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アオマスの小説

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どんな一面にも些細な物語が存在する。それを上手に掬って、鮮明に描いていく。文士を目指す蒼日向真澄によって紡がれる短編集です。
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記事一覧

パンケーキに塩を振る(小説)

「山ちゃんは甘党だね」  大学の食堂でショコラパンを食べていた俺に、同じ文学部の宮田エミ…

蒼乃真澄
7日前
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沈黙の赤ワイン(小説)

「結婚してほしい」  僕がこの言葉を放つのは、これで三回目だった。一度目は横浜の海が一望…

蒼乃真澄
11日前
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君がいる夏 (ミスチルが聴こえる)

   僕の好きな夏が終わってしまった。同時に、学校が始まってしまった。夕暮れも悲しくなる…

蒼乃真澄
2週間前
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『犬みたいな名前の食べ物』(ショートショート)

 ガラパコス携帯に、一通のメールが来た。 『今日バイトサボったから。これからそっち行く!…

蒼乃真澄
1か月前
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路地(ショートショート)

 一人、路地を歩く。何も考えず、ただひたすらに。  一匹、猫が通る。彼もまた、何も考えず…

蒼乃真澄
2か月前
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箱庭の箱を壊す (ショートショート)

 僕が生きる世界は狭い。わずかな人間関係、インスタントばかりの偏食生活、趣味もダラダラYo…

蒼乃真澄
2か月前
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ご飯が炊けるまで、誰かの生活を覗く。 (ショートショート)

 米といでさ、水入れてさ、炊飯器の中にセットしてさ、『白米』のボタン押してご飯を炊くのよ。だいたい四十分くらいかな。今が十九時だから、炊けるのは十九時四十分くらい。いつもならこの間におかずを作るんだけど、今日は親戚からもらったマグロの刺身があるし、味噌汁は昨日作ったやつが残ってるから、それ温めれば十分。つまり、今日はご飯が炊けるまで暇なわけだ。  だいたい四十分。何をしようかなって考えて、すぐに思いついたのは「誰かの生活を覗くこと」だった。  まずはインフルエンサーの遠藤

小説の中で君と生活する『転がる石』

 冬のあるとき、僕は教室の隅で小説を書いていた。    すると君は「何を書いているの?」と…

蒼乃真澄
3か月前
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喜ばしい出来事を、このメモ帳に書き留めよう。『転がる石』

 二月一日、晴れ。夢都と散歩中、道路に転がった空き缶を拾ってゴミ箱に捨てた。近くにいたお…

蒼乃真澄
3か月前
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終わりなきミルクレープ『転がる石』

「愛を重ねよう、君と僕の愛を」 「何を言っている? ミルクレープを食べ過ぎて、気が狂った…

蒼乃真澄
3か月前
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小さな家『転がる石』

 君が死んだのは十七で、僕が君を好きになったのは、たしか十五の頃だ。あの頃から、君は随分…

蒼乃真澄
3か月前
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鬼が豆を投げる(再掲)

   自分の運命を受け入れよう。これは仕方がない。世の中、我慢しなきゃいけないこともある…

蒼乃真澄
3か月前
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髭剃り

 小さい頃、髭剃りをする親父の背中を見ていた。 「どうした?」 「お父さん、僕も大人になっ…

蒼乃真澄
4か月前
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まさに多様性

 青年は、誰かのために生きようとしました。ダメでした。 「ようやく地球にも地底人が出てきましたか。見た目は、もぐらみたいですよね。もしくは宇宙人。見た目は、メイクバッチリの黒ギャルみたいで怖いと。ああ、こっちでは普通ですよ。地底人も宇宙人も、鳥人だっています。魚人も、蟹の妖精も、ケンタウロスも。最近は人間も増えてきて。まさに多様性ですね」  青年は正義は勝つ! と信じていました。嘘でした。 「ああ、あの年はたくさんの人が傷を負った年でしたね。いろいろありましたから。振り