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都市*まちの作り方を台湾の「騎楼」に学ぶ!半屋外の歩行者空間の果てしなき可能性.「迪化街」から台北のまちを歩く.

お久し振りです。いろいろと新しいイベントごとが続いたので間が空いてしまいました。その間に広島県呉市と長崎市へ行ったり、東京生活でもグランドレベルネタは積もるばかりなのですが、今回はグランドレベル(1階)大国、台湾・台北ネタをもう一つお届けします。

というわけで、台北の迪化街というまちへ行きましょう。

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迪化街は、いわゆる漢方、乾物、布などの問屋街です。まちへ入ると、鼻をつくのは漢方や香辛料の匂い。訪ねた5月末もただでさえ暑いのに、匂いで体温がさらに数度上がるような感覚に包まれます。僕は、特に八角の匂いが好きなんですよね。

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通りは、こんな感じでバロック風の建築がずらーっと並んでいます。そして、その1階、まさにグランドレベルが全てお店。これまでのレポートにも登場してきましたが、この建物の1階部分をセットバックさせて半屋外の歩行者空間にしたものは、「騎楼」と呼ばれています。

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「騎楼」は、日射も雨もさけながら、1階をずっと歩くことができるので、非常に台湾の気候にも合っています。中国の華南地方から伝わった「張り出し屋根」がはじまりと言われているようですが、日本の統治時代に都市をつくるルール(市区改正)としてつくられたと。だからこそこうして台北中に見られるわけです。

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とにかく1階のお店は、途切れることはありません。基本昔ながらの問屋が続くのですが、たまにこんなオシャレなお店が現れるんです。この1階の使い方もさすが!写真のように半屋外の歩行者空間は確保しつつ、外側の柱まわり、道路とのエッジを有効活用しています。

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入ってみたら、そこは都市再生前進基地(URS)の拠点「cooking together」という場所でした。台湾の若手クリエイターたちの発信拠点で1階はショップ、2階はカフェになっています。写真は吹き抜けを見下ろした絵。「騎楼」の軒先をここからも見ることができます。

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スタッフのお姉ちゃんに建物のことを聞いたら、建物の奥まで丁寧に案内してくれてました。奥には中庭があって、さらに向こうにもキッチン付きの建屋が。いろんなイベントが開かれるのだとか。

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お店の壁に、街全体の絵が飾られていました。そう、街全体はこんな風に割と広いんです。左に見えるのが淡水。水運があっての迪化街ということも読み取れます。

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絵をよ〜く見ると、すべての1階が「騎楼」になっているのがきちんと描かれています。1階がすべてお店でつながっていると想像するだけでも、まちの力強い賑わいが伝わってきます。ひとつの街区が小さいので、アメリカ・ポートランドのまちのつくられ方とも重なります。

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さらに街を南下していきます。バロック風の建物が、だんだん変わってくるのだけど、1階にお店がある光景は変わらず。

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「騎楼」を歩いているとたまにこういう風景に出会います。歩行のためのリアルな補助線が引かれている!! これによって最低限の歩行者通路を確保する。そういえば、これはコペンハーゲンでも見ましたね。

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コペンハーゲンでは、タイルそのものがガイドラインとして機能していました。ガイドを引いて使い方をアフォードするわけです。コペンハーゲンのものは、ラインが完全にまちの風景にとけ込んでいるのが実に秀逸です。A看板もガイドラインに合わせた幅でつくられていますね。向こうの方にも同サイズのA看板が見えます。歩道のガイドラインから自然発生しているモジュール。(タイル三枚分の幅に並ぶカワイイ椅子とテーブル。テーブルクロスに花も効いてるなぁ。。)

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これも同じコペンハーゲン。歩道に屋根をかけてしまえば、もはや「張り出し屋根」=「騎楼」になってしまいます。

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戻って台北の油化街。どちらの国でもこのようなスペースがつくられる大事なポイントは、歩行のためのラインを引いた上で、原則ショップの前のスペースのディレクションは、ショップの人たちが自由に行っているということ。ここに制限をかけないことが大切なんです。

つまり「騎楼」という形だけつくっても意味がない。「騎楼」と使い手の能動性に委ねることが抱き合わせで、はじめて効果を出す。もう少し大きな話をしてしまうと、制限はまちを殺し、制限を緩めることはまちを豊かにすると言えるかもしれません。

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中心部に行くと、だんだん若者ショップも増えてきて、

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ここは1階の角地がおしゃれな本屋さん。

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隣には謎の雑貨屋さん。2階はカフェで、3階はシアターだそうです。このエリア、昔ながらの乾物屋がありながら、確実に相当な数の若者が新しいことをはじめています。

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謎の雑貨屋さんを覗いてみたら、ドドンとレーザーカッターが! レーザーカッターを使った雑貨屋さん、かなり賑わっていました。周辺にも同様のコンセプトのお店がちらほら。

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この建物のまわりも回廊(騎楼)がぐるっとまわっていて、

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タイル5枚分でも、セットバックしていると人の振る舞いは変わります。どうやら「騎楼」的軒先空間には、“どうぞ自由にお過ごし下さい”というものが根源的にあるらしい。

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こんなカワイイ建物もあります。1階がアンティーク家具屋ということも含めて、日本の地方都市にも通じる風景。

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このまちにはいろんな時代の建物があるのだけど、1階、グランドレベルの「騎楼」というルールだけはきちんと共有されながら、街全体がつくられている。このルールって、ノートで言うと点線のグリッドぐらいな感じですよね。その先は持ち主の自由に委ねられているからこそ、各々の能動性が発揮されたまさに生きたまちがつくられるわけです。

つまり、いきいきとした建築、まち、パブリックスペースは、どうやらこの絶妙な“人に自由を与えるための補助線”によってつくられるのだというこおとを教えてくれます。そうか。ここにあるのは...

“制限するための補助線”ではなく、“自由を与えるための補助線”なのだ!

考えてみれば、制限のデザインは楽です。簡単だからバカでもできます。基本は禁止をすればいいですからね。しかし、建築やまち、パブリックスペース等々、制限で塗り重ねられた世界は人間にとって「死」の世界です。

一方で自由を与えるためのデザインは難しいです。数センチの差、光と風の微差によって、人の振る舞いや気持ちがどう移ろうかを知らなくてはできません。けど、それを一番知っているのは、作り手ではなく、その場の使い手なのです。だからこそ、そこに居る人たちに委ねられる下地さえつくれれば、あとはまかせればいい。

“どこまでをつくり、どこからが委ねられているか”という視点で、都市やまち、商業空間を見てみると面白いのですが、その話はまたいつか)

【番外編】他のまちの「騎楼」たち

では、ちょっと「迪化街」から離れて、台北の他のまちの「騎楼」を改めて見ていきましょう。

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とある角地。やはりこんな使い方が似合いますね。

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そのままカウンターを設置というのも似合います。

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「騎楼」を歩いていて、ふっと脇を見たら、そこは「お店」ではなく「市場」!このダイレクトな感じがたまらない。

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「騎楼」沿いには、商店だけではなく、診療所や幼稚園、学習塾など、とにかく都市生活に必要なあらゆる施設が存在しています。

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でもやっぱり、これが一番馴染む使い方。

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最後に、一方でちょっと不安なシーンも目にしたというお話。

今、台湾はバブルで不動産価格が高騰しています。さらに日本と同じく地震大国でもあるので、きっかけさえ合えば「騎楼」を持つ街区が壊されています。これらを残していくべきでは?という議論も起こり始めているそうです。たとえば、↑こういう町並みの風景を見ながら、振り返ると、

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セットバックした普通のマンションに建て替えられています。これは辛いですね。日本にもよく見られる、単に建物のみの価値でしか不動産を捉えていない典型的な例。1階が死んだまちには、今後何一つカルチャーが生まれることはないでしょう。

1階のつくり方には、さまざまな手法がありますが、今回は台北の都市をつくってきた「騎楼」の一例を見てきました。これ、あらゆる点で有効かつ、これからの時代にも活かされるべき要素がつまっていそうでしょう?

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この写真のような「騎楼」がたとえば... 

大規模開発の1階の周囲はすべて「騎楼」にして小さな区割りをたくさんつくってみたらどうだろう? 建物の1階をぐるっとまわる「騎楼」に主要な部署がある役所ビルなんてどうだろう? 誰も使わないタワマン1階ロビー空間が「騎楼」になってたら、日常的にどんな賑わいを生み出せるだろう...

あなたなら、どんな「騎楼」を妄想しますか?

1階づくりはまちづくり!

それでは!

大西正紀(おおにしまさき)

http://glevel.jp
http://mosaki.com

世界の日本のグランドレベルの話を
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