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拝啓、あと2カ月で無くなってしまう『テアトル梅田』さま。#映画館

テアトル梅田で初めて映画を見たのはいつのことだったでしょうか。私は、茶色い本革の手帳を取り出してペラペラと捲りました。映画の半券や展覧会のチケットがすべて張り付けてある、おもいでが詰まった手帳。その中に、ちゃんと記録されていました。

『浜の朝日の嘘つきどもと』。福島県南相馬市に実在する「朝日座」という映画館を舞台に、寂れ往く地方の映画館の再生とある謎の女の人生を描くヒューマンストーリー。

知人づてに紹介されたその映画を観たのは、コロナという名前の長い夜が明けきらぬ頃でした。私が人生で初めて足を踏みいれた場所は、地元にあったしょぼくれたシネコンとも、都会にある最新技術を駆使した遊園地のような映画館でもない、とてもこぢんまりとしていて、妙に安らぐ空間。テアトル梅田でした。

梅田ロフトの地下一階という立地といい、2スクリーンしかない規模感といい、チャラついた感じが一切ない。元来根暗で静かな場所を好む私にとって、ミニシアターは最高の友達になってくれました。たびたび、大学の授業終わりに梅田行のスクールバスに飛び乗って、テアトルに通いました。

それはきっと「知る人ぞ知る作品」を観ていることで、人と違うぞ!と自分に言い聞かせ優越感に浸りたかった、というのもあるのでしょうが、それ以上に、大スクリーンで展開し商業的成功を収めるような派手な映画にはない「書きたい物」「描きたい筋」への忠実さを感じる映画ばかりだったのがとても好きで。そういうところが自分の芸術人魂をくすぐってきたのかな、なんて、今は思ってます。


そんな「テアトル梅田」が
今年の9月末で閉館するというニュースが
数日前メディア各社から伝えられました。

正直、虚しさを覚えざるを得なかったです。なんだか、大事なこころの居場所が一つ奪われてしまったような。自分の映画やシナリオに対する情熱を滾らせてくれた場所が無くなってしまうのかと思うと、やりきれません。

「浜の朝日~」は、映画館の再生を目指して奔走していくある女をフォーカスして描かれているのですが、随所にどこか「諦め」のような雰囲気を感じるのです。結局頑張ったって誰も来やしない、奇跡なんて起こりっこない、そもそも、無くなると決まった後から惜しみやがるくせに、当たり前に存在している時には興味すら持たねぇ。

奇跡を望みながら、どこかに冷めた表情が伺える。
そんな不安定で繊細で、でも愛おしい物語なのです。

なんだか、そのまんま自分にブーメランのように刺さってるっていうか。結局自分も、無くなると分かった途端に惜しむことしかできない人なんだな、という無力感を少し噛み締めました。「惜しまれねぇよりマシだ」という、映画館のオヤジがボソッと呟いた台詞が背中から聞こえてくるようです。


ともあれ、決まったことは決まったこと。とても悲しいけれど、この事実を小さくかみ砕いて飲み込むことしか、私には出来ません。あなたと過ごしたのは本当に刹那のように短い期間でしたが、テアトル梅田で吸った空気を、感じた想いを、映画の世界を旅した時間を、忘れることはないでしょう。そして、閉館までの間に少しでも脳裏にこの場所の記憶を焼き付けられるように、出来るだけたくさんお邪魔したいです。

ちょうど『ビリーバーズ』が
気になっていたところなので、
近々またそちらにお伺いしようかと思います。

まずは取り急ぎ。



おしまい。



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