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君は欲しいものは何でも手に入れ、そして忘れてしまう

こんな夢を見た。僕は水族館にいる。床も天井も、水槽の中の水も、魚も全てピンク色だ。僕以外には誰もいない。ここには君と一緒に来ているような気がする。でも君はどこにもいない。名前を呼ぼうとするがそこで、彼女の名前を知らないことに気づいた。代わりに大声で叫ぼうとするが声が出ない。それなら探し出すまでだと、走り出したいのに足が動かない。するといつも君がつけているバニラみたいな甘さがほのかに香った。ローラメルシエだっけ。ふと目の前の巨大な水槽をじっと見ると反対側に君はいて、二人はまるピンクの海の中にいるよう。何かを僕に喋っているが、もちろん聞こえない。なんと言っているのか知りたくて君の唇の動きを見つめた。そこで目が覚めた。まだ4時半だ。君はここにいるはずないのに、バニラみたいな甘ったるい匂いがして、散らかった部屋には脱ぎ散らかした僕の服と、飲みかけだったり潰れた缶チューハイ数本、家にいるときしかかけないダサい眼鏡、横には知らない女が寝ていた。あー、またやっちったのか、僕は。

平日だというのにやらかすのは何度目か分からないが、対処するのは慣れたものだ。二度寝した後いつも通りの時間に起き、熱いシャワーで昨日の残骸と後悔を流し、何食わぬ顔で身支度をし、女を甲斐甲斐しく駅まで送り、ブロック削除して、普通に出社した。デスクでプロテインを飲みながら僕が既読無視しているLINEのトークルームを眺めた。最後は君の「また会える?」。僕はずっと君に苦しめられているというのに、残酷なことを言うんだよな、いつも。だからこれはちょっとした仕返しなんだ。もちろん君が僕の既読無視にやきもきしてるわけはないと分かっている。ただほんの少しだけでも心に引っかかってくれたら。

君は僕の理想のタイプとは真反対みたいな女性だった。でもすごく仕事ができて、誰とも群れないところがかっこいい。クールでミステリアスな雰囲気なのに、ランチのおまけでついてくる甘い豆乳プリンが大好きなところは可愛い。初めて君と昼間に会ったときの「そのプリン要らないなら頂戴」、なぜかその言葉が今も耳に鮮やかに響いてる。君は欲しいものは何でも手に入れるよな。手に入れたらすぐに忘れてしまうことも知ってる。多分僕のこともそのうち。君はせっかちで、LINEの返信は急かすし、飲食店での注文は秒だし、スカイウォークはヒールをコツコツいわせて早歩きするし、もう追いつけない。ぼーっとしてたらあっという間に昼休みで、僕の足はそれでもあの日君と行ったカフェに向いてしまうのだった。



▼この物語のアンサーソングでした!


 

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