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『カカァはなんだか困惑しててな』


真夜中によ


裏の勝手口のほうがよ

うるせえと思ってさ


こっちはぐーすか寝てるわけでさ


つってもまぁこんな時分だったらよ

狸の集団が降りてきたかな


なんつって


のんきに構えてたらよ

扉をドンドンとよ

叩く音がするからよ


カカァはなんだか困惑しててな


だから寝床のよ

内側をつっかえ棒して


そいからガキらはよ

布団でぐるぐる巻きにして

ぜってぇに守るからっつって


んでおいらは台所へ降りてよ

右手に出刃包丁と

左手に土鍋持ってよ


あぁもっと

長ぇもんのがいいかなと思って

紐で物干し竿もよ

背中にくくりつけてよ


そいでいざ

勝手口のほうへ向かってよ


ほしたらよ

ドンドン!

ドンドン!


おっかねぇよ

だってぇ

摺りガラスに人型の陰がよ


おいら歯をよ

食いしばってええぃやって

扉を開けたわけ


そしたらば

情けねぇ顔の男がひとりよ


武夫たけおの野郎じゃねぇか!


こんの好色男が!


何を誤ったか知らねぇけどもよ

どうせうちのカカァとこへ

夜這いよべえに来たにちげえねぇ!


そう咄嗟に悟ったおいらはよ

無我夢中でよ

武夫たけおの野郎をタコ殴りにして


おぉさすがによ

熊やら畜生やら相手じゃねぇからよ

包丁は勘弁してやったけども


武夫たけおの野郎酔っ払ってんな

勘弁してくだせぇを連呼するのみで

及び腰ったらありゃしねぇから

ちっともこちらは甲斐もなくてよ


ほんで夜が明けたら駐在さんがよ


おいらのことを捕まえにきてよ


さすがにやりすぎたあねっつて

まぁおいらもそれは薄々な

わかってたんだけども


よおく考えたらよ

あぁこれが

武夫たけおの野郎の魂胆かって

おいらブタ箱のなかでよ

ようやく気付いたよ


カカァも結託してやがってからに

おめえみてえのは

タダでも高ぇやくれてやる


ちょっと顔がイイってだけで

ロクに働きもしねぇ

武夫たけおの野郎なんかの

どこがいいのか知らねぇけどもよ


だけどよ

おいらの勤めが終わったらよ

かわいいガキらだけでも


おいらんとこへ

返してもらえんかな

それだけは頼むよ








































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