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人に本を勧めるのは、実は結構難しい。

「趣味は読書です」と公言していると、よくこんな質問を受ける。

“なにかオススメの本ある?”


実際にこの質問を受けたことがある人はお分かりかもしれない。

これ、こんな軽いノリで聞いていい簡単な質問とちゃうで。

おすすめしたい本はたくさんあるけれど、いや、おすすめしたい本がたくさんあるからこそ、この質問に即座に答えるのは、実は結構難しかったりする。


人に本を勧めることは、ひとつのスキルだと思う。

ただ自分が好きな本を勧めても、なぜか相手の心に響かず、会話が盛り上がらない……なんてことがよく起こる。聞いてきたのはあなたなのに……。

特に、自分なりに色々と考えて、誠心誠意お勧めの本を紹介したときに、相手の反応が芳しくないと、ちょっと心が折れそうになる。


相手の心に届く選書をするためには、経験と技術が必要なのだ。これは、一朝一夕でできるような、簡単なことではない。

そして、「なにかオススメの本ある?」は、本好きの意地とプライドをかけた戦いの合図なのである。誰かに聞くときは、心して行うように。


……なんてことを、花田菜々子さんの『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』という本を読んで、考えた。

菜々子、33歳。職業、書店員。既婚、ただし家を飛び出し別居中、どん底人生まっしぐら。そんなある日、目についた出会い系サイト「X」に登録、初対面の人にぴったりの本をおすすめし始めて……これは修行か? 冒険か? 「本」を通して笑って泣いた、衝撃の実録私小説。読めば勇気が湧いてくる、感動のベストセラー。

あらすじ


長すぎるタイトルが目を引く本書。あらすじを読んで確信した。こんなの絶対面白いに決まってる。

読んでみるとやっぱり面白くて、著者・花田さんが出会い系サイトで知り合った方にどしどし本を勧めていくのだが、次第に仲間が増えていき、人生の展望が開いていく展開が良かった。

それにしても花田さん、行動力がすごすぎる。初対面の人に、こんなに積極的に本を勧めるのは、なかなか難しいぞ……。


本書を読み、人に本を勧めるうえで大切なのは、「相手の関心を正しく汲み取ること」だ。

つまるところ、本の面白さをいかにプレゼンするかという「話す力」よりも、「聞く力」の方が大事なのである。

当然ながら、何に興味関心を持っているかは、人によって千差万別だ。つまり、どんな本を面白く感じるかも、人によって全然違うのである。

同じ本を同じように勧めても、相手の関心によって、心に響くかどうかが左右されてしまう。本を勧めるうえで、万人に伝わる方法はないのだ。


相手がどんなことに関心を持ち、どんな本を読みたがっているのか。それを正しく把握し、相手の琴線に触れる本を、さりげなく提案すること。

これこそが、人に本を勧める極意である。いやムズ過ぎる。完璧なコミュニケーション能力が求めらる、最高難度の技術だと思う。



ここで、ふと思い至る。

私は普段noteでオススメ本を紹介しているのだが、noteのように、不特定多数の人に本を勧めたい場面では、どうすればいいのだろう?

不特定多数の人に言葉を届けるとなると、個人の関心を把握したうえでそこにアプローチする手法は、なかなか取りづらい。一体どうすればいいというのか。誰か教えて。


ここ数年ほど、「国内外の古典作品をしっかり読みたい」という思いが強まり、ドストエフスキーやトルストイ、モームなどの作品を少しずつ読み進めている。

そんな中、津村記久子さんの『やりなおし世界文学』を読んだ。海外の有名な文学作品について、大まかなあらすじくらいは、押さえておきたいと思ったためだ。

すると、この『やりなおし世界文学』、もちろん海外文学案内としても非常に面白いのだが、不特定多数の人に本を勧めるコツが学べる本でもあったのである。

『ボヴァリー夫人』は前代未聞のダメな女? 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』はDQN小説!? 待ってるだけじゃ不幸になるよ『幸福論』。人が人を完全に理解することは不可能だけれど、それでも誰もがゆらぐ心を抱えてゆるし生きていく『灯台へ』。古今東西92作の物語のうまみと面白みを引き出し、読むと元気になれる世界文学案内。

あらすじ


津村さんが書く文章には、”本を読みたくなる魔法”がかかっているのではないかと疑うほど、本の魅力が凝縮されている。

本書は、合計で92冊の海外文学作品を紹介しているのだが、本当に92冊全部読みたくなる。私の「読みたい本リスト」が、過去類を見ないペースで更新されていった。なんでこんな芸当ができるのか。


本書を読み、文章で本を勧めるうえで心掛けた方が良いと思ったのは、「自分の感想や経験談を、自分の言葉で伝えること」だ。特に「自分の言葉で」という部分がポイントである。

本紹介で陥りがちなのが、本のあらすじや起承転結など、”事実”のみを並べてしまうこと。もちろんこれも、本を勧めるうえで重要な要素ではあるが、決して要ではない。


大切なのは、その本を読んで自分が何を感じたかについて、自分の言葉で伝えること。そして、その本を読んだ延長にある、自分の実体験も添えること。結局のところ、人の心を動かすのはこれなのだと思う。

あらすじや設定など、本そのものが持つ魅力は、あくまで入り口。そこから「読みたい!」と相手に思わせるためには、自分の心がいかに動かされ、それがどんな影響を及ぼしたかを、しっかりと伝える必要がある。

津村さんの文章には、ご自身の感想や経験について、津村さんの言葉で真っ直ぐに書かれている。読者はその文章を読み、「自分がこの作品を読んだら何を感じるのだろう?」と、読書を通じて得られる経験について、期待を抱くことになる。

私も、こんなパワーのある文章を書けるようになりたい。そんなことを考えながら、70冊近く急増した読みたい本リストを前に、途方に暮れた。これ、いつ読み終わるの?



なお、私は今、本紹介の文章を書くためのコツを掴めたような気がしているが、あくまで”気がしている”だけなので、注意が必要だ。

間違っても、このnoteの本紹介のクオリティが次回から爆上がりするなどと、勘違いしてはならない。そんなことは、容易に起こらないのである。

ただ、自分の「本が好き」という熱量が、できる限り鮮度を保った状態で皆さんのもとに届くよう、少しずつ、文章力を磨いていきたいとは考えている。

とりあえず、今回のnoteで取り上げた2冊は、どちらも最高に面白いので、ぜひ手に取ってみていただきたい。




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