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Review 20 ドキドキ

 今回は、 Lolo(ローロー)さんが連載投稿されていた記事についての感想を書きたいと思う。おっと前置きが無くて失礼…!色々書いていたら長くなってしまって、「Loloさんの衝撃」に前置きなどいらないわ~と削ったのである。笑

 私がガツンとやられた記事は数々あるのだが、とにかくこちらを、皆さまにお勧めしたい。

 最初に①を読んだとき、完全にコメント欄を超えると思ったので、コメントをじっと、耐えた。みなさんがコメント欄に魅力的なコメントをされていたが、ひたすら、耐えた。

 最終回まで読んで、noteで感想文を書かせてほしいと申し出た。フォロワーのみなさんは既にご存じのとおり、私の感想文は「押しかけ感想文」だ。コメントに書ききれない溢れる想いを、noteに綴らせてもらっている。これまで、アリエルさんや南口綾瀬さんに「押しかけ感想文」を奏上してきた。

 実はこの『スエズ運河』編の前までは、Loloさんがエジプトでガイドをされていたころの、手に汗握るスリル満点な出来事を中心に話が進んでいた。基本的にはナイル川中心のお話だった。『スエズ運河』の話はその流れの中で、

「まあちょっとここで、エジプトの近代史とスエズ運河のことをお話しておきましょうかね」

 という形で提示される。いわゆる挿入話だ。

 Loloさんはエジプトに留学していた時、観光ガイドに従事していた。

 ナイル川周辺の観光地を中心にガイドをしていたころの出来事の数々は、読者の度肝を抜く。出会う人も、おつきあいするひとも、超弩級の個性的な人々。そして驚天動地のその体験。観光ガイド中にバスが狙撃されたり、航空会社にスカウトされたり、乗るのを断られた飛行機に、機転をきかせて旅行グループごと搭乗させたり。

 私が今読んでいるのは、何?
 ルパン三世?
 Lolo=峰不二子?
 なんだろう、この得も言われぬスリリングな展開は!

 実際、Loloさんの記事を読む私の頭の中にはルパン三世のアバンのメロディーが流れ、タイトルがタイプされるカシャカシャという音がしている。

 その幅広い知識と言語感覚、観察眼と洞察力を駆使ししたガイドは、まさにプロ。こんなすごいガイドさんがいたのか!と目からうろこがボロボロ落ちる。

 「ききみみずきん」という昔話をご存じだろうか。

 非常にざっくりあらすじを説明すると、むかしむかしあるところにいたおじいさんが動物を助けたところ、動物の言葉がわかる頭巾をもらい、その頭巾をかぶって動物達から得た情報がおじいさんに富をもたらす、という話だ。ざっくりすぎてわからない、という方はこちらをどうぞ。

 Loloさんのnoteを読んでいると「ききみみずきん」の話を思い出す。Loloさんは勉強家で常に情報に通じている。もしかしたら「ききみみずきん」を持っているんじゃないかと思う。とにかく情報収集能力に長け、その情報を精査するための高感度なアンテナも持っている、という印象だ。

 そして満を持しての「スエズ運河」。

 スエズ運河といえば、昨年3月の座礁事故は記憶に新しいところだ。
  責任の所在でもめにもめ、4か月後にようやく船が動いたが、その間世界のサプライチェーンに多大な影響を及ぼしてウッドショックを招いた。スエズ運河の世界的な存在感と重要性がクローズアップされた事件だった。


 さて、Loloさんの記事。
 私は、エジプトの歴史を、こんなにちゃんと誰かにつまびらかにしてもらったことは、かつてない。

 私たちが世界史を習うときに出て来るエジプトは、四大文明の発祥の地というのがメインだ。だがよく考えて見よう。それはいったい何千年前の話だろうか。エジプトはそれ以後も存在し、現代に続いている。そんな当たり前のことを、私たちは忘れがちだ。忘れがちというよりも、耳目に入っていない。

 Loloさんの記事を読むと、エジプトの方々にとっても「日本」は「インドの東のほう」、という認識で、頭の中の地図上にはないようなので、それはお互い様なのかもしれないが。

 話はまず、1997年のテロ事件から始まる。
 Loloさんはこういう。

 エジプトの近代史(テロを含む)を振り返ると、私はどうしても、スエズ運河がその核にしか思えません。ピラミッドでもアブシンベルでもなく、スエズ運河です。(中略)やはりすべての一連の出来事が、スエズ運河を通して繋がると感じます。

 主観/推測/解釈によるもの、とおっしゃっているが、様々な文献を読み込んでいらして、これはそのまま「エジプトの近代史」だ。

 いやぁもったいない。無料で気軽に読んでしまっていいのだろうか。しかも歴史に疎い私などにもわかるように、丁寧にわかりやすく説明してくれる。

 古代エジプト時代にはすでに、エジプト人はスエズ運河を利用していたのだが、地震や気候変動で運河が塞がれてしまったのだという。以来、ペルシャのダリウス王、マケドニアのアレキサンダー大王、クレオパトラ七世、ローマ軍…そうそうたる面々が運河の再建を夢見て成し遂げられなかった。

 古代王朝崩壊後、欧州の国々に蹂躙され続けるエジプト。なぜそんなにエジプトは狙われるのか。

 エジプトはアフリカ大陸に位置するものの、ヨーロッパ(地中海)とアジアにも結合している唯一の国、そしてナイルとこれから登場するスエズ運河も持つ国。だからこそ、多くの国に狙われる。

 ペルシャに侵攻され、いったんは滅亡しかけたものの、アレクサンダー大王によって息を吹き返したエジプト。エジプトは何度も外国人の手によって蘇る。アレクサンダー大王はやはり魅力的な人物だ。今回Loloさんの記事を読んでまた思った。でも偉大すぎる大王のおかげで、ギリシャ人たちは今でもアレキサンドリア時代を懐かしむのだという。ちなみに私はアレクサンドリアの図書館に(もちろん)憧れていたが、Loloさんによると今のアレキサンドリアは熱海っぽいそうだ。え…そうなんだ。笑

 その後も沢山の外国に支配されながらも(支配者としてローマがいちばんひどかった、というのは意外だった)、砂に埋もれたスエズ運河をちゃんと再興させた人物はいなかった。

 ローマの属州になりキリスト教の「コプト」を生み出しながら、エジプトはアラブ人によってモスリムの国になっていく。アッバース朝、ファティーマ朝、サラディンがやってきてマムルーク朝と日本人にはいつがいつやらわからなくて混乱する王朝時代が続く。そしてオスマントルコがやってくる。

 大航海時代を経ていよいよ近代史に突入だ。そこで登場したナポレオン。ナポレオンはエジプトに侵攻したときに調査団を引き連れていた。そのときの収集品や記録のコピーが『エジプト誌』として残っており、それがある一人のフランス人の心を動かす。それがフェルディナンド・レセップス。その後ナポレオン三世が後ろ盾となり、ついにエジプト王イスマイールの時代にスエズ運河が開通した。

 端折ってここまで来たが、いやもう、実際のnote記事は私の拙い要約などブッ飛ばす面白さなのでぜひぜひ、読んでいただきたい。

 このスエズ運河で儲けたイスマイールはのちのエジプトの財政破綻の原因を作り、この運河が「使える」ことに遅ればせながら気づいたイギリスは虎視眈々とエジプトを狙い始める。名目上はずっとオスマントルコのものだった運河をめぐる、フランスとイギリスの攻防。

 このあたりはもう、イギリスの手練手管が凄まじい。運河の建設には反対していたくせに、フランスが出資して運河を作り、それが利があるとみたら、後からスィーっと割り込むあたり、うむむ~と唸る。

 第一次世界大戦下のアラビア半島といえば私の中では例にもれず『アラビアのロレンス』だった。映画を観て、神坂智子さんの『T.Eロレンス』を愛読していた。彼は映画では詳しく描かれなかったが、『T.Eロレンス』では屈折した晩年(といっても40代)のロレンスが細かく(といっても漫画家さんの推察と仮説)描かれていた。

 ちなみに、神坂智子さんがどんな漫画家さんかお知りになりたい方はこちらをどうぞ。前にシミルボンに書いた紹介記事です。

シルクロードへの夢と憧れがつまっている【神坂智子】

 史実のロレンスは「二枚舌外交」と言われたイギリス軍と政治に利用され翻弄された、一将校だった。華やかな映画の裏で、イギリスは老獪にあらゆる利を手にしようと狙っていた。

 私はエジプト側から考えて見たことがなかったから、Loloさんの考察は本当に新鮮だった。エジプトも当時オスマントルコから独立したくて喘いでいた。ウラビーの反乱の後、モスリムとコプトがどんどんこじれていき、現代まで続く禍根を残したり、最後のファラオ、ファルーク亡き後の独立と混乱のエジプト近代史は、ほとんど初めて知ったことばかりだった。

 浪漫やロマンスの間に、現実のLoloさんの体験やツッコミがくさびのように(手裏剣やクナイのように?)カツンカツンと打ち込まれる。興奮のるつぼに陥るのは保証する。

 Loloさんのエジプトのお話は、まるで「千夜一夜物語」のようだ。続きはまた明日、と言うように尽きせぬ話しが続いていく。

 ちなみに「千夜一夜物語」はイランのササン朝ペルシア時代から9世紀ごろまでの民話を集めた説話集だから、ペルシャ・ギリシャの支配があったエジプトの説話も少しは入っている。

 ガイドをした大学の先生から「Loloさんはもはやエジプト人だ」と言われたLoloさん。その言葉をLoloさんが喜んだかどうかは別として、そうまで褒めたたえ(?)られたので教授の書籍が出版されたときに「ガイドの話がでてくるかな」と思ったけれど出てこなかったそうだ。最終回で、このときのことが語られている。

 確かに、ガイドさん、というのは、素晴らしい知識と経験を携え、肉体的にも精神的にもとても大変なお仕事にも関わらず、脇役扱いをされがちだ。旅の間最もお世話になるのに、ちゃんとそのお仕事に敬意を払っているかどうか、振り返ると自信がない。感謝の気持ちはあるし、何かの折にはありがとうございますと口にするけれど、改めて「この旅の間本当にお世話になりました」と率直に伝えたことはなかったかもしれない。困った時だけは、すぐに頼るのに。

 Loloさんを知って、改めてガイドのお仕事の大変さに瞠目したとともに(なにしろLoloさんは文字通り命がけのガイドを何度もしている)、経験豊富で知識満載の峰不二子のような華麗なる遍歴をお持ちのLoloさんと旅をしたらさぞかし楽しいだろうなぁと心から思う。

 どの記事を読んでもドキドキする、こんなに吃驚仰天する記事にはこれまで出会ったことがない。見たこともない世界に私たちを連れて行ってくれる。

 Loloさん、素晴らしい記事ありがとうございます!これからの投稿も、楽しみにしています。



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