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キミはボクの年下の先輩。第8話「私のメイド姿も、なかなかオツなもんなんじゃないかい?」

  *

「お、お待たせ……ショタくん」

「っ!?」

 ボクは思わず息を吞む。

 部室に帰ってきた彼女の服装は、まさにメイドそのものだった。

 制服の上に着たフリルの付いたエプロン。

 頭には可愛らしいホワイトプリム、そしてスカートも膝上ほどの丈があるクラシックタイプ。

「ど、どうだい……? 私のメイド姿も、なかなかオツなもんなんじゃないかい?」

 彼女の、あまりのかわいさにボクは一瞬、我を忘れてしまう。

「えっ、あっ、はい、あの、とても、すごく、かわいいです……」

 そんなボクの言葉に彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「よかった! 気に入ってもらって嬉しいよ!」

 メイド服を着た加連先輩は、とても可憐で雅だった。

 彼女は顔を赤くしながら俯いていて、少し照れた様子で上目遣いでボクを見る。

 その仕草にボクはドキッとした。

「え、えっと……」

「ねぇ、ショタくん……」

 彼女は恥ずかしそうにモジモジする。

「…………」

「…………」

 ボクまで恥ずかしくなるじゃないか!

 なんで、そんなに、かわいい表情ができるんだ!?

 ボクは黙って彼女を見るが、彼女は覚悟を決めたのか口を開いた。

「ご、ごご、ご主人様ぁ~♡」

 ボクは一瞬、頭がフリーズした。

 いや……気のせいだよね……?

「せ、先輩……?」

「ん?」

「今、なんて?」

「キミのことを、ご主人様と言ったんだよ……」

 気のせいではなかった。

 先輩はニコニコしながらボクを見ている。

 なんで嬉しそうなんだよ!!

 いや、かわいいけどさ!!

 もうっ!

 なんなんだよっ!

 この年下の先輩はっ!

「ショタくん、どうしたんだい?」

 彼女は、かわいらしく首をかしげる。

 思わず吐血しそうになる。

「あのぉ、ショタくん……?」

 先輩はボクの顔を覗き込んでくる。

 かわいい!!

 そんな上目遣いされたら、なにも言えなくなっちゃうじゃないかっ!

 あ〜もうっ!

 なんなのさ!?

 もうヤケクソだ!!

「あの、先輩……その……さっき言ってた『ご主人様』って……なんですか?」

「なに言っているんだい? わかっているくせに……メイドなんだから、ご主人様と呼ぶのは当然だろ?」

「……先輩?」

「お呼びでしょうか、ご主人様?」

「その呼び方はマズいんじゃ……?」

「そうかな? でも、私としては気分がいいよ」

「やっぱり、変じゃないですか?」

「そんなことないさ! それに……キミが考えたシチュ活だろ? 今さらだろ?」

「うぐっ!?」

 確かに、そうなんだけどさ!

 そう、このシチュ活はあくまでもボクが考えたやつであって、先輩が言い出したことではないわけで……。

「とにかく!」

 彼女はビシッと指さして言う。

「キミはこのシチュ活を続ける義務があるのです!」

「いや、義務って……」

「さあ、ご主人様! この私に、ご奉仕をさせてください!」

 あぁ、もうっ!

 わかったって!!

 こうなったらヤケクソだ!!

 もうどうにでもなれえぇぇっっ!!

「わ、わかりましたよ……」

 ボクは渋々うなずくと、先輩のそばに行く。

「で、なにを……?」

「そうだね……」

 彼女はボクを見て言う。

「とりあえず、そこに座って」

「は、はい……」

「メイドといえば、やっぱりこれでしょ!」

 彼女は、いつの間にかティーカップとティーポットの乗ったお盆を持っていた。

「それって……」

「紅茶を淹れてあげるよ」

 彼女は慣れた手つきで紅茶を入れ始める。

 そんな彼女を見て感心してしまうボク。

「ご主人様、お砂糖とミルクはいかがでしょうか?」

 彼女は甘い声で聞いてくる。

 な、なんかドキドキしてきたんだけど……。

「えっと……」

「それじゃあ……なしで、お願いします」

 すると、先輩は嬉しそうに微笑む。

「はい、かしこまりました♡」

 そう言うと、彼女は手際よく紅茶を入れ始めた。

「どうぞ」

 彼女は静かにティーカップを部室にある机に置くと、ボクに差し出す。

 ボクは、その先輩のしぐさの美しさに感動した。

「ありがとうございます……」

 お礼を言ってから紅茶を一口飲む。

「……!」

 ボクは思わず笑顔になる。

「はい」

 彼女は微笑みながら小さなクッキーの入った小皿を差し出してきた。

「えっ?」

「ご主人様は、これがお好きですよね?」

 彼女はニコッと微笑むと小皿を差し出してきた。

 うわ、めっちゃ嬉しい……!

「どうしたのかな? ご主人様」

「どうして、こんなにもボクのツボを刺激してくれるのですか!?」

「ふふっ、ごめんごめん」

「謝る必要は、ないですけど……いただきます」

 ボクはため息をつくと、クッキーをひとつ口に入れる。

 最高の味だ!!

「よかった! お口に合ったみたいで」

「はい! とても、おいしいです!」

「キミの好みだと思ってた!」
 
 ボクは紅茶を一気に飲み干していく。

「もう一杯、飲むかい?」

「はい、今度はミルクも入れてください」

「わかったよ」

 先輩は再びティーポットにお湯を注ぐ。

 そして、茶葉の入ったティーポットの中にゆっくりとミルクを注いでいく。

 その様子を黙って見つめるボク。

「はい、どうぞ」

 先輩は静かにティーカップを差し出してくる。

 ボクは、もう感心することしかできなかった。

「ありがとうございます……」

 お礼を言ってから一口飲むと――。

 口の中に濃厚な味わいが広がる。

 そう思いながら、もう一口飲む。

 あぁ、幸せの味だなぁ〜!

 ボクは思わず笑顔になる。

 そんなボクを見ている彼女は満足そうに微笑む。

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

 ボクは一息ついてから言う。

 すると、彼女は満足そうに微笑んでいた。

「喜んでもらえて嬉しいよ!」

「はい、先輩が入れてくれる紅茶は、とても、おいしかったです」

 ボクがしみじみ言うと、先輩は顔を赤くして照れる。

「そ、そうかい? じゃあ……今度は、もっと、おいしい紅茶を淹れてあげるよ!」

「本当ですか?」

 ボクが聞き返すと、彼女は胸を張って答える。

「もちろんさ! キミの好みは把握しているつもりだから、期待してくれたまえ!」

「ありがとうございます!」

 ボクはお礼を言って、また紅茶を飲み干していく。

 あぁ、本当においしいなぁ……。

 そう思いながら顔を上げると彼女がこちらを凝視していた。

「ど、どうしました?」

「ねぇ、もっと飲みたいかい?」

「えっ? あぁ、まぁ……」

「なら、おかわりを注いであげるよ!」

「ありがとうございます!」

「ご主人様に喜んでもらえるように、がんばらなくちゃね!」

 先輩は嬉しそうに笑うと、再びティーポットを手に取る。

 ボクは先輩のメイド姿に見惚れてしまう。 

 彼女は、とても、かわいらしくて魅力的だった。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 ボクはティーカップを受け取ると、また紅茶を飲む。

「はぁ……」

 ボクは幸せのため息をつく。

 そんなボクを嬉しそうに見ている先輩。

「いつも私のそばにいてくれて、ありがとうね……ご主人様」

「いえ、ボクのほうこそ……」

 照れくさそうにするボク。

 そんなボクを見て笑う先輩。

 あぁ、幸せだ……。

 そして時間は過ぎていき、ティータイムを楽しむこと約一時間――。

「そろそろ、お開きかな?」

 先輩は、そう言うと立ち上がり、帰る支度を始める。

 そんな彼女を見つめながらボクは口を開く。

「あの~先輩……」

「ん?」

 彼女は荷物をまとめていた手を止め、こちらに振り向く。

 ボクは紅茶を淹れてくれたお礼を言おうと思い口を開く。

「その……今日は本当に、ありがとうございました」

 ボクが言うと、彼女は嬉しそうに微笑む。

「喜んでくれたようで、なによりだよ」

 彼女は部室の扉に手をかけると、こちらを振り返る。

「また明日ね!」

「はい、また明日!」

 制服姿に戻った先輩は手を振りながら笑顔で出て行ったのであった。

 今日の出来事は加連先輩のメイド姿を拝めただけでなく、彼女の笑顔が見れたこともあり、とても素晴らしい一日だったと思えた。

 ボクはティーポットに残った紅茶をティーカップに入れて飲み干す。

 そして、文芸部の部室を出ることにしたのだった。

  *

(今日は楽しかったな……)

 加連先輩と過ごした放課後のことを思い出しながら歩く。

 そんな楽しい時間はすぐに過ぎ去り、今は既に自宅に帰っていた。

(さてと……)

 ボクは制服から部屋着に着替えるとベッドに腰掛けた。

 そしてスマホを取り出して電源を入れる。

(ん?)

 スマホの画面を見て、思わず声が出そうになる。

 なぜなら通知画面に表示されたメッセージが加連先輩からだったからである。

(なんだろ?)

 ボクはドキドキしながらトークルームを開く。

 そこには『今日は楽しかったね!』と一言だけ書かれていた。

『はい、とても楽しかったです!』と。

 ボクは意を決して送信ボタンを押す。

 すると、すぐに既読がついた。

『うん! また一緒にシチュ活しようね!』

(やった!!)

 思わずガッツポーズをするボク。

 加連先輩との仲が深まった気がして嬉しかったのだ。

(えへへ……)

 ニヤけてしまう顔を抑えようとしながら笑う(今年、成人年齢になる予定の)ボクであった。

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