「掟じゃなくて、味は知恵だ」──長田弘、食卓を彩る詩人

そうしなければいけないというんじゃない。
そうときまっているわけじゃない。
掟じゃなくて、味は知恵だ。
長田弘「カレーのつくりかた」『食卓一期一会』、晶文社、2005、106頁

普段の料理の極意が詰まっているような詩。この『食卓一期一会』という詩集は、読書家の叔母さんが贈ってくれた。

長田弘は、食べ物の比喩を多用した詩を書く。それは彼の書く詩が生活と密接に繋がっているということで、詩人の中にはときたま、そういう生活感を絶妙に醸し出せる人がいる。才能に溢れているのだろうけれど、それがわからないくらい身近な感覚を覚えてしまう。だって、書いてあることが本当に「その通り」なのだ。

そうしなければいけないというんじゃない。
そうときまっているわけじゃない。
掟じゃなくて、味は知恵だ。

これ以外に、どう言い換えたらいいだろう?そう、レシピは絶対の正解じゃない。掟じゃなくて、味は知恵だ。そんな風に繰り返し書いていると、いつのまにか自分の中に言葉が取り込まれて、もともと自分がそう考えていたのだと思うようになる。詩の持つ魔力だ。

そしてこれが、人生論に繋がっているのだということに気づく。「そうしなければいけないというんじゃない」、どんな生き方も絶対の正解じゃない、レシピがひとつではないのと同じくらい。料理の数だけ人生がある、と言ってもいい。

生きていくために必要なのは、守るべき掟じゃなくて知恵だ。「正解=レシピ」が「そこは絶対に胡椒だ」と言う時に、塩を入れてみたっていい。結果、まずいかおいしいかは置いておいて、そこからどう料理をアレンジしていくかが知恵の見せどころだ。

長田弘、料理をする人には身近な詩人になるかもしれない。『食卓一期一会』、よろしければご一読ください。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。