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スパイのためのハンドブック(著:ウォルフガング・ロッツ)【またアスタマニャーナちゃんが面白い本を読書紹介してくれたんだな。「大将、もしかして人名だと思ってる?」】

ジェームス・ボンドみたいなスパイは存在しないと思うでしょう。
あれは、リアルの警官と両津勘吉との落差くらいに、
非実在的なフィクション世界だけの産物なんだよ。
と口を滑らしたことが私にもありました。

でも近い存在はいるんだな。
それがイスラエル秘密情報部(モサド)一番の問題児。
別名、シャンペンスパイ、
ウォルフガング・ロッツだ。

湯水のように高級シャンペンを飲みまくったパリピで(嘘だと言ってくれ)
当然その費用はイスラエル国民の血税なのです。ああ。
まあ、その代償としての情報は非常に有用だったので、
そのような費用が惜しみなく支払われたそうですが。

名前の通りドイツ系ユダヤ人で、
ナチス時代はイギリス軍で戦っていた人ですが、
メンタリティ的にほぼドイツの人なので、
「いやー、戦時中はロンメルのアフリカ軍団にいたんですがね。
捕虜になってしまいまして」
なーんて言っても誰も疑わない。
それどころか、
「そういえばお前の顔を思い出したっぞ」
とかなんとか言っちゃうドイツ人も現れ、
霊験あらたかなものがあったのです。
(人間の記憶ってほんと当てにならないですね)

さて。
この本はシャンペンスパイの活躍ぶりというより、
前作の印税を投資で(本当に投資なのか?馬とかじゃなくて?)
すっからかんにしてしまったロッツ氏が書いた二匹目のどじょうです。
スパイになるためのハンドブック、ですね。

上述のような「偽の経歴」をまずはしっかりと作りこむところからですね。
ゾルゲみたいに、偽の経歴とかそもそもあんまりない人なら、
そのまんまで大乗仏教なんでしょうけど、
普通のスパイは、それっぽい偽の個人史をでっちあげなければなりません。

ロッツ氏は、ナチス時代にドイツにいなかったので、
その時代のリアリティがいちばん問われるところです。
ドイツは書類のたぐいはがっちり作りこむことで良くも悪くも有名。
ただ戦時中や戦前なら、
すべて空襲で焼けてしまったということでごまかせますが、
戦後はそうもいきません。
ロッツ氏は当然にイスラエル国民ですから。
なのでアフリカに行って冒険経営者やってることになりました。

それだけじゃない。
印象的なエピソードなんかもぜんぶ作りこみ、
空で鼻歌を歌えるくらいに暗記しておかなくてはならない。
地道ですが、こういう作りこみの作業が生死を分けます。
きっちりやりましょう。
二流はすぐバレる設定を作って「怪しいぞ」となって終わりです。

さて作りこみの作業が終えたら、
危ない時のケーススタディもあらかじめ考えておきましょう。
幾つかパターンを考えておくのと、
その場でいきなりやるのとは、練度が違います。
浮気しやすい人が練習してるアレ

例えば、
「アフリカ軍団では中尉をやってました」

「嘘つけ。私は部下の将校の顔を全部覚えている。お前みたいな中尉はいなかった」

「やっべ。ばれました? いやあ、本当は二等兵だったんですけど、まあビジネスの関係で中尉になっといた方が良いかなって」

「・・・」

「ま、ま、ここはこれで見逃してください。すいませんねー」
札束ぎゅっと。

(なんて不愉快な話なんだ。だが) 「まあ、受け取っておこう」

この話のキモは、
いちばんヤバいイスラエルのスパイであるという真実は、
隠しおおせたということです。
さらにバレそうになっても、
「いや、あの男は実は」
とかいう暴露話がさらにダミーストーリーになってくれるということです。
うまくできてるでしょ?

他にも、上司が惜しみなくプレゼントしてきたら、それを使い込んだりせず、後できっちり返しておくこと。
後になって「あれは血税だったんだよ。どうするのかね?」
とかなんとか言われないように。罠です。
(やっぱりモサドの上司も対策を考えているんですね)

後は、結婚とかは上司に報告せず、だまっていきなりやっちゃえとか。
(もちろん彼女が敵側の工作員でないことは自分でチェック)

いやロッツ氏、もうほんと、映画にでもなっちゃえ。

ところで、お名前が判明しているということは、
この人は、とうとう最終的にエジプト秘密警察に正体ばれて捕まって、
捕虜交換でなんとか帰ってきたということです。
名前が割れたのでスパイは引退です。
名前が割れている有名スパイは、最終的に検挙された人なのです。
マタハリしかり。ゾルゲしかり。ローゼンバーグ夫妻しかり。
逆に最後まで捕まらなかった人は、歴史に名前が残りません。
スパイというのはそういうものなのです。
スパイの逆説です。

スパイファミリーでアーニャ変顔百選を楽しむ前に、
これくらいは知っておいても罰は当たらないかもー。

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