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私はもう、君の隣を歩くのが似合わない。

だんだん会ってくれなくなってきてるような気がして、だんだん脳のキャパを君が占め始める。一度気になったら止まらない。仕事忙しいのかな。またいつものあの趣味に没頭してるのかな。他に好きな人でもできたのかな。彼女でもできたのかな。私のこと、忘れちゃったのかな。

と心配が頂点に達した矢先に来た返信に、生理が始まったばかりの自分を呪う。ごはんよりドライブより、したいんだけど、これはただの欲じゃない。肌に直接体温を感じたいと思うのも愛。山手通りのニトリの横につけた黒い物騒なBMW、乗ってる君は何回見ても素敵。手慣れた様子で丸の内の巨大な地下駐車場に吸い込まれてゆくのも、そんなに敷居の高くない店でスープカレーと季節限定のラフランスラッシーを注文してくれるのも、トイレ行ってる間にスタバでコーヒーを買っておいてくれるのも。私はリップを塗り直してもう一度君に可愛いと思ってもらう努力をする。

「仕事できる男が好き」「スポーツカーが好き」「何考えてるか分かんない人が好き」こういう価値観は全部君によって形成されたものである。私の考え方や脳の構造を造り変えた人が私の人生から消えたらどうなるのだろう。不可逆的に君と出会う前の自分にはもう戻れないことはたしかだから、それはそれとして、君が私と触れ合った証拠が刻み込まれているのは悪くない。誕生日プレゼントにスタバのギフト以外のものをくれたのは今年が初めて。それは私の好きなヘアフレグランス。500円のスタバのギフトで喜んでた私にもう一度出会いたい。あのときは、もっと全力で、何も知らなくて、ずいぶん可愛かったよね。バイクの乗り方だって知らなかった。

クルマを降りると細かい霧雨、傘は要らない。お気に入りのベレー帽は少し濡れそう。ヒールはいてもちょうどいい君の身長が好き。なのに修理に出しそびれて釘が出てヒールがカチカチ鳴るのが恥ずかしい。君の隣を歩くのにそんな音は似合わないのに。

きれいなとこ通る?うん、表参道とか?ああ、見逃した。

ねぇもう帰る?明日から出張でさ。

すれ違う。噛み合わない。私のことまだ好き?なんて今更聞けない。別れ際にしたほんの軽いキスだけを信じて、私のことまた忘れないでねって言葉にできなくて、好きでもなんでもないフリしてクルマを降りた。私、きっとこういうとこが可愛くないんだね。私たちがあの頃みたいに時間と感情を激しく掻き回すことはもう二度とない。


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