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不埒の星のアリス。Ep2

「Ep2:地図も時計もここじゃ洋梨」

新しい島で新しい友と出会い、新しい恋人と新しい夜を過ごした少年アリス。

喧騒にまみれた夜と入れかわるようにやって来た、静かな朝。
港に集うウミネコ達が餌をもとめてミョアーミョアーと叫ぶ声でアリスは目を覚ましました。

キャサリンといっしょにウミネコ達にパンの耳をご馳走した後、ジェフとベニマルスキーと今中慎二投手と合流しました。みんなで喫茶店でピロシキを食べながら、これからどうしようかと話し合いました。

「海は楽しんだから、今度は山に行きたいな。」

アリスはそうつぶやきました。

「そうだな。海がこの世でいちばんだなんて、イオンモールにたむろする男子高生みたいなセリフだよな。岩井俊二の映画に描かれているような閉塞感を求めて、次は山に行くべきだろう。」

とジェフは同意してくれました。ベニマルスキーもわくわくとした表情です。

「あたし、山に心をラミネート加工されたい!」

というキャサリンの一言で決定し、皆で蔵王に行くことになりました。
ベニマルスキーの愛車のボルボ240に全員で乗り込み出発です。
田舎道から高速道路へ乗り込み、道路脇のキロポストでビートを刻んでみなそれぞれ好き勝手歌っているうちに、蔵王に辿りつきました。

「空気は美味い上に温泉もあるし、ハイジも顔負けだよな。」

みんなで蔵王の透き通った空気を満喫していると、今中慎二投手が急に思い出した様子で言いました。

「そういえば、かつて僕のチームメイトだった大豊が、今蔵王で中華料理屋をやってるんだ。」

なつかしさからか、今中慎二投手の目はきらきらと輝いているようにアリスには思えました。みんなも盛り上がり、さっそく大豊さんの店に遊びに行くことになりました。


お店の前に到着しました。
大豊さんは店の前で、2メートルもあるカジキマグロを一本足打法でスイングしていました。
素振りに夢中の様子でしたが、かつてチームメイトだった今中慎二投手がやって来たことに気づくと、大豊さんはとっても喜びました。満面の笑みで皆を店の中へと招き入れてくれます。
「やあやあ、みんな遠路はるばるようこそ。あまりにも暇だったから現役復帰してやろうと素振りしてたらつい夢中になっちゃってね。今から料理を作るから、しばらく席について待っててくれ。」

アリス達は円卓をかこんで座り、回転テーブルでグランドマスター・フラッシュごっこをして料理が来るのを待ちました。
しばらくして、大豊さんがホカホカのシシカバブを持ってきてくれました。今中慎二投手は目を丸くしました。

「あれ?大豊、ここ中華料理屋じゃないのか?」
「ごめん、週ごとにジャンルが変わるんだ。」

大豊さんはすまなさそうな顔をして答えました。

「大丈夫、美味しい料理に国境なんてないよ」
とアリスは慰めました。

「ありがとう。君こそ真のグルメさんだ。」
大豊さんは再びにっこりと微笑みました。

そうしてみんなでシシカバブとチャイをたらふくおいしくたいらげた後、そろって温泉街の方へ向かい、大豊さんの案内で蔵王マニアしか知らないという穴場の秘湯に入ることになりました。温泉は男湯、女湯、混浴の3通りに分かれており、アリスとキャサリンだけ他と別れて混浴風呂になかよくつかりました。

「こんな暖かい水の中に入るのは初めてだ。」
アリスは感動しました。
そして温泉の中でキャサリンとまた一発やりました。
濁り湯なので何か出てもばれません。

風呂から上がった後、みんなと合流し、再び大豊さんの店へと戻りました。帰り際、この世のものとは思えないほど色鮮やかで美しい夕焼け空が彼方向こうに広がり、アリス達を妖艶な光が包みこみました。

「岩井俊二の『ピクニック』のラストシーンがこんな夕焼け空だったな。来てよかった。」
ジェフが煙草を吸いながら呟きました。アリスはこくりとうなづきました。

大豊さんのお店に戻った後、みんなで石狩鍋をつつきながら楽しく談笑しました。近所に住んでいるチェ・ホンマンも遊びに来ました。

「おれ、この辺じゃ蔵王のダイダラボッチって言われてんだよねー。そんな怖くないのにさー。」

チェ・ホンマンははにかんで笑いました。そして皆でテキーラを片手に肩を組んで『燃えよドラゴンズ!平成FIVE』を大声で熱唱しました。すると隣の家に住んでいるバイキング一家が騒音に怒って殴りこみにきました。大乱闘の中、アリスはバイキングに横四方固めを食らわせながら、オカマのベニマルスキーが女湯の中へと消えていったまま戻ってきていないことに気づき、少しだけ心配になりました。


つづく


作:KOSSE


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