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不埒の星のアリス。Ep1

「Ep1:ぬかるみじゃなくて明るい海へ」

これから記すお話は、もう1人のアリスの物語。

大陸から遠くはなれた、だだっ広い海の中にチャプリンと浮かぶ無人島に、アリスという少年が暮らしていました。5歳でブルーハワイの作り方を覚え、8歳でメトロン星人のファンになり、14歳で家出しました。父親は島に漂着したレコードプレイヤーの針で、母親は島の木から落ちたマンゴーのしずくでしたが、アリスが物心ついた頃には二人とも潮風のせいで蒸発してしまっていました。それなのに14にもなって家出したのです。

島に漂着した山ほどの大五郎の空きペットボトルと、半年前に島に遊びに来たジェイミー・ハイネマンからもらったダクトテープでイカダを造り、アリスは島を出ました。
そして地平線しか見えない大海原の中をひたすらこぎながら、次に向かうべき場所を探しました。旅の途中で出会ったリック・モラニス似のウミガメにいいことを教えてもらいました。

「ここから日が沈む方角に向かって2日も漕げば、そこそこ賑やかな港のある島につくぞ。でもロクデナシでスカタンのアホばかりいる島だ。オレもあそこが耐えきれなくなって出てきた。あそこよりアホが多いのなんて福島県郡山市くらいだよ。ま、行きたいなら行きな。」

話を聞いて興味を持ったアリスは、さっそく島へと向かうことにしました。保存食として持ってきたくぢら餅を頬張りながら、がんばって2日間イカダを漕ぎ続けました。


そして2日後、目標にしていた島の港へとなんとか辿り着きました。
得意の鉛筆デッサンで観光ビザを作り、かに味噌目当てのグルメで間抜けな観光客を装って港内に入りました。

「潮の香りがするぜ!」

とハンチング帽をかぶってかっこつけたものの、14年間潮の香りのする島で育ってきたことを思いだし、ちょっと情けなくなりました。

港を抜け、人で賑わう街を歩いてるとライブハウスを見つけました。入口前の売り込みのおじちゃんが呼び掛けてきます。
「いらっしゃい!ルイーダのライブハウスだよ!友達つくるならここだよ!兄ちゃんどうだい?」

「今日は誰が出るんだ?」
アリスは聞き返しました。

「巷で話題のゲジゲジ・トルーパーズが出るよ!」

「あのバンドは歌が下手な癖に態度がでかいから嫌いだ。他のバンドは?」

「メンバー全員が久保田利伸のクローン人間の『ザ・コンバインズ』が出るよ!」

「じゃあそれがいいかな。」

アリスは一晩、『ルイーダ』で椅子に座って酒を飲みながら、流れてくる音に酔いしれていました。酒の場で新しい友達もできました。ハイ・スタンダートの大ファンだと言う電気工事師のジェフに、オカマバーで働きながらラップを勉強しているというオカマのベニマルスキーさん、そして元中日ドラゴンズエースの今中慎二投手です。

「ハイスタのMaking the roadはまさに俺のバイブルだ。」
と熱い眼差しで語るジェフは落ち着きながらも熱意あふれる男で、ベニマルスキーは自分のドレッドヘアを『ソーシャル時代のパンチパーマ』と呼ぶ気さくなオカマの兄ちゃんでした。また、「スローカーブが投げられないような男はおしまいだ。」という今中慎二投手の言葉に、アリスは強く心を打たれました。

いっぽうで恋人もできました。短大生のキャサリンです。トイレで3回キスした後一発やりました。

「まあ、椰子の実でやるよりはマシかな。」

というのが情事を終えた時のアリスの感想でした。

ライブが全て終わった後、アリスはキャサリンと一緒に近くの廃ビルの屋上で仰向けに寝転んで、光かがやく星空を眺めていました。

廃墟になった自動車工場を買い取って、中をイルミネーションでライトアップして結婚式を挙げるなんてどうだろう、なんて話を2人でしながら夜は更けていきました。


つづく

作:KOSSE

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