見出し画像

手のひらの溺死

人々の手に湧く
液体と結晶で煌めく
ナルキッソスの泉
水で繋がる向こう側に
今日も偽りを流し続ける

服の柄も文字も
逆に映る鏡面の自分
美しさを求め
そして求められ
水の真実を歪めはじめた

自ら強い光を放つ
水面だけを見ていれば
体の後ろに長く伸びる
汚れた影を見なくて済む
ひと時でも心が満たされるから

名前も顔も知らない
誰かの過ちは手軽な快楽
水際にいつも張り付き
必死に探しては石を落とし
遠くの泉を波立たせては嘲る

空に心を配れない人は
いつの間にか忘れてしまう
自分の頭上が誰かの泉の
底とずっと繋がっている事を
今度は悪意の石が落ちてくる

頭から血を噴き出しながら
泉に落ちて溺れ死んだその姿
また誰かの手軽な快楽となり
人々が持っている小さな泉に
永遠に漂い続ける事になった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?