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[理系による「アート」考察] 劇団唐組 紅テントにおける狂気(後編)

前回、劇団唐組 紅テントのあの舞台には、何頭の狂気があるはず、と記載しましたが、その"狂気"とは何か?、の考察になります。

その狂気は、役者・演出家の狂気じみた情念、と、唐十郎の狂気、です。

まず、役者・演出家の狂気じみた情念、に関してですが、この舞台の採算を考えると理解しやすく、その実際は、役者への給料無しで、赤字かトントンだと思います。

具体的に、チケット代が今回の"透明人間"だと、4000円です。1回の公演で200人入ったとして、1回の売り上げが80万円。

ここから、
・紅テント設営のための場所のレンタル費用、
・チケット販売代行であるイーチケットへ支払う費用、
・テントの維持費(全16回の公演で分割)、
・舞台美術作成費用(全16回の公演で分割)、
・劇の練習場所レンタル費用(全16回の公演で分割)、
等々を考えると、80万円などすぐに使い切ってしまい、役者への給料はないと思います。もしくは逆に、役者自身が持ち出しているのでは…、とも思われます。

ちなみに、自身が初めて観に行ったときは、チケット代は3500円だった記憶があります。その当時、過去役者をされていた会社の先輩に、"せめて4000円は取りましょうよ!"、と言ったところ、"金額高くすると観てもらえなくなる!"、との予期しない回答が返ってきました。

ということで、この舞台はお金を儲けることは全く意図されておらず、単に良い舞台・劇を、作りたい・やりたい・観てもらいたい、のピュアな役者と演出家の思いだけでできています。

かつ、紅テント自体も役者が建てる(コスト削減の意味もあると思ますが)、という、もはや劇に人生をささげないとできない所業であり、そんな情念をもつ役者が生で劇を見せる、という行為自体が、狂気が舞台に乗る要因の一つと思われます。

次に、唐十郎の狂気、に関してですが、これが言語化がかなり難しいです。今回の、透明人間、だと、狂犬病と恐水病が同じ意味であるところから、"水"と"狂"をキーワードとして、戦争ストレス障害に陥った人間が見る世界観を描き、映画でいうと"シャッター アイランド"と"カリガリ博士"を合わせたような…、な言い回しはできるのですが、どうも伝わる気がせず、すいません、唐十郎の"狂"の世界観を文章で伝えられるようにすることを今後の自身の課題としたいと思います。

話がそれるのですが、観客に20代が多かったことがとても印象的でした。舞台も昭和風なので、彼らに分かるのかな?、とも思うのですが、劇が終わった後、彼らの興奮している様子が見られたので、どうも昭和風とかいう問題ではなく、やはりあの狂気が本質のようです。ちなみに、コムデギャルソンも、昨今のインスタの反応から、どうも最近若い世代を熱狂させているような気がしており、コロナの状況からの解放も含めて、あのような強いエネルギー(コムデギャルソンもある意味狂ってる)を感じられるものを若い世代は求めているのかもしれませんね。

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