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記事一覧
君に贈る火星の(2本目)┃ショートショートnote杯
「これは君に贈る火星の空気」
彼はそう言って袋を見せる。
「で、これは君に贈る火星の石」
今度は石ころ。
「へぇ。それで?」
私は、そう、私は挑発するように彼に言った。
「これならどうだ! 君に贈る火星の新聞!」
確かに日本語ではない新聞。
だけど……。
「ウラジオストクが火星にもあるのね」
「あ、ああ。そうだよ。米国が秘密で火星に基地を作ったんだよ。僕は火星に行ったから知ってるんだけどさ」
嘘吐
コロコロ変わる名探偵(その5)┃ショートショートnote杯
「むしゃむしゃ。つまり、犯人はここが現場と誤認させるトリックを使ったのです」
「探偵さん。お腹が空いているのは分かりますが、ここで食べながら推理を披露されましても」
「まあ、良いじゃないですか縦溝警部。今は私とアナタ二人きりなのですから」
「ですがね……」
「何か問題でも?」
「さっきからいくつコロッケを食べるんですか」
警部は呆れていた。
探偵の手にしているコロッケはこれでもう10個
コロコロ変わる名探偵(4本目)┃ショートショートnote杯
「名探偵です」
「よろしくお願いします」
「コロコロ変わる名探偵です」
「何それ」
「例えば巨石を運んだり」
「それコロ。巨石の下に丸太とか敷いて運びやすくするやつ」
「例えば暑い夏に食べたい冷たい麺類」
「それもコロ。名古屋地方で冷たいウドンをコロウドン、キシメンならコロキシとか言うけど。ローカル過ぎるわ」
「ボールを……」
「コロコロ、って舞台で玉を転がすな。ボーリング場かここ」
「こ、こ、コ
コロコロ変わる名探偵(3作目)┃ショートショートnote杯
オレは名探偵。
どんな物でも探しだしてみせる。
犯人がどこに隠れようとも見つけ出す。
名探偵だからな。
「コロちゃーん!」
「ワン!」
困った事に「コロ」と聞くと反応してしまう。シッポを振って喜ぶなんて真似はしたくないが。
そして今日もオレは河川敷に向かう。
現場はここか。
仕事は探し物か?
そるとも人探しか?
「そら! コロ行け!」
「ワン!」
ったく仕方ないな。
ショートショートnote杯┃君に贈る火星の
〈君に贈る火星の〉
そう始まる彼からの手紙。私は同封されていたペンダントを着けてこの場所を出た。
帰りのタクシーを拾い、乗り込む。
慣れない黒い服に似合わない缶ビール。
行き先を告げて私は残りのビールを流し込んだ。
「お客さん、大丈夫かい?」
今は喋り掛けないで欲しい。
別に吐く程には酔ってはいないのだから。
いや、格好と場所のせいでそんな事を言うのだろう。
ふいにラジオか
ショートショートnote杯┃コロコロ変わる名探偵
「こうも次々名探偵がやらかすとはな」
刑事はため息を吐く。難事件を解決するために呼んだ名探偵たちが他の名探偵の邪魔をしていたのだから。
名探偵たちがコロコロと入れ替わり、全員が推理などせずに妨害工作をした事を白状していく。占めて56人。
「全国の名探偵に呼び掛けたのに。これが本当の〈そして誰もいなくなった〉ってか。笑えねえ」
「むしろ〈それじゃ誰もいらなかった〉じゃないです?」
お茶
ショートショートnote杯┃金持ちジュリエット
その町には有名な女がいた。
金持ちジュリエットと女は呼ばれていた。
「金持ちジュリエット!」
「はーい」
「おーい、ジュリエット」
「今行くわ」
ジュリエットはよく働いた。
朝は沢山のビンが入った箱を荷車に載せて牛乳配達。昼は食堂で料理を運び、夕方になると大きな荷物を抱えて帰る。
真面目で笑顔を絶さない姿は町の人に慕われる理由として充分だった。
そんなジュリエットにある依頼が
ショートショートnote杯┃空飛ぶストレート
僕の愛犬ストレートが空を飛ぶ夢を見た。
まさかね、そう思いながら散歩に連れていく。日曜は学校が休みだから僕が散歩の当番。大きなゴールデンレトリバーは少しだけ僕の前を歩く。今日は天気が良いから隣のおじさんもユニフォームを着てお出掛けだ。川沿いの堤防がお決まりのコース。ストレートは賢いから道を間違えるなんて無い。
お父さんも一緒なら良かったのに。ストレートといっぱい遊べるから。
「俺のストレート
ショートショートnote杯┃数学ギョウザ
「なあ、数学ギョウザ知ってる?」
「数学ギョウザ?」
「そうそう。店の名前なんだけどな」
「変な名前だな」
「メニューが面白いんだ」
「例えば?」
「普通のギョウザは22」
「22?」
「ひーふーみーの2と英語の2で普通」
「なるほど」
「02が和風」
「0が輪って事ね」
「分かってきたね」
「他にはないのか?」
「1/2茶でチャーハン」
「茶を半分でチャーハンか。苦しいな。半チャーハンはあるのか
ショートショートnote杯┃コロコロ変わる名探偵(2本目)
「フフフ。犯人が解りましたよ」
「あ、あなたは名探偵!?」
突如現れた男にその場にいた全員が視線を向ける。
「ある時はこの家の使用人、またある時は宅配のドライバー、さらにある時は庭師として剪定作業を、またまたある時は鑑識の一人として」
「あの時のドライバーか!」
容疑者の一人である若い男が叫んだ。
「庭師、確かに挨拶した記憶があるわ」
落ち着いた雰囲気の女性がワナワナと手を震わせる。