たかきたか寓話シリーズ(2) いたずら好き(2006年3月)

かつてブログに初めて物語風に書き始めたときの記録ですがすべては残っていません。2006~2011年までのものです。記念として残しています。
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全知全能であり全てであるようなもの

 

それを人はいろいろと思い浮かべたりするが

もし全知全能ならば

すべての性質を持っているのだから

間違いなくいたずら好きに違いない

 

そして存在なるものはとてつもないいたずら好きであったが

時には、ちょっと受けを狙ったりもするかもしれない

 

あるとき考えたのは東京はE電の山手線であった

真剣な人々が真剣にお金を稼ごうとして

あるいは部課をいかに制御するか考えて

あるいは日々同じことに無意識になりそうになりながら

E電に乗る

 

ある日少しだけ何かが変わっていた

電車に乗っているといつもと同じようにコールがある

しぶやー。しぶやー。

同じように駅の名前が呼ばれる

そこで同じように降りてみると

駅の標識はよつやと書いてある

 

びっくりして電車に飛び乗ってから

景色をながめていると

そこはやはりみなれたしぶやだった

 

いったいなんだろうなこれは

目がおかしくなったのだろうか

しかし乗客がみんなびっくりしたような顔

憤慨した顔いらいら顔をしている

 

とすればつぎははらじゅくだろう

けしきもまちがいなくはらじゅくだ

みなれたほどうきょうがみえる

はらじゅくー。はらじゅくー。

そうだよなやっぱそうだ、いったいなにを勘違いしたのだろう

ところが電車をおりてみると、表示はにしにっぽりになっている。

 

笑いながらしゃべっている顔

必死に携帯で電話している顔

ざわざわざわざわしている

「マスコミが何かやってるんじゃない?」

「手品だろうか?」

「迷惑だ、迷惑だ…」

「はっはっはっはぁ」

「なんだこれ、間違えたよ…駅員呼べよ、駅員」

 

間違えた乗客や、間違えたことを恥じる乗客や

間違えてさらに間違える乗客で

駅は混乱の様であった。

 

山手線の全駅で、駅名が書き換えられていた。

一夜のうちに書き換わっていた。

 

このふざけたいたずらはもちろん恰好のニュースネタとなった

駅はもちろんきわめて悪質ないたずらとして原因を調べはじめた

犯人は手品師のまっくりだろうか、という話が出れば

どの局でもまっくりを追い回してインタビューで

まっくりはまんざらでもなさそうに答えていたが

「これは大変コストのかかる手品だから私はギャラもなくやらないよ」

と無罪を告白した

 

では、これは新種のテロだろうかと

テロの専門家が呼ばれたりした

かれらはテロリストが人々がついに日本をターゲットにしている根拠を

まじめな顔をして話したりした

 

勤勉なJRの職員はすべての駅名の表示看板を1日がかりで元に戻したが

電光表示までが変わっているのでこれはかなり大変な作業だった

 

その作業は次の朝、無駄であったことが明らかになる

次の朝もまた駅名はシャッフルされていた

たかだのばば、えびす、たまち、しんじく、おかちまち…

 

ラッシュで込んでいる駅に、早おきで好奇心たっぷりの

人々もおしよせて大渋滞を引き起こしてしまった。

 

電車が遅れたり10分以上も遅れるという、ありえないような

事態となった。

二日も起こったということは、何か

とても意味深いものではないのだろうか?

駅名が書き換わっている以外はなにひとつ変わっていない

しかし何か意味があるに違いない

誰かが何かを意図してやっているに違いない

 

そんな椿事を喜ぶ人

普段は眠っていたり、新聞に顔をうずめている人が

きらきらした目で外の景色を見始めた

 

一方で人為的ないたずらと思う人は迷惑そうにして

実際に駅員に苦情を申し立てている姿が

どこでも見られた。

 

3日目も、同じことが起こった。

日本全体が騒然となった。

総理大臣がコメントをした

「大規模な何らかの妨害行為のようだ。これでは首都圏が麻痺

してしまうから、すぐに対策をとるようにします。」

 

大方の予想とおり、4日目も、5日目も6日めも看板はでたらめに

書き換えられた

 

興奮したマスコミは各駅の構内にテレビカメラをすえつけた

機動隊が駅の入り口や内部で待機した

大学から学者がやってきてテントをはって泊まった

警備会社が赤外線探知機を設置した

 

そうして衆目の注目する中

7日目、またもや駅名が変わってしまった

しかも、もとの正しい駅名に!

 

テレビカメラは一部始終を克明に写していた。

たしかに駅名が変化した。

瞬時に変化した。

まったく瞬時に、ごみや汚れさえも変化した。

だれもがその瞬間を見たが、誰もが変化をとらえられなかった

何が起きたのかわからなかった

 

外国のテレビ局も見に来た

モスクワから、パリから、ニューヨークからやってきた

一般の人々の利用が禁止された

 

2週間目、山手線は使えなるのではないか、とうわさされた

しかし厳重な警備のもと、誘導を受けながらなんとか

山手線は国家の威信をかけて運営された

外国のテレビまで来てるのだからあまりいくじのないところを

見せるわけにもいかなかったのかもしれない

 

いまや代々木はニューヨークであり、そのとなりはアラビア文字で

バグダッド、隣はモスクワだった。神は明らかに外国人記者にサービスをしたようだ。

 

外国の駅でも、パリがめぐろになったりしたので、

やはり人々はきわめて興奮して、パリでは大規模なデモが発生してしまった。

 

このようにして東京は世界がもっとも注目する都市となった

それによって海外の人々の目も山手線にひきつけられた

 

神のお告げ、神罰が日本に下ったという人々がいるなかで

山手線は世界的観光地となった。

 

イスラムの人々も、キリスト教の人々も仏教の人々も

たくさんやってきたし、毎日、自国の駅にもこのような

ことが起こらないかとひそかに期待していた。

 

紛争中のいくつかの国で停戦が起こった。

いきすぎた経済的格差をやわらげるための国際間の話し合いが始まった

米国がなぜかCO2の50パーセント削減を検討し始めると言い始めた。

 

この事態は77日続いて、終わった。

77日が過ぎて、人々は目が覚めたようになった。

はっとして兵隊はまた銃をかつごうとし始めたり

何か真面目くさい顔にもどって次のことを探そうときょろきょろ

している人々がどこにでもいた。

なんとなく人々はばつが悪そうに日常へと戻っていくかのようだった。

 

その後77日は駅の思い出話で、町も会社も間をもたせることができた。

そしてまた通勤で居眠りする人はあいかわらずだったし、

奇跡にしてはあまりにも意味がない出来事で

神がふざけるというのは真情に反したから

宗教者もばつがわるそうに日々の暮らしにもどっていった

 

ただこの出来事で大笑いできた人々だけが

しゃきっとして、すごしていることは間違いがない

 

それに、山手線のハワイで結婚式をあげた夫婦はなかなか

うまくいっているようだ。

 

毎日世界各地の風景に変化する記念写真の背景は

神の優しいジョークの唯一の置き土産である。


(2006年03月)


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