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今日も、読書。 |ダンテ『神曲』をめぐる追跡劇

ダン・ブラウン|インフェルノ


「インフェルノ」とは、「地獄」のことである。

ダン・ブラウンさんの『インフェルノ』は、ダンテの『神曲』<地獄篇>を題材としており、「地獄」が重要な鍵を握る。そして、物語に隠された「インフェルノ」のもうひとつの意味に気付くとき、読者は戦慄する。


「地獄」。そこは”影”—―生と死の狭間にとらわれた肉体なき魂—―が集まる世界。目覚めたラングドン教授は、自分がフィレンツェの病院の一室にいることを知り、愕然とした。ここ数日の記憶がない。動揺するラングドン、そこに何者かによる襲撃が。誰かが自分を殺そうとしている? 医師シエナ・ブルックスの手を借り、病院から逃げ出したラングドンは、ダンテの『神曲』の<地獄篇>に事件の手がかりがあると気付くが—―。

上巻あらすじ


ちなみに私は、ダンテ の『神曲』は当然の如く未読である。


『インフェルノ』は、『ダ・ヴィンチ・コード』で一躍有名になった「ロバート・ラングドンシリーズ」の、第四作目である。ロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演で映画化もされており、タイトルを耳にしたことがある方も多いだろう。

これはロバート・ラングドンシリーズ全体にも言えることだが、『インフェルノ』では著者ダン・ブラウンさんの知識量の膨大さに、圧倒される。

美術、文学、歴史、宗教、建築—―こんなにも多要素の小説を、たったひとりの人間が創作したことはもはや奇跡である。どう考えても、700円くらいの文庫本で読めていいような作品ではない。

それもそのはず、ダン・ブラウンさんはひとつの小説を仕上げるまでに、非常に長い時間をかけて取材、調査、推敲をされるのだそうだ。彼の作品のどこまでも広がる壮大な世界観は、その粘り強く、綿密な作業の賜物なのだ。

軽々しく読んではいけない。それこそ、ダンテの『神曲』を読むような心持ちで臨みたい。


ダン・ブラウンさんの調査・推敲に対する真摯な態度と自信は、まえがきの「事実」という頁によく表れている。

この小説に登場する芸術作品、文学、科学、歴史に関する記述は、すべて現実のものである。

「事実」

注意してほしい。「すべて現実のものである」だ。「すべてフィクションである」ではない。

力強く言い切っているところが頼もしい。事実は小説よりも奇なり。歴史上実在した人物や、現存する建築、芸術作品を題材にして、ここまで面白い小説が創れることに感動する。


本作は、芸術や文学に加えて、社会問題や科学知識の要素もある。特に社会問題の観点からは、「人口増加」と、それに伴う諸問題が、本作のキーになっている。

そして科学知識の観点では、「疫病」の蔓延が取り上げられている。私たちが生きている現在の世相と合致するところもあり、その恐ろしさが真に迫ってくる。

そういった教養的な要素を随所に取り入れつつ、完全無比のエンタメ小説としてまとめられているところがすごい。この小説、めちゃめちゃ読みやすいのだ。

疾走感あふれる文章と、視点が次々に切り替わる、読者を飽きさせない構成力。文庫で上中下巻の3分冊なのだが、信じられないくらいあっという間に読み終わってしまう。



ロバート・ラングドン教授の、明晰な頭脳も健在である。本作のラングドン教授は、記憶喪失状態からスタートする。右も左も分からない混沌とした状況下で、それでも鮮やかに暗号を解き明かしていく。

もちろん、シリーズ恒例、冒険の過程で出会った美しい女性と、いい感じになる展開も必見だ。本作は、その女性との関係に、とある衝撃的な事実が待ち受けているのだが……。

そしてこれもシリーズ恒例だが、とにかくラングドン教授が、敵に追われる。追われて、追われて、追われる。追いつかれては、ギリギリのところで撒いて、また追いつかれては、これまたギリギリで回避する。

このスリルが堪らない。追跡劇を書かせたら、ダン・ブラウンさんの右に出る者はいないのではないかと思っている。


『インフェルノ』はシリーズ第4作目だが、こちらから読み始めても十分に楽しめる。もちろん余裕がある方は、第1作目の『天使と悪魔』から順番に読んでみてほしい。「読書って楽しい!」と実感するはずだ。



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