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麻利央書店

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高島麻利央による、短編小説~無料版~
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#あの子はあに子

あの子はあに子⑤褒め天才

あの子はあに子⑤褒め天才

続き物の短編小説。読み切り可。
前話☟

世間はゴールデンウィークに突入した。あに子はコロナ云々関係なく、毎年取り立てた予定も入れない。実家にも帰らないし、旅行もしない。ここ数年はダラダラとNetflixを見ている。あに子は「Netflix以前はどう過ごしていただろう」とふと思い、記憶を遡ってみた。あぁそうだ。テレビに付属されたHDDに撮りためた映画やドラマを見ていた。見てはデータを削除、見ては削

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あの子はあに子④「ネモフィラこわい」

あの子はあに子④「ネモフィラこわい」

「あに子さん、ネモフィラ見に行きましょうよ」

唯一今も付き合いがある高校の後輩の梨乃から突然LINEが来た。
とは言っても定期的に連絡するでも会うわけでもなく、梨乃の気が向いた(ふと思い出した)時や、誰も誘う人がいなかったから、という理由で声を掛けてきている、とあに子は思っている。

それより。

ネモフィラってなんや。

何か聞いたことあるような無いような、何を指しているのか分かるような分から

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あの子はあに子③「ニート」

あの子はあに子③「ニート」

あに子はぼんやり考えた。

「会社、辞めようかな・・・」

少し前に唯一の同期だった美奈代が辞めた。彼女は結婚しようと考えている相手がいる。両親との顔合わせ、ふたりで住む家、入籍や式のこと、なにも決まっていないけれど、このままの流れで行くと、大方結婚する方向になると言う。そんな曖昧な決め事だったのか、結婚というものは。30代も半ばを過ぎると結婚なんてものは、紙面上の契約であって、ロマンスではないと

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あの子はあに子②「猫舌」

あの子はあに子②「猫舌」

あに子には現在の勤務先唯一の同期がいる。その名を美奈代と言う。自分とは正反対の性格で理解できないことも多いのに、一緒にいて楽なのだ。

美奈代の口癖は「いつ死んでも後悔しない」。

それは人生を謳歌しているから、やりたいことをやっているから、と言う類のポジティブな思想ではない。理由は美奈代にとっては単純で「生きるのが大変だから」だという。死ぬつもりはないから仕方なく生きている美奈代にとって、死はい

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あの子はあに子①「家飲み」

あの子はあに子①「家飲み」

あに子は今日も、日付が変わるか変わらないかの時間に、家から1分のセブンイレブンへ行く。寝る前のビールと、つまみを買いに。

寝る前に食べるのは良くないことくらい知っている。寝る前にお酒を飲むのは良くないことくらい知っている。それでも、毎日頑張って生きているわたしがそれくらいのご褒美を用意して誰が怒るのというのか。自分で稼いだお金を、数百円の娯楽に使って誰が咎めるというのか。

と、毎日どうにか自分

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