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【商売図鑑】宝船桂帆柱(2)十遍舎一九×歌川広重


呉服店ごふくだな 両替屋りやうがへや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

呉服店ごふくだな  〔志満屋〕〔大吉利市〕
呉服ごふくやは にみせを 明烏あけがらす はや かを/\と 人のより
〽 へゝ 入らせられませ ハイ/\ ちりめんに よいしまやも
〽 ハイ/\ ござります

両替屋りやうがへや  〔● 付〕
正直せうぢき金性もとでとすれば 両替りやうがへさかゆるうんは 天秤てんびんのをと
〽 大ばんとうに 小ばんとう にぶいかほして 一ぶでも 天秤にかける事なし 小玉 お茶をくめ

※ 「利市りし」は、商いの儲けのこと。
※ 「明烏あけがらす」は、夜明けがたに鳴くからすのこと。ここでは、店を「開ける」と掛詞かけことばになっています。
※ 「大ばんとう」「小ばんとう」は、大番頭、小番頭。
※ 「にぶいかほして」は、にぶい顔して。
※ 「一ぶ」は、一分。一分金いちぶきんのことと思われます。
※ 「小玉」は、小玉こだまぎん豆板まめいたぎんの別称)と 玉緑茶たまりょくちゃ の掛詞になっていると思われます。


材木屋ざいもくや 金物屋かなものや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

材木屋ざいもくや
かねのなるを うりものゝ ぬき小割こわり これやたからの 山挽やまびきにして
〽 ひの木の なゝ六 よしのか

金物屋かなものや  〔● 千〕
商売しやうばい に すぐなるこゝろ みがきなば 金気きんけはみせに たへぬはんじやう
〽 うれだかが だいぶんふえてきた こりやどう十

※ 「貫」は、柱の頭部を横に貫く木材のこと。柱貫はしらぬき頭貫かしらぬき
※ 「小割こわり」は、ここでは木材の規格のひとつ、木口2.5cm前後・長さ1.8mほどの角材のことと思われます。
※ 「なゝ六」は、角材の寸法規格でしょうか。
※ 「はんじやう」は、繁昌。


米屋こめや 小間物屋こまものや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

米屋こめや
新米しんまいたわらのいろの青ゝあを/\と 杉形すぎなりにつむ みせのにぎはひ
〽 まはしが しつかりじやァ ねうちが ちつとむづかしい

小間物屋こまものや  〔炭〕〔萬小間物〕
くる/\と かねまはりよき 身代しんだいは これぞ はか多のこまものゝみせ
〽 こいつァ こうかいゝわへ まるりきには ふめる/\

※ 「杉形すぎなり」は、米俵などを三角形に積み上げたもの。


酒屋 香具屋かうぐや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

酒屋  〔銘酒 瀧水〕
正直を 一本木なる 酒みせの栄へは 日ゝに神ばかりなり
〽 かみやのきく かじまのうろと かもだのあらし山は 上もの

香具屋かうぐや  〔御顔の薬白粉 京橋 坂本氏製 美艶仙女香〕
はたかき べに看板かんばんの あかねさす と見ゆる みせのはんじやう

※ 「銘酒 瀧水」は、江戸神田和泉町の酒屋、四方よも久兵衛で売られていた銘酒。滝水たきすい。滝の水。
※ 「はんじやう」は、繁昌。
※ 「坂本氏製美艶仙女香」は、当時評判の白粉おしろいで、坂本氏が販売していました。よかったら過去 note を参照してみてくださいね。⇒「江戸高名会亭尽 雑司ケ谷之図」👀


紙屋かみや 干物屋かんぶつや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

紙屋かみや  〔ヤマ九〕
さいはゐを ゑびす紙やのにぎはひは 掛直かけねなくして 安うり三郎
〽 いふまさに とき こよし/\

干物屋かんぶつや
うりものゝ たくさんなれば 身上しんじやうも はるのひものゝ あたゝかに見ゆ

※ 「掛直かけね」は、掛値かけね。値切られることを想定して、実際の販売価格より高い値段をつけること。
※ 「ゑびす紙」は、恵比須紙えびすがみ。紙を重ねて裁つときに、角が内に折れ込んで裁ち残しになったもの。十月は諸神みな出雲大社へ出かけられるのに、恵比寿神だけが残ることから来ているそうです。
※ 「ときこよし」は、とき小好こよしでしょうか。


木薬屋きくすりや 塗物屋ぬりものや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

木薬屋きぐすりや  〔⃞上〕
せいせば 利目きゝめの見ゆる くすりみせ かねいのちも のばすあきなひ
〽 此はんもと 岩戸やにて 取次うりひろめ たんの妙薬 むるい丸 ●●●百文

塗物屋ぬりものや  〔ヤマ竹 本店〕
生業すぎはひの とくをせらめ うるしにて いつも堅地かたぢに 見ゆる身代しんだい
〽 いわとやにて うりひろめせんき ● 切業

※ 「木薬屋きぐすりや」は、生薬屋きぐすりや
※ 「むるい丸」は、無類むるい丸。咳・痰の薬。
※ 「生業すぎはひ」は、生業なりわい。(生業すぎはいくさたね=暮らしを立てるための職業は、草の種のように多い)
※ 「とく」は、利得りとく


古着屋ふるぎや 古道具屋こどうぐや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

古着屋ふるぎや
正直せうじきの かうべを かみまもりにて はや ふるぎの みせのはんじやう
〽 けんで二十だ アゝ やすいもんだ

古道具屋こどうぐや  〔上士丁〕
長生ながいきの らくた道具どうぐならべて とせ ふるもの ひさぐめでたさ
〽 ぼろ 三ゑ五ふんが もとねのかいだ

※ 「正直せうじきのかうべをかみまもりにて」は、正直しょうじきこうべかみ宿やどる ということわざ。正直な人には必ず神様の助けがある、という意味。
※ 「はやふるぎ」は、神の 枕詞まくらことば千早振ちはやふる」と「はや古着ふるぎ」の掛詞になっていると思われます。
※ 「はんじやう」は、繁昌。
※ 「とせふるもの」は、千歳ちとせ古物ふるもの
※ 「ひさぐ」は、ひさぐ。売る、商いをすること。
※ 「三ゑ五ふん」は、三重五分(3×5)で十五分という意味でしょうか。(一分は一文の十分の一)


質屋しちや 畳表屋たゝみおもてや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

質屋しちや  〔月限御流申候〕
めだたさは 産後さんごのしちや ならねども かねがねうむ いへぞたのもし

畳表屋たゝみおもてや  〔●● 松田〕
あきなひも ひろしま 備後びんご 備中びつちうや 琉球りうきうまでも ひゞくはんじやう

※ 「備後びんご」は、備後びんごおもて。備後(広島)で作られるたたみおもてのこと。
※ 「備中びつちう」は、備中びっちゅうおもて。備中(岡山)で作られるたたみおもてのこと。
※ 「琉球りうきう」は、琉球りゅうきゅうおもて。琉球(沖縄)で作られるたたみおもてのこと。
※ 「はんじやう」は、繁昌。


佛具屋ぶつぐや 油屋あぶらや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

佛俱屋ぶつぐや
御仏みほとけのひかりは かね威光ゐくはうにて ゆたかに見ゆる みせ荘厳しやうごん
〽 ふ●き自在 ●んり香 はんもとより うりひろめ

油屋あぶらや  〔植村 水油〕
生業すぎはひの みちくらからぬ ゆへにこそ 得意とくゐもへらぬ あぶらあきなひ

※ 「水油みずあぶら」は、液状油の総称。頭髪用の椿油や灯火用の菜種油など。


煙草屋たばこや 煙管屋きせるや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

煙草屋たばこや  〔◇㊂〕 〔げんきん〕
あきなひの たてのよきゆへ 身上しんじやうも やにこくはなき 多葉粉たばこ見せかな

煙管屋きせるや  〔ヤマ上〕
正直しやうじき地金ちがねよければ 諸国しよこくへも よくとをりたる 名代なだい 喜世留屋きせるや
〽 たん ●●● をりに よくきくくすり はんもとにて より弘め

※ 「やにこく」は、やにこく。しつこい。くどい。


菓子屋くはしや 炭薪屋すみまきや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

菓子屋くはしや  〔船橋織江〕
くはしみせは とく羊肝ようかんの 評判ひやうばん に その落雁らくがん かね有平あるへい

炭薪屋すみまきや  〔太田屋〕
養老ようろうのたきゞ かればや 長生ながいきも しんだいも 堅炭屋かたずみやなれ

※ 「くはしみせ」は、菓子店かしみせ
※ 「船橋織江」は、江戸時代後期の菓子店 船橋屋ふなばしや織江おりえ。練り羊羹が評判だったそうです。
※ 「羊肝ようかん」は、羊肝餅。羊羹ようかんのこと。
※ 「落雁らくがん」は、干菓子のひとつ。砂糖菓子。
※ 「有平あるへい」は、有平糖あるへいとう。ハードタイプの飴。
※ 「養老ようろうのたきゞ」は、養老のたきたきぎの掛詞になっています。
※ 「しんだいも堅炭屋かたずみや」は、身代も堅炭屋かたすみや。身をかためると堅炭かたずみの掛詞になっています。


蝋燭屋ろうそくや 肴屋さかなや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

蝋燭屋ろうそくや  〔松坂屋〕
仕合しあはせは 時に会津あいづのらうそくや これ正直せうじきの 生掛きがけよりして

肴屋さかなや
身上しんじやう に 尾鰭をひれのつきて いさましや 日ゞひゞにあらたな さかなあきな
〽 くぎだなの 井戸で 上ものになる

※ 「らうそく」は、蝋燭ろうそく
※ 「生掛きがけ」は、こよりに灯心をまいて芯にして、油で練った蝋を数回塗り乾かした蝋燭。
※ 「くぎだな」は、釘店くぎだな。品川町の裏河岸の俗称。


八百屋やをや 瀬戸物屋せとものや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

八百屋やをや
売物うりものはみな 青幣あをにぎて なればとて 八百やをやのかみの まもるはんじやう

瀬戸物屋せとものや  〔⃞谷〕
しやうばいの せとものつくる つちせう かね一升に かゆるたのしさ
〽 これは しんとの 上ものじや

※ 「青幣あをにぎて」は、青和幣あおにぎて。 麻布で作った和幣にきてのこと。
※ 「はんじやう」は、繁昌。
※ 「しやうばい」は、商売。
※ 「つちせうかね一升」は、土地の値段が極端に高いことの喩え。
※ 「かゆる」は、ゆる。かわる。
※ 「しんと」は、塵土じんどでしょうか。


餅屋もちや 漬物屋つけものや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

餅屋もちや  〔いくよ〕
みせつきも 美味うまいしかけは 饅頭まんぢうの おんにたがはぬ かねもちやなれ
〽 小児薬王 肝涼円 はんもと取次

漬物屋つけものや  〔小田原や〕〔金山寺ひしほ〕
つけものゝ 塩梅あんばいもよき 身上しんじやうと 人によばるゝ かうのものやは

※ 「いくよ」は、幾世餅いくよもち。江戸の両国名物のあん餅。元禄の頃、小松屋喜兵衛が吉原の遊女・幾世を落籍して妻とし、その名をつけて売り出したものだそうです。
※ 「小児薬王肝涼円」は、江戸時代後期の有名な小児薬。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『都の魁:工商技術

※ 「かうのもの」は、香の物。お漬物。


雪駄せつた傘屋かさや 蕎麦屋そばや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

雪駄せつた傘屋かさや
あきなひは 照降てりふりなしの かねまふけ 両天秤てんびんの せつたからかさ
〽 京ばし東てんま丁 いなりじん道
 ○ 仙女香

蕎麦屋そばや  〔すなば〕〔平しつぽく〕〔ふまき〕
名物めいぶつのそばやなりとて 銭金ぜにかねも むやうにのびる 深大寺しんだいじなれ

※ 「照降てりふり」は、照ることと降ること。晴天と雨天。
※ 「仙女香」は、当時評判の白粉おしろい。よかったら過去 note を参照してみてくださいね。⇒「江戸高名会亭尽 雑司ケ谷之図」👀
※ 「京ばし東てんま丁いなりじん道」は、京橋きょうばし 東伝馬町ひがしてんまちょう 稲荷いなり新道じんみち


甘酒屋あまざけや 鰻屋うなぎや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

甘酒屋あまざけや  〔大こくや〕
あきなひは 三国さんごく つとたかき 富士ふじの山ほど たまる金銀きんぎん

鰻屋  〔きくや〕〔江戸前大蒲〕
はんじやうは かねのまふかる すじうなぎ みせのかゝりも 大串おほぐしにして

※ 「三国さんごく」は、古くは、日本・中国・インドのことで、全世界という意味で用いられます。また、富士山が裾野をひく三つの国(駿河・甲斐・相模)を指す言葉でもあるそうです。
※ 「はんじやう」は、繁昌。
※ 「まふかる」は、もうかる。


料理茶屋りやうりちやや 花屋はなや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

料理りやうり茶屋ちやや  〔梅川〕
あきなひの 広蓋ひろぶたまでも 小判こばんなり はや身上しんじやうを 仕出しだし りやうりや

花屋はなや
見る目にも くすりときくの花とて さかりひさしき みせのにぎは

※ 「広蓋ひろぶた」は、ふちのある漆塗りの大きなお盆のこと。


手拭てぬぐひ見世 居酒屋ゐざかや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

手拭てぬぐひ見世
金持かねもちと なる見しぼりの 手ぬぐひを 売先うりさきおほき みせ長尺ながじやく

居酒屋ゐざかや
あきなひのさけは うれいたまははき はきよするほど たまる金銀きんぎん

※ 「なる見しぼり」は、鳴海なるみしぼり。愛知郡有松・鳴海で作られる絞り染めの織物のこと。よかったら過去 note を参照してみてくださいね。⇒「尾張国 有松纐り之図」👀
※ 「たまははき」は、正月のの日に、蚕室さんしつかいこを飼う部屋)を掃くために用いる玉の飾りがついた小さなほうきのこと。


糸針屋いとはりや 本屋ほんや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

糸針屋いとはりや
組糸くみいとの ほそき世渡よわたりなれど また はりを棒ほど ふとき身代しんだい

本屋ほんや  〔○岩〕
みせつきの 下●け●いよければ 板行はんかうに おしたるごとき 本屋はんじやう
〽 めでたし/\

※ 「○岩」は、江戸横山町の地本問屋 岩戸屋喜三郎のこと。
※ 「板行はんかう」は、書籍・文書などを版木で印刷して発行すること。版行はんこう
※ 「はんじやう」は、繁昌。


※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『東亰區分町鑑 1』『東京流行細見記

筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖