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『不義理橋』


不義理橋(ふぎりばし)


我が地元に

そんな名前の橋があって


俺が高校まで過ごしたまち


貧乏ヒマなしで

そう頻繁には帰れないけど


都会にいても

いつも心のどこかに

地元の風景があるわけ


VVikipediaによれば

不義理橋という名の由来は

江戸時代の終わり頃まで

さかのぼるらしい


--


このあたりで有名だった

ちりめん問屋


そこに長年奉公として仕えた

丁稚の男が

親方の目を盗んで

店のカネを持ち出して

遊び惚けていたんだと


どうにも鈍い親方は

見積もったよりも

実入りが少ないと

薄々感じてはいたものの

はっきりとは掴めず


いっぽうで

しごく鋭いのはおかみさん


丁稚の愚行をすぐに見抜いたと




商いが休みのある朝はやく


丁稚の男がまた

金庫からいくらかフトコロへ


店を出てちょっと先

ちょうど橋のまんなかで

おかみさんと出くわして


「あんたね、タダじゃおかないよ」


ドキリとした丁稚

咄嗟に返した言葉が


「必ず迎えにきますんで」


だったとか


その日はたいそう運が向いて

丁半博打に大勝ちした男


拝借した分のカネを返そうと

店へ戻る途中に

また橋を通りかかると

おかみさんが待っている


目と目が合うと

そこから先はまるで

もとから示し合わせていたか

そんなふうに

ふたりは手を取り合い

どことも知れぬ街へ

旅立って行ったという


--


出来すぎだろ


俺の大好きな地元

その情景がエラく安っぽい

歴史メロドラマで

塗り替えられて


あぁ由来なんて

調べなきゃよかった


妙に腹の立った俺は

いまも地元に住む

特殊工作員の友人に頼んで

ダイナマイトで橋をもろとも

爆破してもらったわけ


ほんとの不義理って

こういうものだよな?














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