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甦るロシア帝国(著:佐藤優)【よみがえるよりずっと前の読書紹介、まだ死んでもいない】

佐藤優がソ連外交官時代のことを思い出しながら書いたロシア本。
ノンフィクションです。物語ではありません。

佐藤優先生が現役だったころは、
ソ連崩壊が発生した激動の時代でしたが、
それについては「自壊する帝国」でよく描かれています。

これって歴史資料の扱いですよね。

しかし今作の「よみがえるロシア帝国」は、
昔、ロシアにいたころに、
当時のロシア・インテリ階級たちと話をしたりしたことを中心に、
歴史の流れよりは、当時のインテリと話した、
哲学や神学の話がメインになります。

プーチン氏はまったく出てきません。
どこまでも90年代の話です。

サーシャ・カザコフ先生は、前作でさんざ紹介したからか、
本作ではほぼ出てきません。

ソ連崩壊後、90年代中ごろの時代背景を元に、
モスクワ大学の客員講師などをなぜかやっていて、
学生に対する講義などがクライマックスに来ている作品です。

大学の先生などが、
今後のロシアの未来図として、
ブラジル型の開発独裁か、さもなくばある種のファシズムか、
と言っていました。
後者が現実化してしまったようですね。

そのファシストの先駆けとして黒い大佐アルクスニス。
ダンヌンツィオや三島由紀夫みたいな立ち位置で、
ファシストとはいえ、力こそが正義だなんて野暮なことを言う人ではないようです。

そもそも祖父ヤコブ・アルクスニス中将はソ連空軍の父として知られており、その後、粛正されたことでご家族は大変なことになっていたとか。
黒い大佐も北朝鮮風に言うなら悪質反動層です。

アゼルバイジャンとアルメニアの第一次戦争。
エトノクラチヤ(民族ナショナリズム政治)の話。

ソ連崩壊期なので、
生活に困り、苦しい人生の選択肢を迫られる女学生。

アフガン帰還兵で、パウロの「ローマの信徒への手紙」を読ませたら、
「わたしは自分のしていることがわかりません。自分が望むことは実行せず、かえって自分が憎んでいることをするからです」
教室で泣き出してしまう男子学生。
(ここはクライマックスではないでしょうか?)

「悪は確実に存在する。パウロが偉大なのはそれを人間の罪と結びつけたことだ。それはアウグスティヌスが言ったような善の欠如などという生温いものではない。悪は悪として自立している」
この講義の少し前に、
エリツィンとハズブラートフが10月政変という内戦をやっていました。

前作で書ききれなかったところをまとめただけかな?
と思いきや、意外と哲学や神学の話がメインとかになっていて、
前作とは基本的には違う方向性の本になっていました。

神学って、カール・バルトの話なんかもあるし、
哲学の中に属する話なんですね。
過去の遺物ではなく、現代的な意義のある哲学話でした。

佐藤先生経由でバルトの話をすると、

宗教は人間にとっていまだ必要である。
なぜなら、ヒューマニズムは人間の欲望に対してあまりにも肯定的すぎるからである。
だからこそ、自らの欲望を節制するためには、より大きな視点を持ち出すしかない。
その点で、神からの視点というのが必要になってくる。
だがそれは、誰かが神の視点を解説したものではない。
これまでの宗教は神についての解説を誰かが対弁することで、
その代弁者が権力を掌握するという構図だった。
そうではなく、個人が神と直接的につながるための、垂直軸の視点を持たなくてはならない。

こんな感じですが、間違っていたらすいません。

佐藤先生は、これをロシアの学生たちに
「君たちは未来のロシアを支える者として、欧米人インテリの内面世界を知らなければならない。相手の内面世界を知らなければロシアを守ることはできない」
なんて講義しちゃうんですね。なんて筋を通す漢なんだ。

日本といい、ロシアといい、
国家が一度崩壊したくらいでは、その国家の歴史は終わりません。
強大な民族は、しばらくするとまた強大な国家を再建して戻ってきます。

かのスターリンも、日本やドイツがいずれ必ず大国として再復活してくることを当然として、外交戦略を考えていたようです。

例外はオーストリアハンガリー帝国くらいでしょう。
この国はばらばらに引きちぎれて、それぞれ小国として独立してしまいましたから。
(まあEUという形では復活しているけど)

今回もまた、とりとめのない紹介になってしまったようです。
それではまた。

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