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#13 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

 サキシマさんが案内してくれたのは、階段を1つ降りた2階にある、もう1つの事務所。外装からして、本来はこちらがお客さんを招く事務所なのかもしれない。
 扉脇にはサキシマさんのポスターが貼ってあって、選挙ポスターにありそうな笑顔とポーズの横に、「神と共に生きる」というスローガンが書かれている。
 生前居た世界ならば「なんて胡散臭いんだろう」と思う所なんだけど、ここでは実際に神様と一緒に政治を行っているようだから、おかしな事ではないんでしょ。
 なんなら「地上界のミクベ神の遣い」として現れた私達の方が、よっぽどか怪しいでしょうし。
「さ、どうぞ」
 サキシマさんが扉を開けてくれた。そこはちょっとした応接間のようになっていて、アコーディオンカーテンで部屋が区切られていた。
 私達は彼に促されるまま革張りのソファに座り、対面にサキシマさんが座った。シロちゃんとクロ君は私の足下でチョコンと並んで座ってる。
「では、まずはお互いの自己紹介でもしましょうか」
 サキシマさんは愛想のいい笑みを崩す事なく続けた。
「私、少し前までは副総統をしていたのですが、今は「神の柱」という団体を仕切らせてもらっているサキシマミツルと申します。ちなみに神の柱の活動内容については?」
「ええ、大体ユキノさんから伺ってます」
 そう答え、今度は私も自己紹介をする。
「私はユメミ。で、こっちの足下にいる子達はシロちゃんとクロ君。私の連れです」
 私の目配せに応じて、シロちゃんクロ君がニャアと鳴くと、「どうも」と律儀にサキシマさんが頭を下げた。そして、手を軽く組むと表情を引き締めた。
「それで、地上界のミクベ神様の遣いという事ですが…地上界というのは?」
 そう聞き返され私はハッとした。
 私は地上界にいるミクベ神から、この世界の創りについて聞いていたのだけど、この世界の人達の常識として、世界がどういう形になっていると知っているのか、まだ分かっていない。
 私と同じ知識があるなら良いのだけれど、自分の居る世界しか知らない人達にとっては、自分が住む世界の上に2つも別の世界が重なっていると言っても、そう簡単には信じてもらえないだろうし…。とはいえ、この世界を救う使命を受けてしまったからには、なんとか私の話を信じてもらわなくちゃ…
「えっとですね、信じてもらえるか分からないんですが、この世界は3層に分かれてましてね、それらを1本の柱で支えているんです。で、この世界は地下界で地上界はこの1つ上、更に上は天上界で…って、あの、サキシマさん、聞いてらっしゃいます?」 
 サキシマさんは先程からずっと目を閉じたまま。そして、その表情は実に満足そうで…
「ええ、もちろん、聞いてます。聞いてますとも!」
 サキシマさんがやけに力のこもった声を出したかと思えば、突然ガタッと立ち上がった。私も足下の2人も同時にビクッと震えた。
「あ、あの?」
「いやぁ、ずっと推論でしかなかった世界多層説に、ついに確証が得られましたね。いや、こんな嬉しい事はない!」
「は、はぁ…」
「クロザキさんは、ずっとこの世界の上に別の世界なんて無いだなんで言ってたんですが、やはり神の言う事に間違いは無かったって事ですね」
 目を輝かせ、グイグイと身を乗り出してくるサキシマさんは、まるでアイドルの大ファン…えっと、こういうのって信者って言うんだっけ?そんな感じ。
「それでそれで?地上界のミクベ神様はどんな方です?この世界と同じ理知的で聡明で美しい方なんですか?」
「あ…えっと…」

 サキシマさんの話を聞き始めてから約2時間程。ようやく私達は解放された。
「なんか…すごい人だったね」
 人の姿となったシロちゃんの顔に浮かぶ疲労の色が濃い。クロ君も口には出さないけど、その表情から私達と同じ気持ちなんでしょう。
 サキシマさんがミクベ神の盲目的信者なのはよく分かった。その後お茶をもってきてくれたユキノさんの喝により平常心を取り戻したサキシマさんから得られた情報によると、地下界のミクベ神は(サキシマさん曰く)とても賢く、美しく、カリスマ性に溢れた方なのだそう。ちなみに性別は不明。いつもクロザキさんとサキシマさんに、政治の方針や予知、技術を伝えて、それらを総統・副総統が国民に広めていたのだとか。
 で、その伝達時に2人にだけ、この世界の上に更に別の世界がある事や柱の事を伝え、この世界は全ての世界を支える重要な場所なのだと話したのだそう。この話は、神様大好きなサキシマさんは即信じたんだけど、野心的なクロザキさんは、嘘で真実を隠しているのだと思ったらしく、神は実はもっと素晴らしい技術や力を持っているはずだと信じて神に危害を与えたのではないか?とサキシマさんは考えてるみたい。
 ただ、クロザキさんが実行したのはサキシマさんが出張で居ない時で、更に悪い事にクロザキさんの罠にハマり、サキシマさんは副総統の地位を奪われ、神様に会うことも叶わなくなってしまった。なので、現在神様がどういう状況なのかは分からないけれど、とにかく神様を助けるために、この神の柱という団体を立ち上げたのだという。
 つまりはサキシマさんも肝心の神様の居所はもちろん、生死も分からないという事。ただ神様は普段は国会議事堂のような所の最奥か、その近くにある神殿内に居たそうなので、その2つの内のどちらかに居るんじゃないか?という事だった。ちなみに、その2ヶ所どちらにもクロザキさんの息が掛かった人達が常駐しているので、どちらも警備が固く神やクロザキさんが居るかは目星つけられないみたい。
「じゃあとりあえず、サキシマさんが教えてくれた2ヶ所に行ってみましょ………ひと休みしてから」
「はぁ………ぃ」
 私の疲労しきった声での提案に、シロちゃんとクロ君も同じように疲れきった声で同意した。

#14につづく


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