「Ep3:サヨナラだけが人生だ」

蔵王で温泉を楽しんだ後、大豊さんのお店で夜通し楽しく歌っていたら、隣に住んでいるバイキング一家に殴り込まれ修羅場を過ごすこととなった少年アリス達ご一行。

バイキングとの大乱闘は翌朝の5時まで続きましたが、双方怪我人が出ることもなく無事に仲直りしました。

「そういえば、この店は俺達が苦労して捕ってきたカジキマグロを唯一買ってくれてるところじゃないか」

と、バイキングの中の一人が気づいて味方を説得したのが仲直りのきっかけとなりました。

チルアウトするため皆で外に出ると、透き通った太陽の光が東彼方の山の向こうから差し込み、ピンクからラベンダー・ブルーへと変色する円形のグラデーションを描いたファンタスティックな朝焼けの空が、アリス達を包みこみました。

「岩井俊二監督の『ピクニック』の冒頭の、精神病院の病室でCHARA演じる患者がお気に入りの黒いコートを看護士の女に奪われそうになって、怒って看護士に襲いかかるシーンのベランダから見える空がこんな朝焼けだった。来てよかった。」

ジェフが煙草をふかしながら呟きました。彼の言葉を聞いて、

（こいつ『ピクニック』しか岩井俊二の映画知らないのかな？）

とアリスは思いました。

一方、オカマのベニマルスキーは建造物侵入罪で警察に逮捕されていました。オカマという理由づけだけで、にょい棒のついたまま女湯に入ったのが原因です。

その後、優しい大豊がチャーハンの売り上げで保釈金を払ってくれたので、ベニマルスキーは裁判まで自由の身となりました。
蔵王拘置所から外へと出てきた彼女かつ彼は、晴れた空を見上げにこやかに叫びました。

「シャバの空気は透き通っててやっぱ最高ね！ 初代iMacのボディみたい！」

さて、ドライブもグルメも温泉も酒も景色も存分に楽しんだし、そろそろ蔵王ともお別れです。
アリス達一行は一晩世話になった大豊さんにお礼をいい、代わる代わる固い握手をして別れました。

「今度は樹氷シーズンにでも来なよ！ 熱燗を用意して待ってるから！」

大豊さんはキングサーモンをバット代わりに大きく素振りしながら、車に乗り去って行くアリス達一行をにこやかに見送ってくれました。
アリス達も車の窓から身を乗り出し、一生懸命に振り返しました。

そして日も暮れかかった頃、元の港町につきました。
みんな夜通しおつかれさんというムードで、そろって酒場に入り一杯やりました。

ジェフ達は

「この町に住んだらどうだ？ そうすりゃいつでも遊べるぜ。」

とアリスに勧めました。
アリスは少し心が揺らぎましたが、家出の初心を忘れることはできず、答えました。

「気持ちは嬉しいよ。けれど世界にはまだ見たことのないものがいっぱいあって、僕はそれをなるべく残さず見にいきたい。この町も好きになれたけど、とどまらないで旅を続けたい。」

みんなはその答えを聞いて寂しがりましたが、アリスの人生を踏みにじるわけにもいきません。
心機一転してアリスを送り出すことになりました。

「もし旅の途中、壊れた信号機を見かけたら電話してくれ。３分で駆けつけるから。」

電機工事士のジェフはそう言うと、アリスに名刺を渡し肩をたたき激励してくれました。

オカマのベニマルスキーは『サヨナラだけが人生だ』という言葉を教えてくれました。
イブセマスジという、日本の有名な作家が書き残した言葉なのだそうです。
その後5分間ほど『サヨナラだけが人生だ』がみんなの間で流行語になりました。

今中慎二投手は自分のサインボールをくれました。今中さんも明日から中日ドラゴンズの1軍投手コーチとして名古屋に戻らなければならなくなったため、みんなとお別れです。

キャサリンは

「あたしはアリスについていく！」

と言い、アリスの旅のお供をすることになりました。

別れの印に、皆で肩を組んで泡盛を片手に『サライ』を熱唱しました。たまたま隣のテーブルで飲んでいたバイキング達も加わって一緒に歌ってくれました。谷村新司似のバーテンダーも嬉しそうな顔で聞きいっていました。
そうして港町の夜は更けていきました。

翌朝、アリスはキャサリンを連れて町を出ました。
晴天の中、日傘を差して二人で仲良く、港から内陸の峠へと続く道を歩いていきました。

やがてブナに囲まれた山道へと入り、あたりには誰もいなくなりました。
少し開けた広場に出たところで、2人は一休みすることにしました。気分転換にベンチの上で仲良く一発やっていると、突然背後から怒鳴り声が聞こえました。

「てめえら、田舎の美容学生じゃあるめえしセックスしかやることねえのか！」

後ろを振り向くと、広場の隅にテントが張られており、中から顔だけ出して怒っている男がいました。
顔は銀杏ＢＯＹＺのドラマ—に似ていました。

つづく


作：KOSSE