岡根谷実里 | 世界の台所探検家

世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理から見える社会文化背景を伝えています。…

岡根谷実里 | 世界の台所探検家

世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理から見える社会文化背景を伝えています。講演・執筆・出張授業など。訪問国は60以上。著書に「世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる(青幻舎)」 過去記事はこちら:https://medium.com/@misatookaneya

最近の記事

サゴヤシの木からぷるぷるの団子ができるまで

「サゴヤシというヤシの澱粉を練って作る透明の団子を主食にしている人たちが、世界にはいます」 高校の地理の授業でその話を聞いてから、ずっと気になっていた。そのサゴヤシの国は、パプアニューギニアという。 ヤシが主食ってどういうこと?米や小麦じゃなくて? どんな味がするのだろう? どうやってヤシから澱粉がとれるのだろう? 疑問は膨らむ一方、パプアニューギニアのつてはなかなか出会えず。また女性が一人で旅するには極めて難しい国だとも聞いており、長年行きたい国リストの一番上に居続けて

    • 食べると飲むが曖昧なモンゴルのお茶

      10年ぶりのモンゴル。なつかしい家族の家に到着し、からっぽの胃にまず入っていったのは、お茶だった。モンゴルのお茶は、塩味がきいたミルクティー。うすいミルクにほのかに茶の香りがし、少ししょっぱい… と思ったらしょっぱくない。出鼻をくじかれた。こんな味だったっけ?? モンゴルのお茶はスーテーツァイという名で、一言で説明するならば「塩ミルクティー」。材料は、紅茶に似た茶葉、水、牛乳そしてひとつまみの塩だ。あまりに「塩」という言葉のインパクトが強くて、記憶の中のスーテーツァイはだい

      • 現代のモンゴル遊牧民は、どうやって乳製品加工で生計を立てているのか【後編】

        現代モンゴル家庭における乳加工の話の続き。 Case 3: 「長期保存できる加工品を作りためて秋に売る」「お隣さんは色々加工して売っているよ」というので、その家庭に数日間滞在させてもらうことにした。馬の荷台に荷台によじ登り、2キロ先のその家まで乗せてもらった。 小川のほとりにゲルが見えてきた。その近くに小屋が二つ。「あの小屋が寝る場所で、もうひとつの小屋とゲルで乳加工をしているんだよ」と教えてくれた。この家は夫婦二人暮らし。今は夏休みなので街に住む孫たちが3人やってきてい

        • 現代のモンゴル遊牧民は、どうやって乳製品加工で生計を立てているのか【前編】

          モンゴルといえば、草原の国。国土の7割が草原で、ゲルと呼ばれる移動式の家に住んでいて、馬に乗って移動し、チンギス・ハンと力士で知られる。そんなイメージだ。 その草原で家畜を飼って生活する人々は遊牧民とよばれる。とはいっても、現在世界中で遊牧民の定住化が進んでいて、モンゴルも例外ではない。首都ウランバートルへの人口集中は著しくて、2023年時点で人口の約半分がウランバートルに住む。しかしそれでもまだ他の国に比べたら多くの人が遊牧という生活スタイルを維持していて、人口の約25~

        サゴヤシの木からぷるぷるの団子ができるまで

          なぜブータンは唐辛子大国になったのか?

          唐辛子の国と言って思いつくのは、どこだろうか。キムチはじめなんでも赤い韓国か。タコスや辛い料理が多いメキシコか。じつはそれらの国々と並ぶ唐辛子大国が、ブータンだ。 とわかったようなことを言うけれど、私は実際に訪れるまでブータン料理が辛いと知らなかったし、なぜか素朴で塩味のみの味付けの料理を想像していたから、辛い国リストの候補にも入っていなかった。 ブータンの料理は、唐辛子をよく使う。驚くのは、味付けがいつも唐辛子味というのではなく、唐辛子をメインの野菜として使うことだ。

          なぜブータンは唐辛子大国になったのか?

          幸せの国ブータンの「幸せな食卓」とは

          幸せの国として知られるブータン。国の開発指針として、経済指標のGDPではなくGNH(Gross National Happiness, 国民総幸福量)を掲げ、2005年に行われた国勢調査では国民の約97%が「幸せ」と回答した。 訪れる前は、作物が豊富にとれ、物質経済に執着せず、生活の不安がなくみんなにこにこしている、そんな国なのかなと思っていた。というかそこまで深くこの国のことを考えたことがなかった。 しかし訪れてみたら、当たり前のことながら、桃源郷ではなかった。 確かに

          幸せの国ブータンの「幸せな食卓」とは

          羊を絞めて振る舞う、遊牧民文化キルギスのソイの一日

          遊牧民文化の国キルギスで出会った、ソイについて書きたい。ソイは「屠畜」と訳されるけれど、単に絞めるだけではなく、捧げるとか集うとか、もう少し広い文脈を含むものだと思う。 *** 「おじいさんの2回忌で、親戚が集まるの。来る?」と言って田舎の実家に連れて行ってくれた。 カラコルの街を離れること車で1時間。山があり湖があり、キルギスの田舎はどこを切り取っても美しい。 着いたのは14時。長細い客間のテーブルにはサラダやお菓子が所狭しと並んでいる。一人また一人とやってきた客人が

          羊を絞めて振る舞う、遊牧民文化キルギスのソイの一日

          キルギスの草原、現代の複業遊牧民の台所

          乳製品加工の知恵を知りたくて、キルギスの草原の遊牧民の台所を訪れた。 訪れたソンクルは標高は3300メートル、富士山頂くらい。キルギスは中国と国境を接し、国土の大部分を天山山脈が占めるため、3000メートル越えの高原がけっこうある。ところが私は隣接するウズベキスタンやカザフスタンと同じように砂漠をイメージしてTシャツ1枚でよいと思っていたので、日本出発する前に慌ててダウンを買った。 最寄りのまちから車で走ること3時間。ぽつんほつんとユルタ(遊牧民のテント)が点在するエリア

          キルギスの草原、現代の複業遊牧民の台所

          「日本の野菜は水っぽい」をウズベキスタンに行って検証した

          きっかけは、「日本の野菜は水っぽい」という外国在住経験のある方々の言葉だった。ウズベキスタン出身の方は「日本に来て料理時間が半分で済むからとっても助かるけれど味が弱い」と語り、フランスに住んでいた知人は「フランスの料理を日本の野菜で同じように作ると形がなくなる」と言う。 水っぽいとみずみずしいは紙一重だからと自分に言い聞かせながらも、やっぱり悔しい。それに親世代以上の方から「昔の野菜はもっと力強かった」とか言われると、その時代を知らないだけに、弱々しい時代を自分は生きている

          「日本の野菜は水っぽい」をウズベキスタンに行って検証した

          独自の憲法・言語・国家を持つカラカルパクスタン自治共和国に「カラカルパクスタン料理」はあるのか

          カラカルパクスタン共和国は、ウズベキスタン西部に位置する自治共和国だ。 ウズベキスタン内にあり、国際的にもウズベキスタンの一地域となっているけれど、独自の憲法・言語・国家を持っている。中心都市のヌクスに着いたら、ウズベキスタンの国旗と並んでカラカラパク国旗がはためいており、人々の顔つきは、目が細く東アジア風の方が多い。独自の土地に来たことを実感した。 ウズベキスタンの中でもわざわざここに来た目的は、もちろん家庭料理。ウズベキスタンの西端に位置するこの地域は、地図で見ると茶

          独自の憲法・言語・国家を持つカラカルパクスタン自治共和国に「カラカルパクスタン料理」はあるのか

          ユダヤ教のコーシャ規定「蹄の分かれた反芻動物は食べてよい」を動物学的に考えた

          ユダヤ教の食戒律に適う食事を、コーシャという。イスラム教のハラルと同じように、食べてよいとされるものだ。一見不思議なルールもあるのだが、生物学の視点を借りて考察してみると、生き延びるための知恵が詰まっていて案外よくできている。 そのルールの一つ「食用にしてよい動物は、蹄が分かれた反芻動物のみ」について、一応は理解した気でいたのだがすっきりしないことが残っていた。 改めて動物学の知見を借りて考えてみたら、驚くほど合理的にできているのではと思えてしまったので、興奮してこの記事を

          ユダヤ教のコーシャ規定「蹄の分かれた反芻動物は食べてよい」を動物学的に考えた

          ウズベキスタンのサムサは窯で焼き、インドのサモサは油で揚げる

          「ウズベキスタンの田舎の家には、一家にひとつ必ずあるよ」というタンディール窯。毎日の主食であるノン(パン)やサムサを焼くのに使う、伝統的な窯だ。 一説によると、ペルシャ(イラン)発祥で、中央アジアに普及し、インドに渡ってタンドールになったとか。 今は家でノンを焼く人も少なくなり、サムサもガスオーブンで焼くことがしばしばあるけれど、この家では毎週パンを焼き、タンディール窯が稼働している。 庭から薪を拾ってきて火を作るのはお母さん。ぶどうやくるみなど、手頃な木がたくさんある

          ウズベキスタンのサムサは窯で焼き、インドのサモサは油で揚げる

          タジキスタンの台所、ロシアの影

          中央アジア、ウズベキスタン・タジキスタンの台所に来ている。アジアとヨーロッパをつなぐ古くからの交易路に位置し、人と物が行き交った土地。街を歩くとアジアな顔つきの人とイラン系美人とくっきり濃いアラブ系の人とが顔付き合わせて話していて、ああここは文化が交わるところなんだなあと感じる。 タジキスタンではホジャンドという北部の町のはずれの家庭に滞在したのだが、ここの台所は、ロシアの影なしには語れない。 中央アジアとロシアの関係タジキスタン含む中央アジアの国々は、帝政ロシアおよびソ

          タジキスタンの台所、ロシアの影

          精進豚バラチャーシューの作り方

          ベトナムの寺で、教わったレシピです。 こういうのを紹介すると、「坊さんでもやっぱり肉食べたいんじゃん」という話になりがちです。実は私も初めはそう思っていたのですが、行ってみて分かったのは、これは決して僧が自分たちで食べるものではないということ。笑って否定されました。だいたいこんなの手間がかかりすぎます。 僧たちの日常食は、至って普通の野菜炒めや野菜スープなど。こういう手のかかるもどき料理は、行事などで寺に来る人のために作っておどろかす、遊び心みたいなんですよね。制約を設ける

          精進豚バラチャーシューの作り方

          4/25(火)世界の菜食プロダクトを試食しよう!

          **満員につき締め切りました** 世界には様々な文脈で生まれた菜食文化があります。 宗教に根差し数千年前からある肉食禁忌。近年関心が高まっているヴィーガンやプラントベース。 菜食大国インドは、野菜を野菜として、豆を豆としてそのものの形で食べることが多いですが、東アジアの仏教圏やヨーロッパでは、肉や魚に似せた「もどき料理」も豊富。 そんな世界の菜食プロダクトを食べ比べよう!というのがこの会です。私が 最近訪れた国で気になって買ってきたものたちを、放出します。 *申し込みフ

          4/25(火)世界の菜食プロダクトを試食しよう!

          3/25(土)「世界の国からいただきます!」絵本の中に飛び込んで食べるイベントを開催します。子ども大人歓迎!

          【定員に達したため締め切りました (3/11追記) 】 「どんな味がするんだろう」と想像もつかない料理や、「このナッツそんな形でなっていたのか」と驚く食の知識が、世界には無限にあるようです。 3/1に出版となった大型絵本「世界の国からいただきます!」の日本語監修をやらせていただいたのですが、それなりに知っているつもりだった私も知らないことが山ほどあって、食べたことのない料理によだれが止まりませんでした。 そこで、みなさんと一緒に、もっともっと食の世界を経験したい、絵本の

          3/25(土)「世界の国からいただきます!」絵本の中に飛び込んで食べるイベントを開催します。子ども大人歓迎!