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数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活を 第19話

  *

 教室に入ると、いつも通りの光景が広がっているように感じた。

 席に座ると、悠人が俺のところまで来てくれた。

「おはよう、蒼生。今日も相変わらずモテているみたいだな。まあ、おまえなら当然か」

「ああ……ああっ!?」

 俺は思わず声を上げてしまう。

「どうしたんだ? 急に大きな声で叫んだりして……」

「いや、どうして俺がモテているということになるんだ……? 俺がモテているわけがない……」

「おいおい、それを自分で言うのかよ……」

「だって、俺は女子に好かれる要素なんてないぞ……?」

「あのなぁ……蒼生。おまえは、もう少し自覚しろよ……。おまえは陽葵さんの彼氏なんだぞ。それに今日は咲茉ちゃんとも登校してきたしな。そりゃあ、みんな驚くさ」

「そ、そうなのか……?」

「そうなんだよ。ったく、本当に無自覚な奴だな……。そんなんじゃ、いつか刺されるぞ?」

「あはは……」

 笑って誤魔化すしかないな……。

 確かに陽葵と咲茉と手をつないで登校しているところを見られてしまったからな……。

 これは、まずいかもしれない。

 これからは、気をつけないとな。

 いや、これからも、か。

 そういえば、陽葵は大丈夫だろうか……?

 咲茉の件で少し元気がないように見える。

「陽葵、どうかしたのか?」

「なんでもないよ……」

「嘘つけ。顔色が悪いぞ……」

「本当だよ。心配しないで……」

「わかった。無理だけはするなよ……?」

「うん……」

 どう見ても陽葵が無理をしているようにしか見えない。

 咲茉の件で、陽葵は傷ついていないといいけど。

 だが、このとき、俺は、気づくべきだった。

 このあとに起こる出来事によって、俺は後悔することになる。

 咲茉の告白は、ただのきっかけに過ぎなかったのだ。

 俺たちの物語は、さらに加速していく。

 陽葵を守ると決意を固めたはずなのに、どうして、こんなときに限って、決意を揺らがしてしまうイベントが発生するのだろうか……?

 俺は知らなかったのだ。

 まだ、もうひとり、いたことを――。

  *

 俺たちのクラスに転校生がやってきた。

 セミロングの銀髪に、整った目鼻立ち。身長は百五十〜百六十センチくらいだろうか。

 とてもかわいい見た目をした女の子だった。

 そんな彼女が自己紹介を始める。

「みなさん、はじめまして。わたしの名前は的井葵結まとい・きゆです。よろしくお願いします」

 彼女は笑顔で言った。そして、すぐに質問攻めに遭う。

「ねぇねぇ! どうして今、転校してきたの? 親の転勤とか?」

「いえ、わたしは、わたしの意志で、この学校へ来たんです! ある殿方にお会いするために……!」

『殿方っ!?』

 クラス中の男子たちが一斉に反応する。

「誰だよっ!? 殿方って!?」

「まさか、うちの学校に、そんな男がいるっていうのか……?」

「えっ? えっ? どういうことか説明してくれない?」

「もしかして、俺が忘れているだけで殿方は俺なのか〜っ!?」

 アホな発言まで飛び交う始末だった。

「……というか、その殿方は、このクラスにいるの?」

「ええっ、いますわよ」

「えっ……マジで……?」

「どこにいる誰なの……?」

 クラスメイトたちは興味津々の様子だった。

 そんな中、俺は冷や汗を流していた。

「蒼生、どうしたんだ……? 顔色悪いぞ……」

「……いや、なんでも……ない……」

「でも、なんか変だぞ……?」

「ほ、ほんとに、なんでもないんだ……」

「ふーん、まあ、いいけど……」

 俺は動揺していた。なぜなら、その人物は――。

(なんで、こんなタイミングで……?)

 俺は頭を抱えたくなる衝動を抑えながら、必死に平静を装うことにするのだが……。

「えっ……あっ……」

 銀髪の美少女が、俺の目の前に立っていた。

 俺を見て、目を潤ませる、その美少女は俺の顔を手で持ち、そのまま唇にキスをした。

「んむぅ……!」

「…………っ!」

「な、な、なにぃーーーーーーッ!!!!」

 教室内に絶叫が響き渡った。

「ちょ、ちょっと、待って……! 葵結……!」

「あなたに会いたかったですわ!」

「俺に……? ……って、おい!」

 またキスされた。

 純粋無垢で清廉潔白な美少女からのキス――それは、この世界に存在する男子高校生たちから、死刑宣告をされるくらいの出来事に等しかった。

「なぁ、蒼生……これは、いったい、どういうことだ……?」

「蒼生……? これは、どういうことなの……?」

 悠人と知世が俺に詰め寄ってくる。ふたりの顔が怖い……!

「蒼生、おまえ、まさか……」

 悠人は鬼の形相をしていた。

「ち、違うんだ……これには、深い事情があって……」

「言い訳は、あとで聞く……今は、ただ、ひとりの男子高校生として言うよ。この世界のために男子高校生たちの嫉妬を買いながら死んでくれ」

「蒼生……陽葵というものがありながら……知世は許しませんよ……覚悟しなさい……」

「ははは……はぁ……」

 悠人と知世の目は、まるでゴミを見るような目つきだった。

「悠人、知世、これは、だな……誤解なんだ……」

「ああ、わかっているよ……。だから、安心しろ……。一瞬で終わらせるから」

「そうね……。陽葵の気持ちを踏みにじった罰を受けてもらうから……」

「…………」

 俺は絶句するしかなかった。

「葵結……どうして……?」

 陽葵はショックを隠しきれない様子だった。

「どうして……? そんなの決まっているじゃないですか。わたし、蒼生のことが大好きだからですよ……陽葵さん……」

『えぇーーーーーーっ!!』

 クラスメイトたちは声を上げる。

「好き……? また、旗山が……?」

「嘘でしょ……?」

「嘘だって言ってくれよ……」

「じゃあ、俺たちに希望はないのかよぉ〜……」

「くそっ、俺は認めないぞ……絶対に!」

 絶望に打ちひしがれている男子生徒たち。

「えっと……あのですね、皆さん、落ち着いてください。わたしは別に……恋愛的な意味で言ったわけです……」

『俺たちをこれ以上、殺すなーーーーーーッ!!!!!!』

 さらにヒートアップした男子生徒一同。

「いや、あの……本当に……申し訳ございませんでした」

 銀髪の美少女は、ぺこりと謝りながら、もう一度だけ、今度は俺の頬っぺたに軽くチュッとしてきた。

「なにするんだよ、葵結……」

「ふふっ」

 銀髪の少女は微笑みを浮かべている。

「葵結さん、だったよね? どうして、蒼生のことを好きなのかな?」

 知世が訊ねる。

「はい! わたしは、小さい頃から蒼生と結婚の約束をしていたのです! そして、今日! ようやく再会できたんです!」

「け、結婚の約束!?」

「それは誤解だって……」

 俺は口を挟むのだが、誰も聞いてくれない。

「えへへっ、照れなくてもいいんですよ〜」

「……っ」

 俺は言葉を失う。

「えっ……? まさか、さっき葵結さんが言っていたことって本当なのか?」

「そんな馬鹿なことあるはずがないよな?」

「でも、葵結さんが言っていることは、どう見ても冗談には見えないぞ?」

「マジかよ……?」

「うおおおっ! やっぱり、このクラスに殿方がいたのかよ!」

「うううううっ……死にたい……」

 男子たちは泣き崩れていた。

「ねえ、みんな、冷静になってよ!」

 陽葵が大声で叫ぶが、まったく効果はなかった。

「ああっ……もう、ダメだぁ……」

 男子たちは絶望の淵に立たされていた。

(頼むから、誰か、この状況をなんとかしてくれ……)

 俺は心の中で願う。

 だが、この願いが届くことはなかった。

  *

 昼休み、屋上にて――。

「蒼生、さっそくだが、事情を説明してくれ。俺と知世にわかるように説明を……」

 悠人が詰め寄ってくる。

「ああ……わかったよ」

「もちろん、陽葵という存在がありながら、浮気をしたことに対する制裁もしますから。それと、葵結さんの件も詳しく聞かせてもらいます」

 知世は笑顔で言うのだが、その笑みは恐怖しか感じない。

「は、はい……」

 俺は観念するしかない。

「では、まず、葵結さんが、どうして蒼生を殿方と言うのか……その理由を教えてくれよ」

「ああ、たぶん、えっと、それは、きっと、葵結の勘違いだ」

「勘違いではありません」

 葵結は大真面目な顔で言い始めた。

「わたしと蒼生は結婚すると約束した仲です。今さら、なにを言っておられるのですか? まさか、約束をなかったことにしたいのですか?」

「…………それって、いつの約束だよ」

「幼稚、園……?」

「それは無効だぁぁぁぁぁぁっ!」

 俺は葵結の発言に頭を抱える。

「葵結、おまえさぁ……たぶん、だけど、俺が適当に言った返事を鵜呑みにしたな」

「でも、言ったってことは変わりませんよね。将来を約束した、わたしとの約束をなかったことにはさせませんわよ」

「……そうは言っても、なぁ……」

「……で、そんな無駄話をしているくらいなら、わたしたちの関係性について話したほうがいいんじゃない? ねぇ、蒼生……?」

 陽葵は陽葵で暗黒的な微笑みをして、俺を見つめていた。

「……そう、だな……」

 俺は進野兄妹に俺と葵結の関係性を話すことにした。

「……俺と葵結は、従姉弟いとこなんだよ……」

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