〈偏読書評〉持ち主の“物語”を妄想させるiPhoneホーム画面収集本:『somebody’s room』とは

このところ漫画作品に関する投稿が続いてしまったので、今回はちょっと趣向をかえ、個人的にイチオシのアートブックをご紹介します。

昨秋、「過去と未来のまんなかで変わり続ける いまの『本』を考える2日限りのブックストア」というコンセプトで開催されたブックフェア『TRANS BOOKS』

このブックフェアの運営委員会のメンバーでありアーティストの飯沢未央さんと、同じく運営委員会のメンバーでありグラフィックデザイナーの畑ユリエさんのおふたりが、2016年10月から2017年8月の約10ヶ月間にわたり、あらゆる年代・職業の人からiPhoneのホーム画面のスクリーンショットを収集し、一冊の本としてアーカイブしたのが、今回ご紹介する『somebody’s room』です。

ちなみに、この『somebody’s room』 には、俺の旧iPhoneのホーム画面も収録されています(しかも一番最初に!)。なんで「旧」がつくのかというと、少し前の誕生日の夜に愛用していたiPhone 5sが、いきなりカマボコ板と化したからです……中年にもなると、バースデー・サプライズすら無意識のうちに自給自足できちゃうようになるんですね……(遠い目)

中年おひとりさまの卑屈なつぶやきはさておきですね、持ち主である自分は毎日何度も目にしているのに、ちょっとやそっとのことがない限り、他人に見られることがほぼないのが、スマートフォンのホーム画面

PCのデスクトップはチラ見してしまうことがあっても(特にオフィスとかで働いていると)、スマートフォンのホーム画面だけは、チラ見すること自体がマナー違反のようにも感じられ、持ち主が見せてくれるとでも言ってくれない限り、そうそう見る機会がないものかと。

そんな《現代人にとっての究極のパーソナル・スペース》ともいえるスマートフォン(iPhone)のホーム画面を、持ち主の「年齢 / 性別 / 職業 / 趣味」のパーソナル・データとあわせて見れちゃうのが『somebody’s room』です。

ちょっとここで、『somebody’s room』の特設ウェブショップに掲載されているコンセプト文を引用しましょう。

もはや日常風景になっている、電車の中で人々がスマートフォンをいじっている光景。その様子を見て、それぞれのスマートフォンのホーム画面には何が映っているのだろうかと、ふと興味を持ったことがこのプロジェクトを始めたきっかけとなっています。皆が片時も離さないスマートフォンの画面は、公にされないプライベートな空間であり、そこから持ち主の人柄や興味・関心、考えていることなどを想像することができます。それぞれのホーム画面には、とても身近にあるからこそ、その時代の断片のようなものも無意識に記録されているのではないでしょうか。日々変化し消えてしまうその存在を、本という静的な形ですくいとり、保存しました。

ちなみに本の隣にある黄色い冊子は、各パーソナル・データの英訳をまとめたもの。実はこちらの英訳を、お手伝いさせていただきました。

で、ですね、著者のふたりからは和文テキストだけをもらって英訳作業をしていたのですが、ついつい「この文章を送ってきたのは、どんな人なんだろう?」と妄想しちゃうんですよ。送り主の個性も多少は感じられる英文テキストにしたかった、というのもありますが、その意図を忘れちゃうくらいに、妄想が止まらない。妄想が暴走とは、このことですね。

そんな感じで、ちょっとニヤニヤしながら英訳をしたのですが(ハタから見たら、ただの変態)、実際に本になってホーム画面と並列された状態でパーソナル・データを見ると、もうテキストだけのときよりも、はるかに妄想が捗っちゃうんですよ……もう、なんか見ちゃイケナイものを、こっそり覗き見しているようなドキドキ感も生じるので余計に(これ、ただの変態発言だな……)。

「ちょっとヤバい趣味に目覚めちゃったのかな、俺……」とか「これって、一種のデジタル出歯亀状態……!?」と不安になりつつも、知人にこの本を見せると、みんな食い入るように読み/眺めはじめるんですよ。しかも、人によって見る/読むポイントや感想がけっこう違っていて、これを聞くだけでもかなり楽しい

何より会話の話題として、か〜なりの高確率で盛り上がる本なので、話のネタとしてカバンの中に入れておくと、けっこう重宝するかもしれない。知り合って間もない人とか、あまりおしゃべりがはずまない相手と長時間一緒に過ごす予定があるときとか。ちなみに特設ウェブショップでは2冊セット版も販売されているのですが、2冊のうち1冊を相手に渡して、一緒に眺めても面白いかもしれないです。

あとUI・UXデザイナーさんたちにとっては、自分たちがデザインしたアイコンが、ユーザーのホーム画面でどんな風に表示されるのかを予測するときの貴重なデータになるような気もします。もうねアプリアイコン見本帳みたいな状態でもあるし、「こんなアプリもあるのか〜」とか「こんなホーム画面の使い方もあるのか……っ!!」っていう驚きもあったりもするので、モバイル関連のお仕事をされている人は、資料として一冊手元に置いておいて損はないと思います。

とまぁ、相変わらず長々と書きましたが、こんなに面白い(かつ読み手の職種によっては、かなり実用的な)アートブックは、そうそうないですよ、マジで。そんな『somebody’s room』、現在では特設ネットショップ「somebody's shop」のほか、東京・北区王子のコ本やさんなどのセレクト書店にて発売されています。ただ、初版発行数が300部と少なめな上、「初版が完売しても、重版する余裕ないだろ……」としか思えないくらいに、著者のおふたりは常に忙しそうなので、気になった方はどうかお早めに……!

【BOOK DATA】
『somebody’s room』 飯沢未央・畑 ユリエ/企画・編集、畑 ユリエ/アートディレクション・デザイン、林 みき/翻訳、加藤製本/製本、iPhoneのホーム画面をご提供頂いたみなさま/協力 2017年11月3日第1刷発行 ¥1,900(税込)

Grazie!
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Mk_Hayashi

偏読書評

「偏食」ならぬ「偏読」気味の本好きによる、文芸やマンガ作品紹介。
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