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サイクル

サイクル

デザイナーの伸子は、一仕事を終え買い物に出かけることにした。
夏の夕暮れ時は、まだ明るく暑さも和らいでくる。
運動不足気味なので、歩いて出かけることにした。

靴を履き、玄関から出ると蝉の死骸が転がっていた。

気持ちが切なるなると同時に、あることを思い出す。
伸子がまだ小学校の時、時江ちゃんという子がいた。
その子は、体が小さく内気な子だった。

学校終わりの夏の帰路、時江ちゃんと一緒に歩いてい

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嫌だけど、やりがいはある 2(短編作品)

嫌だけど、やりがいはある 2(短編作品)

私はカフェ店員だ。

 ここでバイトを始めて、早、2ヶ月経過したが、もうやめたい。
ホールを中心に働いている。ホール自体、本当はやりたくない。
けど、やる。

 キッチンでは、私と同い年くらいの女の子たちが、
女子会のごとくぶっちゃけトークを繰り広げている。
あの空間には入っていくのは億劫。

 だから、自ら進んでホールをやる。正直寂しいけど。
だから、今日も来店したお客さまの席へのご案内、オーダ

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嫌だけど、やりがいはある(短編作品)

嫌だけど、やりがいはある(短編作品)

 
 和樹はため息を漏らした。実に深いため息。
こんなため息をついてはいけないと思ったが、仕方ないかとも思う。
ここ最近、嫌なことが連続して起きて、仕事をするのがえらく億劫だ。
職場にくるまで、なんでも仮病で休もうかと思った。
 真面目にやっているが、周りがそうではないのだ。
今日も、朝から雑な管理。ルールの「ル」文字も守ろうとしない。
以前、指摘したら、
「これくらい、わかるだろ〜 悟れよ」

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片思いのカウンター(短編作品)

片思いのカウンター(短編作品)

 好きな子がいた。だけど、彼氏持ちだ。
後鳥羽という、不良と付き合っている。
学級長に推薦されるような子が・・・・・・
また、何でと言いたかった。
 ちなみに俺は、男子学級長だ。彼女は学級長をすこぶる嫌がっていたが、俺は嬉しかった。ちょっと活躍できそうだし、接点が多くなるのでラッキーだったが、この有様だ。残念でならない。諦めようとしたが、それはできなかった。
 なぜなら、学級長同士だから自動的に接

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友の影響 短編作品

友の影響 短編作品

 仕事が終わり、食堂に行くと忠信が項垂れている。
「あぁ、また御愁傷様かぁ。瞬時にわかる。
声を掛けるのが億劫に感じるが、ここは忠信の話を聞いてやるとしよう。
そばによると、待ってましたの如く忠信が顔を上げる
「おぉ 誠司・・・・・・」
「忠信、ダメだったかぁ」
「あぁ・・・・・・」
忠信がマッチングアプリを始めて、1年になる。
実らない恋を悔やみ続けているのだ。
1年で出会った数は、今日のを含め

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赤い想い出(短編小説)

赤い想い出(短編小説)

 アパートのワンルームに帰宅する。
激務で忙しい毎日が続いたので、ほんの癒しが欲しくて、LEDキューブランプを購入した。部屋の明かりを消し、ランプを灯す。優しい夕陽のような
灯りが部屋を包む。ボーッとその灯りを眺めていると小学生の思い出がえる・・・・・・。

 小学校の時。明里ちゃんという友達がいた。
明里ちゃんとよく学校へ一緒に行った。手を繋いで。
明里ちゃんは、赤ら顔で可愛い。 
私は色白でお

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天賦を探しに (短編小説)

天賦を探しに (短編小説)

 遂に、オール三の成績となった。ここまでの努力と道のりは
長かった。
しかし、もう受験シーズンとなり、これ以上の成績アップは望めない。
頑張って頑張って、努力したものの、これが、限界だ。
始まりは、オール1からだった。
だが、ここまで上り詰めた。そして、高校受験。
受ける気すらない。
もう懲り懲りなのだ。頭の悪さと不器用さが自慢なんだ!
と、ひどく自暴自棄になり、ひどく項垂れていた。
 塾の個室で

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怒りの快進撃 (ショートショート)

怒りの快進撃 (ショートショート)

 文化祭の準備が憂鬱だ。
苦手な里奈がという女がいる。
その子に会うだけでもう反吐が出そうだ。
私は勝手に彼女に敵愾心を持っていて、彼女もそれに気づいている。だが、里奈の方が一枚も二枚も上手だ。
周りの子も皆、里奈の采配に頼り切っている。
今日も犬のように、彼女に擦り寄っておべっかを取っている。

勝ち目のない娘に、敵愾心を抱くとは、私ってなんてバカなんだ。
勝てると思っていたのか?私は??
ぐう

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インターホンを押しに 2  短編小説

インターホンを押しに 2 短編小説

気になるこの住所を覚えてしまった。即座に思いついた答えが
フードデリバリー。
これになれば彼女に会えると思った。

そして、なった。

僕は、彼女のアパートの前に立っている。
今更ながら、なんで何も頼まれてもいないのに彼女のアパートの前にいる???

これ、完全にストーカーじゃん!!

汗が滝のように出て、体全身を覆った。

でも、後に引く気はない。
「死のうかな」彼女のあの言葉を思い出す。
嘘だ

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インターホンを押しに 1  (短編小説)

インターホンを押しに 1 (短編小説)

フードデリバリーへアルバイト先を変えた。
別に前のアルバイトの労働条件や待遇に不満があったわけではないし、他にやりたいことがあった訳ではない。

気になる子がいたからだ。気になる子。その子は問題児だった。

その子とは、前のバイトで一緒だった。入ってきてから早々 お客様に対して問題発言をしまくり、厳重注意を受けていた。

ある日の休憩時間。
その子に突然ライターある?と尋ねられ焦った。タバコは吸わ

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今際の映画 (短編作品)

今際の映画 (短編作品)

   

 恩師が50歳という若さで、この世から去ろうとしている。
僕は、そのことを聞いた途端、脱兎の勢いで故郷に戻った。
恩師との約束。はたせないでいる。
約束を果たしたら、最初に恩師に伝えるのが夢だった。だがそれも果たせなくなる。

病院につき、恩師に顔を合わせる。恩師は目を開けるまでもなく僕に気付く。
どっと涙が込み上げる。ここまで愛してくれているのだ。だが、もうこの愛ももらえなくなる。悲し

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髪を切る理由って (短編小説)

髪を切る理由って (短編小説)

行きつけの美容院へ行く。
髪が伸びたから、切る。ただそれだけのため。
斜め後ろの奥様。ギャルの名残がある。
ぺちゃくちゃと担当の美容師と話をしている。
私とは相対的。
「最近の子って本当に積極的じゃないよねぇ 全然引っ張ってくれる気配がないっ」
とギャル奥様
「ねぇー」
「あれだけ、草食系だとさぁー 女の子大変だよねぇー」
「確かにそうだ。そう。大変だ。アプローチするのがねぇ」
と美容師さん

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ランデブー(短編小説)

ランデブー(短編小説)

青春なんていくつもいらない。
彼と出逢ったとき、そう思えた。

彼はここの学校にはいない。
他校にいる。

だから、みんなには適当なことを言って
抜け出す。
そして、彼に会う。
密会だ。

密会。なんて魅力的な響きだろう。
スリリングでドラマチック。
道中、怪しくニヤニヤしてしまう。
だけど、マスクがあるから誤魔化せる。
だから、コロナ禍が継続してもいいと思う。

様々な柵から解放され、彼とのひと

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繊細さは宝(短編作品)

繊細さは宝(短編作品)

私がまだ幼い頃、よく叔父さんの家に遊びに行った。

叔父さんは、丸メガネがよく似合い、白い無精髭が貫禄がを高めていた。
叔父さんはいつも部屋でプラモを作っていた。
飛行機や洗車、戦艦やロボットのプラモが棚に敷き詰められていた。

僕にとってそこは、宝の山だった。
だが、僕はその宝物を手に取ってはよく壊した。
叔父さんは、残念そうな顔をしたが僕を怒らなかった。

諭すように、繊細さを大事にしなさい。

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