないのかもしれない。それほどに細い関係性なのかもしれない、と想像しました。「なんどでも」にひしひしと迫る思いを感じる。現実よりも夢に見て会うことのほうが多いのかな、と切なくなりました。


まるごとのキャベツをずんとまっぷたつするよろこびも買って帰った

しにくい/榎本ユミ

「ずんと」がいいなあと思った。わたしはキャベツは外側から使っちゃうタイプなのだが、あんなまるまると大きなひと玉を半分にするの、気持ち良いだろうなと想像する。その「よろこび」も合わせて買って帰る、という結びに、どことなく軽い足取りの帰路も思い浮かんだ。


Pardon?がやけに流行った教室で誰かがつくった壁の傷のこと

Pardon?がやけに流行った教室で/渓響

これ流行ったな……と思い出した。あとになって、Pardon?はいきなり使うとけっこう失礼だから控えるべき、と知ったのだけど、たぶん英語の教科書にそのまま会話文で載っていたんだと思う。「壁の傷」という、いちどつけてしまったらなかなか修復できないものに焦点が置かれて終わるのが印象的でした。歌全体を覆うくらさみたいなものを感じる。


好きな連作(全6作)

好きな歌が収められていて、かつ連作全体としても惹かれたものです。

願い/展翅零

全体を読んだうえでまたタイトルに返ると、その切実さが一層増して感じられる。連作のストーリーをいろいろと考えさせられました。「死」のイメージや「泣く」姿が重ねて出てきて、家族の不安定さと主体の苦しさが合わさって滲み出てくるような読後感。主体の眼をとおした人や物の描写だけで終わらず、ときおりその心情が発露される箇所に痛切な印象を受けた。

妹が新しい髪色でやってきて小さな家でまた泣いたのか

願い/展翅零

「小さな家」というのがすごく効いているように感じる。髪色をしょっちゅう変える妹のもつ、計り知れない心もとなさやさびしさを想像してしまった。たぶん妹はなんども泣き、そしてなんども髪を染めるのだろう。それが彼女にとっての気晴らし、救いなのかもしれない。主体の吐露、あるいは呼びかけめいた結句が余韻を残す。


鐘/小野りす

文語調の効果もあってか、現実なのに非現実のような、妖しげな雰囲気をまとう連作。具象抽象がゆらめきながら一連をかたちづくっている感じ。生死のモチーフが印象的で、タイトルでもある「鐘」の音がどこまでも響きつづけているようだ。
(小野りすさん、たんたか短歌の、夢の浜で~の短歌が忘れられなくてそこからファンです)

廃屋の影濃きまひる紺色の吊りスカートに蝶をしのばす

鐘/小野りす

下の句、比喩なのか実景なのかちょっと迷った。女学生の制服を思い出す。廃屋というすこし不穏さもある場所に主体はいて、そのスカートのひらめくところに現実の蝶がすれちがっているのか、意図的に蝶を文字どおり隠しているのか、それともスカートを履く主体の脚そのものを蝶とたとえているのか(やや読みすぎか)、謎めいた魅力をはなつ1首。


月に暮らす/湯島はじめ

湯島さんの歌はすごく独特で自由な空気をもっていてとても好き。
この連作も、現実世界からすこしずらされた軸で展開される世界観が魅力的。月の話かと思いきや、それだけではなくて、服やからだといったワードも不思議な文脈で登場する。個人的には、星新一のショートショートを思い出しました。

(前時代的な薄着で駆けて来たひとは春だったのだ)春だったのだ

月に暮らす/湯島はじめ

ひと=春、という捉え方が面白くて、「前時代的な薄着」というところにポップさも感じる。思ったこととして()で表されたあとに「春だったのだ」とあらためて気づくような構成にも物語性がある。


どうしても?/ほのふわり

ほのふわりさんの短歌は前々からずっと好きで、ちょっとぷか~と浮いている場所から飛び出してくるような言葉選びに惹かれます。
3首という比較的短い連作ですが、1首1首の引力にあらがえなかった……!

トランポリンのぽりんくらいのたやすさでぼくたちは恋しがちなまぶた

どうしても?/ほのふわり

何度も声に出したくなってしまう。「トランポリンのぽりん」、たしかにすごくたやすくてあっけない発音のような気がする。「ぼくたちは」の「は」という助詞もけっこう不思議。「恋しがちなぼくたちのまぶた」や「ぼくたちの恋しがちなまぶた」ではないから、「ぼくたち」=「まぶた」という把握? 


まぶたの縫い目/花島照子

ああ、好き……!と思わずこぼしてしまった。言葉ひとつひとつの繊細な組み合わせ、流れるような韻律に紡ぎ出される歌たちが魅力的すぎます。連作単位では今回、いちばん好きだったかもしれません……。
身体に絡むどこか生々しい描写と、生活とが不思議と組み合わさってゆき、奥行きのある冬の世界がここにある。

やがて雪が夜をまばゆくすることをまぶたの縫い目引き裂いて待つ

まぶたの縫い目/花島照子

目をひらいて、という動作を「まぶたの縫い目引き裂いて」と表現するところに強く惹かれました。縫い目を引き裂くというのは痛みをともなうイメージ。それでも見ていたい、「雪が夜をまばゆくする」の主述の置き方にも詩情を感じる。


冬を殺める/月下さい

どこまでも予想を裏切られる歌ばかりで、常に新鮮さが襲ってくる一連。1首1首のなかで、主体の独特な視点によって描かれる景色が光るように感じる。すこし物憂げで回顧的な雰囲気。

ぬばたまの新高円寺メビウスの味を間接的に覚える

冬を殺める/月下さい

意外性に撃ち抜かれる1首。ぬばたまの、だからきっと夜の新高円寺なのだろう。新高円寺駅はメトロの駅なんですね(詳しくないので調べた)。あの不思議な輪であるメビウスに味があって、それを「間接的に」知覚するというなんとも妙な状況。上の句の重々しい感じから下の句への跳躍が、なぜか絶妙な距離感があって、するっと一読してしまう。あやしいのにこの単語の組み合わせ以外にないだろうなと思わせる、凄味のある歌だと思った。


以上です。ほんとうは全作触れたかったのですが、力及ばず……!
読んでくださってありがとうございます。また「置き場」という素敵な場所にもあらためて感謝申し上げます。
第2号も楽しみです✨

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