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『スタートアップ葬儀屋』


「じゃまず土葬ね」


さっすが社長


「これは旬でしょマジで」


発想力と度胸が


「許可とかそんなんはまぁ後で」


そこいらのやつとは段違い




俺は去年の春

大学に入った


そこで出会った

2学年上の先輩


スタートアップで

葬儀屋やるってよ



「生前葬ってのもいいな」


次から次へと


「いや儀式だけじゃなくて」


アイディアが沸いてくる


「火ぃつけてやるのよ、しにたいやつに」


この人

ホンモノの天才だろ




俺の役割は

資金調達


銀行にかけあっても

社長の凄さなんて

理解してもらえないし


クラファンなんかじゃ

まとまった金額が

とても集まらない


ひつぜん裏社会の

お兄さんがたへ

募ることになって



そこでも俺は

足蹴にされまくるわけ


”てめぇしにてぇのか”

”油ぶちまけて火ぃつけんぞ”


おいおい

しぬとか火とか言って

ウチのビジネス

横取りする気かよ




話にならないと思った俺は

途方に暮れてしまい


何を血迷ったか

おんぼろ中古の

大型バス車両を

格安で譲ってやると言われて

つい買ってしまったわけ




ぼうっとしつつそれに乗って

社長の元へ帰る俺


「やるじゃん」


えっ褒められた?


「使えるよそれ」


俺はかんぜんに


「おまえ運転頼むな」


思考停止してただけなんだ




とにかくイイ買い物をしたと

社長には褒められた


そしてコトがよくわからないが

おまえは今日から専務だと

そう言われて

ヒラから一気に昇進したわけ




おんぼろバスを

運転するだけで

俺はカリスマ社長の右腕に

なれるんだな


喜び絶頂の頃


「おい、集めたぞ」


社長からお呼びがかかる


「例の運転だよ」


大出世専務俺の

初仕事ってわけか


「ここにある焼死体ぜんぶバスに載せて車両ごと、海に飛び込んでくれよ、あ?おまえ?もちろん一緒にだわ馬鹿!昇進させてやっただろがよぉ!天国でしっかりやれよ、あ、ちがう地獄か、まあどっちでもいいやじゃあなバイバイ!」



スタートアップ葬儀屋の

華々しい死体処理


そのスタイルは

良い意味でも悪い意味でも

世間の評判になって


その後社長は逮捕されたり

会社法人をたたまされたり

そんなことがありつつも

けっきょく儲けることには成功して


最終的にはよくわからない

通販番組のMCとか

格付けチェックで間違えない役とか

そういう立ち位置の

芸能人として

ちゃっかりやってるって


天国

いや

地獄にも

その評判は

しっかり轟いてますよ社長













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