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たった1つの稟議に泣ける映画があるだろうか。いやない『アキラとあきら』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:32/125
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

  製作年:2022年
  製作国:日本
   配給:東宝
 上映時間:128分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、ビジネス
元ネタなど:小説『アキラとあきら』(2017)

【あらすじ】

父親の経営する町工場が倒産し、幼くして過酷な運命に翻弄されてきた山崎瑛〈アキラ〉(竹内涼真)。大企業の御曹司ながら次期社長の椅子を拒絶し、血縁のしがらみに抗い続ける階堂彬〈あきら〉(横浜流星)。

運命に導かれるかのごとく、日本有数のメガバンクに同期入社した2人は、お互いの信念の違いから反目し合いながらも、ライバルとしてしのぎを削っていたが、それぞれの前に〈現実〉という壁が立ちはだかる。〈アキラ〉は自分の信念を貫いた結果、左遷され、〈あきら〉も目を背け続けていた階堂家の親族同士の骨肉の争いに巻き込まれていく。

そして、持ち上がった階堂グループの倒産の危機を前に、〈アキラ〉と〈あきら〉の運命は再び交差する―。

【感想】

原作小説は未読ですが、2017年に放送されたWOWOWのドラマ版は事前に鑑賞しました。50分×9話をどうやって2時間に収めるのかと思っていましたけど、いやはや映画も映画でよかったです!

<映画版との一番の違いは階堂彬>

原作ありきなので、ストーリー的にはドラマ版と大きな違いはありません。ただ、2時間に収めなくてはならないので、ドラマ版でもメインだった下田のリゾート売却に注力しています。スーパーマーケットのくだりや、ドラマ版で出てきた田中麗奈のエピソードなどはありません。映画を観て改めて驚きますよ。ラストのあのスキームのひらめきに。まあ、実際の行員からしたらポピュラーな手なのかもしれませんが。

じゃあ、ドラマ版と映画版で何が違うのかといったら、キャラクターじゃないでしょうか。特に、横浜流星が演じた階堂彬が顕著でしたね。彼がだいぶトゲトゲしい感じなんですよ。ドラマ版で向井理が演じた階堂彬はもう少し物腰が柔らかく、斎藤工演じる山崎瑛ともいい関係を築いていた印象でした。ところが、映画版の階堂彬はもっとプライドが高く、山崎瑛のお人好しなところに食ってかかるなど、ドラマ版よりも尖った感じがしたんですよね。どちらのキャラクターが原作に近いのかはわかりませんが、実はこのトゲトゲしさがポイントだったりします。そういう尖った部分があったからこそ、ラストのスキームを実現させるべく奔走する彼の姿がとても映えて見えたんですよ。これはドラマ版にはなかった、階堂彬の存在を際立たせるいい演出だったなと感じました。

<階堂彬が変わったからこそ、変わらない山崎瑛のよさも映える>

正直、山崎瑛はほとんど変わっていません。キャストが竹内涼真に変わったことで、よりフレッシュさというか爽やかさは増しましたが(笑)でも、彼は彼のままでいいんですよ。階堂彬にトゲトゲしさがあるからこそ、山崎瑛の「会社ではなくヒトにカネを貸すこと」を信条に、融資という手段で人々を助けようとする優しさが光るんですよね。しかも、それって彼自身が幼少期に父親の工場が倒産したからこそ、誰よりも倒産の苦労をわかっているという自身の経験に基づいているのがキャラクター設定としてこれ以上ない強さであり、彼の魅力でもあると思います。

<銀行や大企業モノが受け入れられるわけ>

池井戸潤原作の映像作品は面白いものが多いですよね。僕が彼の作品が受け入れられる理由は以下にあると思っています。

①ビジネスでお金は必ず必要であること
②ストーリーがビジネスだけに特化していること
③大企業文化が日本に根付いていること

①は、やっぱりビジネスをする以上、「お金」は必ずついてきますよね。その根幹である銀行を舞台にすることで、みんな共感しやすくなるんじゃないでしょうか。融資だったり、事業計画だったり、業種問わず必ず出てくる話ですからね。

②は、下手に恋愛要素やコメディ要素を入れず、ひとつのことに振り切ってるからこそ、作品の世界観にのめり込めるんだと思います。最近の地上波のドラマは仕事に恋愛にと、あっちこっち行っちゃってて、どれもが中途半端になってる気がします。

③は、大きな会社特有の融通の効かなさや、そこにヤキモキする現場の気持ちってのは、会社勤めの人には痛いほどわかる部分です。会社の規模が大きくなればなるほど、個人で動きづらくなるので、そういう部分に共感されやすいのかなと。

日本では長らく、いい大学を出ていい会社に入るというのがひとつのベンチマークだったので、今までのドラマや映画での影響もあって、銀行とか大企業とかを舞台にした話は、すんなり受け入れられやすいのではないかと。だから、今ブームと言われて久しい起業やらベンチャーまわりのドラマで、日本で面白い作品が少ないのは、そういうのがまだ一般に根付いてないからなのかなと思ったりします。

<ドラマ版と映画版、どちらが面白いか>

これは難しい問題ですね。好みとしかいいようがないですから。ただ、どちらを推すかと言われたら、僕はドラマ版を推します。理由は、尺が長い分、ストーリーもキャラクターもより深く描かれており、作品への没入感が高められるからです。なので、時間がある人はドラマ版を、サクッと観たい人は映画版をって感じですかね。

<そんなわけで>

ビジネスが好きな人、ビジネスを取り巻く濃厚な人間ドラマが観たい人にはうってつけの映画です。異なる境遇で生きてきた2人のアキラとあきらがピンチを乗り越える過程はとても面白いですから!ちなみに、ドラマ版から石丸幹二だけがまったく同じ役で続投しています。


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