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惑星のさみだれ(ほしのさみだれ)(著:水上悟志:2010年完結:全10巻)【これはマンガ感想なんだぜ。わかるかな?わかんないだろーな?】

最近アニメ化されたのですが、アニメの方は質が低いということで黒歴史化された(らしい)作品です。
しかし私は原作派なので意に介しません。

というか、私は自称アニメオタクらしいのですが、2年でわずか1作しか見ていないという自称「アニメオタク」野郎なので、まあとにかく原作で見たものはもういいや、という人なのです。
銀英伝くらいですかね。原作とアニメ両方観たの。

ただこの作者のマンガ、テンポが独特なので、これをリライトして脚本に書き直すのは存外難しいんじゃないかと。

緩急がありすぎる作風なんですね。
いつまでも同じとこグルグル回ってたかと思うと、とたんに超展開で話が進んだりする。
日常系の話かと思いきや、実はシリアス系の展開だったり、
あるいはその逆も。
この人の固定ファンはむしろそういうのが大好きなのですけど。
(私もそのひとり)

いわゆる脚本のテンプレを外しまくるシナリオなので、外注に出すと混乱するのかもしれません。
それがこのマンガの味であり、余人には真似しようとしてマネできるものではない所です。
真の独創性とはこういうものです。

さて過度なネタバレにならない程度にあらすじを。

まず能力者バトルです。
能力者ひとりにつき動物霊みたいなのがひとり付いてきます。
ラスボスの目的は地球の破壊。能力者の目的はそれを阻止すること。
そしてラスボスが送り出してくる怪物を一匹ずつ倒していく。
ただこの辺の設定はわざとショボくしてあります。
作中人物からも「なんでやねん」とツッコミが入るくらい(笑)が入ってます。

しかし(笑)から一転して、シリアスで生々しい話がさっと入り込んできます。

ヒロインは病気で余命いくばくもないが、能力の力で一時的に健康になります。つまりラスボスを倒したら、余命いくばくもない状態に戻ります。
(ラスボスを倒さないと地球が滅ぶんですよ)

主人公は毒親のせいですっかり性格が暗くなった無敵の人です。
おそらくこの話に巻き込まれなければ、犯罪者として生涯を終えたでしょう。

しかし、ふたりは出会った。

この逆説的なキャラ設定はそれ以外の登場人物にも通底してます。
短命な英雄、
自信のない賢者、
未来を知る男、
愛を信じない女、
愚かな恋人、

地球を救うために戦っているのですが、テーマはそう安っぽいものではありません。もしそうだったら、主人公は話に巻き込まれなかったでしょう。

本当のテーマは「生きるための動機」です。

ただ生きているだけでなく、積極的に生きたいと思える理由を見つけられるかどうかが、各話の分水嶺であり、作品のクライマックスです。
もし見つけられなかったら暗転するでしょう。
ラスボスもまた「生きる理由」をついに見つけられなかった人です。

敵を倒すための戦いではなく、本当の「生きる理由」を見つけられるかどうかの戦い。
怪物を倒すのはその道程でしかなく、主人公たちがいつ「闇落ち」するんじゃないかと、ヒリヒリした魂の緊迫感を感じます。
こんなとこで緊張する作品、他ではあまり見ません。

善悪の彼岸を超越して、登場人物はなべて「生きること」にもがき苦しみます。
それを観て読んだ人は泣きます。泣きゲーとかと同じノリです。
そのテーマの重さが、前述のショボい設定と組み合わさっており、絶妙のパンチ力で刺さってきます。緩急が激しい理由。

(分析してみるとKEY作品と同じ系列に属するのか。思ってもみなかった)

***

少し小話を。

創作の秘訣に「にもかかわらず」テーマを使うというのがあるんですが、
人間性って逆説的なのが好きなみたいで、こういう逆説的な設定に惹かれるんですよね。

ミヒャエルエンデが言うには、
超自然の徳が3つあって、なぜ超自然の徳かというと「逆説的な場所で発動するから」
つまり「愛と希望と信じること」なのですが、これらはそれが否定される環境でこそ、むしろ強く向こうの方から一方的にやってくるものだから。
そういうことらしいです。おそらく逆説的なものを人間が大好きなのは。
少なくとも「愛と希望と信じること」の方は、人間を放って置くつもりはさらさらないようなのです。

***

アニメ版の評価が低いらしいので、マンガ版をオススメします。
夏休みとかに10巻まとめて読むと、その年の夏休みが印象深いものになると思います。

この漫画を読んでからリアルに帰ってきたとき、リアルの世界が昨日までとは違って見えますよ。

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