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はれのちくもり、ときどき発熱

うちは、変わっている。

少なくとも『一般的な』家庭ではないことは確かだ。

世間ではこれを単身赴任と呼ぶのかもしれないが、我が家は『別居家族』という形を取っている。夫は仕事の都合上便利なところに単独で、私は娘と2人で、それぞれに拠点を持ち普段は別々に生活している。

結婚前の一人暮らしが長かったこともあり、別居にあたって夫の食事や身の回りの世話を心配したことはないし、出張が多く多忙な彼がどこにいるのかさえあまり把握していないのでよく驚かれる。

そんな夫はたまにこちらの家に帰ってくると、決まって体調を崩す。

普段の張り詰めた生活から少し気がゆるむのか、単に働き過ぎで疲れているのか、とにかくうちにいるときの夫はいつも眠ってばかりいる。

それだけでなく、お正月とか夏休みとか、ここぞという時に限って熱を出して、間が悪く寝込んだりしてしまう。ずっと楽しみに待っていたのに遊べなくなって、そんな時娘はいつも不満そう。そりゃそうだよね。

私にできることは、少しでも身体に優しいご飯を出して、ゆっくり好きなだけ寝かせてあげることくらい。こちらの家にいるのは長くても数日なので、言葉を使ってコミュニケーションを取りたいひと、な私としてはもっといろんなことを語り合ったりする時間が欲しいのだけれど、優先順位を考えるとどうしてもそこがいつも後回しになってしまって、そのうちあっという間に数ヶ月の月日が流れてしまう。

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幼い頃から家族というものに期待を寄せたことがない私が、結婚しようと思った理由はいまも分からない。彼の前にずいぶん長く付き合ったひととは、どんなに頼まれても結婚したいとは思えなかったし、自分よりも誰かのことを優先したいと思ったことはそれまで一度もなかった。

自分のことは脇へ置いといてでも、ほかの誰かと一緒に生きていきたいと思ったのは、生まれてはじめてだった。

夫とは劇的な出逢いをしたわけでも、パッと惹かれるなにかを感じたわけでもない。

気づいたらなんとなく側にいて、このひとが目指す道の先を、私も一緒に見つめてみたいと思っただけだった。その掌は心から安心できる優しさを確実に持っていて、未来を力強く奏でることができそうなあの指に、ずっと触れられていたいと思った。

彼が見つめる先は遥か遥か遠くで、そこがどこだか私には分からない。その背中にそっと触れながら、少し後ろを歩いていくことしかできないけど、できればずっとずっと一緒に同じ道を歩いていきたい。ただ、それだけだ。

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今日もテレビやネットの天気予報はそれぞれの予想を教えてくれるけど、本当の空模様は明日にならなきゃ誰にも分からない。

あのひとのいるところは、明日は晴れるだろうか。

晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、いま同じ空を見上げていられなくても、ときどきはここにいる私のことを思い出してくれてるかな。


次に帰ってきてくれる日は、晴れでも曇りでも、熱を出して寝込んでても、なんでもいいよ。おかえりって笑って、一緒に美味しいものでも食べようよ。

私たちはいつも、ここで待ってるよ。


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