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#20 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

「お嬢さん、いい加減にしないと、お父さんお母さんに叱られるだけじゃ済まなくなるぞ?」
 投げかけられた声に振り返ると、50 代半ばの男性…恐らくクロサキさんが、入口を塞ぐようにして立ち、こちらを睨みつけていた。その背後には、クロ君の首根っこを摘んでいる犬耳の女性(たぶん秘書さん)が控えている。
 もしかしたら、この世界に来てから一番の危機なのかもしれない。私にとっても、この世界にとっても。
 チラリと天井を見上げると、先程よりも亀裂が大きくなっているように思える。棺の中のミクべ神を中心に世界の崩壊が始まっているとしたら、真っ先に私達がぺっちゃんこになっちゃうかも?
 ならば早急に事を片付けるために、まずは平和的に話し合いから始めてみましょう。あの方達だって、志半ばで倒れるのは不本意でしょうし。
「勝手に入り込んでしまってごめんなさい。実は複雑な事情がありまして…」
「サキシマという男に変な事を吹き込まれたんだろう?」
「え?いや、あの、この世界がですね…」
「あの男はミクべ神に心酔してたからな。君は騙されただけなんだよ」
「あの、だから、サキシマさんは関係無くてですね…」
「今すぐ謝ってここから出てもらえば、君は被害者って事で悪いようにはいないから。さあ、早くこっちへ来なさい」
「………コレ!少しは人の話を聞かんか!!」
「!!!??ご、ごめん」
 …つい怒鳴りつけてしまったけど、まぁ向こうも落ち着いてくれたようだからヨシとしましょ。
「こちらこそ急に怒鳴ったりしてごめんなさい。でもね、ちょっと落ち着いて聞いて欲しいのだけど…まぁ、時間もそれ程無いようだから手短に話すわね」
 そう言って目線を天井に向けるとクロサキさん達もつられるように見上げた。そこでようやく天井の惨状に気付いたようだ。彼らの顔に緊張が走る。
「崩れかけてる?いったいいつの間に?」
「えっとね、あなた達がどこまで知ってるか分からないけれど、この世界のミクべ神様が倒れた事によって、世界が壊れかけているの」
 私の言葉にクロサキさんが眉をひそめた。それはそうよね。私だって突然そんな事を言われたら混乱する。
 でも、地上界のミクべ神から聞いた事や、そもそも私やクロ君シロちゃん達が異世界から来た経緯を納得してもらえると思えないし、そもそも説明している時間が無い。
「細かい事は後で説明するわ。今はそれよりも私がここに来た目的…この世界の崩壊を止めさせて欲しいの」
「…止めるって言ってもどうするつもりなんだい?」
 私は頷き、手に持っていたペンダントの宝石部分を彼らに見えるよう持ち上げた。
「これは、別の世界に居るミクべ神から頂いた宝石」 
「別の世界?そこに居るミクべ神とは別に居るという事なのか?」
「その辺りも後で説明するわ。…で、この宝石を神様の頭辺りで割れば、この世界のミクべ神様を復活させる事が出来るの。そうしたら、後は彼女が崩壊を止めてくれるはず」
 崩壊を止めた後、彼女がどうするかは分からないけれど、地上界のミクべ神から察するに、きっと彼女も彼らを悪いようにしないんじゃないかしら?
「その為に、まずはこの箱の中に入ってる透明なゼリーみたいな物をどうにかして欲しいんだけど…」
「ゼリー…」
 クロサキさんが顎を撫でつつ考えこむ。
「その透明の物体なら私達ではなくミクべ神自身が施した物ではないから、どうにもならんぞ?」
「え?」
「そもそも宝石を割るったって、どうやって割るつもりなんだい?見た所、ハンマーみたいな道具は持ってないようだけど」
「え?え?」
 ゼリーがミクべ神自身によるものだった事も驚いたけど、それ以上に、宝石を割る手段が無かった事に今更ながら気付き自分の考えの至らなさに驚き呆れた。
 考えてみれば、屈強な男性ならともかく、こんな少女の姿になった私に宝石を素手で割ろうだなんて、非常識にも程がある。
 ならばどうしたら…
「…っ」
 棺へと視線を落とすと、再び横たわるミクべ神と目が合った。そして、今度は微かに唇が震える。
───割って───
 そう言ってると気付いた瞬間、またあの閻魔様の知識が頭の中に流れ込んできた。
『世の万物には、その物の核とも言える点がある。そこを突けばその物を破壊する事が出来る』 
「…核?」
 なんか昔、そんな感じの点を突いて敵を倒す漫画があったような?いや、それは今はどうでもよくて。
 宝石を改めて見てみると、今まで気づいてなかった点がある…ような気がした。
 実際にはそこには何も無い、ツルツルとした面なんだけど、そこが核なんだ、という妙な確信があった。
「割る方法は有るわ」
 宝石の、ある1点に親指を添えグッと力を込める。すると、まるで薄い氷を割るような軽い抵抗と共にピシッと音を立て、宝石にヒビが入った。 
 そして、そのヒビから幾つもの光の筋が現れ、辺りが真っ白になり、とても目を開けてられず私はギュッと目を瞑った。

#21につづく


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