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映画『あしやのきゅうしょく』を観た話。

本編とはまるで関係ない話だが、最近私はもっぱら大きなシネコンではなくミニシアターに通っている。特にシネリーブルとかテアトル系。今まで大手配給系の作品ばかり見てきた自分にとってはとても新鮮な世界で、どの作品を観ても大いに刺激になっている。

映画『あしやのきゅうしょく』
2022年3月4日より全国公開予定のミニシアター系日本映画で、2月4日より関西での先行上映が行われている。芦屋市の市政施行80周年を記念して制作された(!?)映画である。市政の記念事業が映画制作!?と驚いたが、検索してみると結構いろんな市町村が『〇〇周年記念映画』を作っていて結構ポピュラーなものなのだな、と実感した。

主人公は、新米調理士の野々村菜々(演:松田るか)。
彼女は、生まれ育った芦屋の街に戻り、栄養士として小学校の給食室に勤めることとなった。前任者である立山蓮子(演:秋野暢子)と調理師たちの手助けを受けながら、繊細で多感な子供たちに食の素晴らしさを伝えようと菜々は悪戦苦闘する。アレルギーや異国の食文化、栄養バランス、そして予算。数々の問題と向き合いながら菜々と子供たちは時を共にし、成長を遂げていく――。

国際都市・芦屋らしく、昔海外で暮らしていた女の子や、異教徒の女の子、ハーフの男の子など、登場してくる子供たちも非常にキャラクターに富んでいる。そしてそのキャラクター達を持て余すことなくしっかりと活かし、現代の給食制度が抱える課題がしっかりと、しかしさっとしたタッチで描いている。私はこの点にすごく引き込まれた。

同じ給食を全員が食べることができない、しかし子供たちの命を守るためには最善を尽くさなければならない。毎日給食を作る人々のそんな葛藤が裏に色濃く滲んでいて、映画全体の印象を『芦屋の給食はすごい』というだけにとどまらせていないのだ。


私も、何ら致命的な食物アレルギーを
発症することなく22年間を生きてきた。

唯一、アトピー性皮膚炎の症状が酷かった頃だけ、生卵を摂取するのを控えていたことがある。絶対に一口でも食べちゃいけないわけではないのだが、まあ控えた方がベターだ、ということで口にしていなかった。そんな折、私は学校の修学旅行に行くことになり、その出発前に生徒の健康面での問題を申告するための健康調査があった。それで、私と母親は「アレルギーの出る食材」の欄に、馬鹿正直に「生卵」と書いた。そしたら、旅館の夕食に出てきたすき焼きに生卵が付いてなかったり、昼食のサンドイッチにゆで卵が入ってなかったりして、とにかくさもしい思いをした。家に帰った後、その事の顛末を母に話したら、爆笑していた。私も爆笑してしまった。

今では生卵をいくら食べようがお構いなし。アトピーの症状はすっかりと消え去った。しかし、その時感じたやるせなさは今でもはっきりと覚えている。「みんなと同じものが食べられない」だけで、こんなにもフラストレーションが溜まるのか。まして、小学校の給食は美味しいマズイが一番友達の間で議論される。それを共有できない苦しみ、というのは計り知れないぐらい大きいのだろう。

日々、そんな子供たちを見守り、食の安全を守り、陰ながら日本の教育現場に貢献している栄養士と調理師のみなさん。あなたたちは、本当にすごい。月並みな言葉で申し訳ないが、心からそう思った映画であった。


余談だが、瑞野が好きだった給食は、コッペパンにココアパウダーをまぶして揚げた『ココア揚げパン』と『ほうれん草のシチュー』だった。ああ、今思い出してもよだれが出てくる。また食べたい。



おしまい。




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