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『さて新幹線に乗って』


さて新幹線に乗って

久々の出張である


大阪でのセミナー参加のために

東京駅から新幹線のぞみに乗る私


これといって

こだわりがあるわけじゃないが

東海道新幹線は山側E席(※)がいい

ご存じの富士山が見えるからね

※普通車は通路を挟んで海側が3列ABC,山側がDEだよ


始発駅だからゆったり乗り込んで

コーヒーをすする


発車直前に駆け込んできた

前の席の客が

シートを倒しても良いですかと

そう言うものだから

えぇどうぞと


日常だった出張という非日常も

あのウイルスのせいで

ほんとうの非日常となって久しいから

今回の出張はとても嬉しい


しかもプレッシャーのかかる

商談などではなく

セミナー受講というお気楽なもの


品川から隣のD席に

私と同じようなビジネスマンが


乗り込むなりせわしく

ノートパソコンを開く


私はのんきにコーヒーを

なんて思っていると


ちょっと急ぎの資料で

タイピングの音がうるさく

ご迷惑かもしれませんなどと

丁寧に断りを入れてくれた


おかまいなくと私は答える


ちらほらあった空席も

新横浜でいよいよ満席に


私の後ろに乗り込んできたのは

あきらかにわけありのカップル


平日の昼間から

けっこうな御身分だなどと

そう思いつつも

私は車窓の外に目を向ける


おお

富士山が見えてきた


きょうは雲一つない晴天

この国に生まれてよかった

そうまで思わせてくれる

富士の山は唯一無二


んん…

あんっ…

あ…


背後のようすがおかしい


ちゅ…

んあっ…

ちゅぱ…


明らかに

公共の場にそぐわない吐息と擬音


ん”ん”っああ…

おぅんあ…

ぢぅゅ…


のぞみは浜名湖のあたりを通る

無性にうなぎが食べたくなったのは

気のせいだろうか


うぅあ…

ぢゅるん…

んばぁあ…


隣のビジネスマンは

資料作りにひと段落したのか

ノートパソコンを閉じ


背後の座席のようすに

やれやれと言った表情を向けてきた


私もまったくやれやれと

そういう表情で返すと

D席のこの男


ちょっと弁当を広げていいですかと


律儀なものだなと感心していると

紐を引くと温かくなるタイプのシュウマイ(※)

※今はもう売ってないよ


あぁこれ

めちゃくちゃ匂うやつだな

しかしノーとは言えないもんな


後悔先に立たずとはこのこと

私はすっかりぬるくなったコーヒーを

鼻孔に近づけて自らをごまかす


気づけば列車は名古屋を発っており

まもなく琵琶湖の付近を通過する


隣席からの嗅覚の刺激に加え

あいかわらず後部では

卑猥な音が鳴り止まず

私の聴覚と某所を攻撃してくる


京都に着いた段で

急いで身なりと息を整えつつ

わけありカップルが下車してゆく


隣の男が再びやれやれと言った目線

私もいちおう呼応する


じきに私の目的地

新大阪に着いた


隣の男も同じく降りるようで

デッキに縦に並び

プラットフォームへの入線を待つ


背後に立ったD席の男

私の背中にどういうわけか

こう投げかけてきた


「京都で降りた後ろのカップル、あれ僕の嫁さんとその不倫相手なんすよ」


のぞみはプラットフォームに停車し

ドアが開くと同時に

雑踏に紛れたために

D席の男を見失った


男は妻の不貞を知って

密かに同行していたのか


あるいは世の中にはNTRとかいう

変わった趣味もあるというから

そっちの線も捨てがたい


なんだか印象深い往路だったなと

セミナー会場の目的地である梅田まで

ぼうっと在来線に乗って

そんなことを考えていた


何より驚いたというか

笑ってしまったのが

セミナーに登壇した講師が

D席の男だったこと


せっかくだから

あとで質問してみよう


そんなことを思いつつ

うわの空で聴講していたら

いつのまにか私は寝落ちしており

会場の係員の人に揺り起こされた




東海道新幹線はJR東海なのでオレンジ、新大阪~大阪(梅田)の在来線はJR西日本なのでブルーという点に気づいたアナタに114514点さしあげます







(あとがき)
やっぱこういうのが書いてていちばん楽しい。誤字脱字、事実誤認あったらご指摘ください。




















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