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詩『明かりがともる雨合羽』

ことばの手足が微睡んでいる。床の上を転がりながら、水たまりに集まってゆく。足裏の土踏まずがみずに口づけしたら、子宮が感電して、下校の音楽が流れた。ちいさな家のなかのブレーカーががく、ん、と落ちた。正面からひとの瞳を見てしまうと、朝の時間が澱む。真っ暗な部屋。頭と頭ががっつんこするアメリカンクラッカーみたいだね。ずっとかくれんぼしていた弾丸が口から火を噴いて、とうとう家族に体当たりしてしまった。
『母さん、なんでうちは雨合羽なんて売ってるんだよ』
『あんたの躰のごきげんの語源に聴いてごらん』

(鶏が先か卵が先か、庭の二羽が先か庭盗りが先か、庭塵が先か海老チリの辛味がいちばん先に逃げてゆくのか、はてさて、誰にもわからない)

I don't know why river runs through it anyway……

ひい、ふう、みい、数をかぞえながら、ひい、ひい、ふう、風雨をしのいで、ひい、ひい、ふう、夫婦の表面に波風が立つ、ひい、ふう、みい、水は電気を通すから、ぴい、ぴい、けとる、の内側で、お湯が沸いて、薬罐が泣いて、やがて冷めて、また胃袋に、未消化の電気が、沈殿してゆく。遠い郊外の、未来では、雀が、ちゅん、ちゅん、ちゅん、色褪せた家族のポートレートを食んでいる、

『きのうを洗い流すために、朝一番に歯みがきしよう』

朝のひかりのなかで、みずは透明に光っているけれど、いろんなものが溶けこんでいるから、やあ、やあ、御用心!グラスのなかの汲み置きの季節と胸騒ぎ。初夏の陽射しがみずの表面を煽る。グラスはいつ、ぴい、ぴい、けとる、に化けるかわからない。未知数の反射体、未知数の透明な分福茶釜。幸か不幸か、どちらに転ぶかわからない明日を見つめている。アンニュイな頬杖、の、角度、アンバランス、な綱渡り、の夢、と、囃し立てる、声、狸が踊る、狸が発光する、狸が発熱する、音、

あ、

狐の嫁入り、

小雨が降り出した、
夜間にだんだん強くなって、

ああ、

ブレーカーをなんども上げて
電気屋の看板の明かりが灯る
きかいじかけの雨合羽たちは
ひとりずつ温めて売れてゆく

廃校になった小学校がじゅん、と蒸発する日。

photo : フリー素材
design : 未来の味蕾
poetry : 未来の味蕾


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