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#49エプロンおじさん。

先週のバレンタインデー、チョコにまつわる皆さんの楽しい記事を読ませていただいて、わたしもささやかな我が家の出来事を書きとめておこうと思いました。

「今年のバレンタインは、チョコタルトを作ろうと思うんだけど」
二月に入って早々に、テル坊がそう言いました。

(あら、今年は自分で手作りするつもりなのか)

毎年バレンタインには、わたしがチョコレートを買ってきて、テル坊にお渡しし、でも食べるときは分けあってという我が家のスタイルがあったのですが、料理に目覚めたテル坊は、「どうせ口にするなら、オレが自分で作ったものを」と考えたようです。わたしに異論はありません。

「それはありがたい。ぜひ作ってください」

こうして二週間ちかくに及ぶレシピの厳選と視聴をくりかえし、わたしとミドリーが週末でかけている日に、テル坊はひとり台所に立っていたようです。

「ただいま〜」
用があって東京まで出かけていたわたしたちが、ヘトヘトになって帰ってくると、冷蔵庫の中には丸い茶色のタルトが鎮座しておられました。
「すごい。きれいに仕上がったねえ」(わたし)
「六等分にして、明日と明後日に食べられるよ」(テル坊)

翌日2月13日と14日の二日間かけて、夕食後に試食会が開催されました(参加者はテル坊、ミドリー、わたし)。一日目。冷蔵庫でキンキンに冷やされたチョコクリームは固くなりすぎており、口に入れると「かたっ」と思わずつぶやいてしまうほど。皆もくもくと食べました。味は美味しい、でも食感も大事なはず。とはいえテル坊の手作り…。さまざまな感情が頭をかけめぐりながらも、頰ばったタルトを懸命にかみ砕きました。
「明日はレンジでちょっと温めよう。それから余っている生クリームもかけてみよう」
テル坊から打開策の提案がありました。

二日目。レンジで軽くチンしたタルトに生クリームを添えてっと。今回は濃厚なチョコレートクリームが口の中に広がります。期待していた以上です。
「これは美味しい、いいですねえ」(わたしとミドリー)
テル坊もホッと肩の力が抜けたようです。だってほんとに一生懸命に作っていたのですから。

「では、ここでサプライズ」
わたしは用意していたプレゼントをテル坊に渡しました。それはデニム生地の男性用エプロンです。大きなポケットが三つもついていて、アウトドアでも使える代物です。
「エプロンもらったの、初めてだ」(テル坊)
恥ずかしそうにはにかむテル坊は、とても喜んでいる様子。よかった、よかった(エプロンだけでは寂しいので、オシャレな板チョコも数枚、封筒に入れてお渡ししました)。

ここ一年、テル坊は料理の魅力にとりつかれています。その理由のひとつに「自分の作ったものを食べてくれる人が複数いる(わたしとミドリー)」こともあるような気がします。わたしも、テル坊と二人だけのときよりも、今のほうが何を作ろうかと悩みますが、その分、よく出来た料理を二人が美味しいと食べてくれたときは、とても嬉しいからです。つくづく食べることや作ることは、人との交流なのだなと思います。

ちなみに、わたしはエプロンが大好きです。腰にキュッと巻きつけると、気持ちも引き締まります。同じ小さな黒いエプロンを二枚、交互に使っています。テル坊がこれから先、エプロンおじさんとして、料理のレパートリーを増やし、わたしの食事作りの負担を軽減することに貢献してくれるのか?それをnoteに書き残していく楽しみも、また一つ増えた気がします。

バレンタイン当日、ミドリーは買いものに出かけた際、お手頃な自分チョコをいくつか買っていました。翌2月15日の朝。寝ぼけまなこのミドリーが自室から出てきて、おはようの挨拶の後、言いました。
「母ちゃん。いつもお世話になっているから、このチョコをあげるよ」
差し出したのは、ヘーゼルナッツ味のトリュフチョコです。

「もうミドリーが半分食べてるけど。…残りものをあげるよ」(ミドリー)
「ありがとう。50年近く生きてきて、バレンタインデーという特別な日に、食べかけのチョコをプレゼントされたのは初めてよ。ありがたく頂くとするよ。このことはおばあちゃんになっても忘れないようにするよ。今年のバレンタインに、ミドリーから食べかけチョコをもらったってことをね」(わたし)

複雑な思いを胸に、わたしはミドリーに深く感謝の意を表したのでした。

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