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小説_『フェリー』

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小学四年生の夏のことだった。
元気にしてるのかな、とたまに思い出す。
きっかけもなく、突然に。


人生で初めて乗ったフェリーは想像を超えて揺れていた。

船ってこんなに揺れるもんなのか。
学校に行くときに乗っているバスよりも揺れる。

周りの人たちはグループで固まったり、ざこねしている人もいる。

ぼくはなにを話そうか考えていた。
するときみは口を開けた。
「あとどれくらいで着くのかな?」

親に片道40分と聞いていたから、
「もう10分ぐらい経っているから、あと30分で着くよ」と返事をした。

「S島に行くのははじめて?」とぼくはきみに質問をした。
「はじめてってこの前話したよね?」
「そうだったね」と答えたあとは2人は黙っていた。

きみと学校で話していると海水浴の話になったんだ。 
次の言葉が出てこない。

二人きりの船旅を楽しみにしていたのに。
何か話さないと。

「私、船に乗るの初めてなの。こんなに揺れるんだね」ときみは言った。
「そうだね」

ぼくは相変わらず、次の言葉を出すことができなかった。
ここが学校なら話は別だ。
止まらない滝のように話を連発し、ふざけることができるのに。

今日はぼくのなかでとても神聖な日だった。
特に理由はわからないけれど、ふざけてはいけないような気がした。

「具合悪いの?」
「いや、そんなことないよ」
「なんかいつもと違うね」

彼女は窓から大海原をみて言った。

ぼくたちはほとんど会話を交わすことなく、フェリーを降りた。


降りたあとどうしたんだっけ?
ぼくの記憶は中途半端だ。

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