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999

喫茶店なのか食堂なのかわからない店に入らざるを得ない理由があり入った。
 
地方の商店街内、誰かの家感すらある店。
 
年末年始は休みます、という
味があるとは言えないきったない字で書かれた紙が貼られたガラスのドアをあけると、
本棚だけじゃなくいたるところのスペースに特攻の拓とか子連れ狼とかリイド社のコミックスとかマガジンとかスポーツ新聞とかが積みあげられていた。
 
近くの工場とか会社で働いている人が制服姿でランチを食べていた。
 
座って隣の席の制服おじさんの皿をちらっと見ると、
これはエビなんだろうかいやミニエビとかそういう知らない生き物なのかもしれない……
と、いうサイズのエビフライと、どう見ても冷凍のカニクリームコロッケが、
あきらかにお皿の白い部分が余って目立ちすぎている感じで乗せられていて、「おっちゃんあんだけで足りるんかなあ」と余計な心配をしたけれどほんとうに余計やな。
 
オムライスにしよう。オムライスは裏切らない。
大当たりな店は特別、でも、それ以外は可もなく不可もなくの味のところが多い気がするし。
 
めっちゃ時間が経って腰の曲がったマダムもといおばはんが手を震わせながら運んできた。
 
やっぱり可もなく不可もなくだった。
ケチャップ多すぎでライスの中にはチキンやピーマンはいっっさい入っていなかったけど。
代わりに隣に小鉢が2つ付いていた。
煮崩した茄子煮と、あきらかに醤油じゃない何かわからない辛い醤油味のたれがかかった冷や奴が2ピース。
もうこれ追加で白ご飯下さい、食べないけど、いらないけど。
 
ケチャップそんな好きやないけど全部食べきったら、
追加でコーヒー付けられますよと言われたので、お願いをした。
どこの家にあるカップなん? みたいのに淹れられた美味しくも不味くもないコーヒーは50円だった。
 
お客さんはひっきりなしに入ってきて、
それぞれ雑多な定食をスマホで漫画みたりしながら食べていて、
厨房のおっちゃんはちゃんとコック帽姿で忙しそうにしていて、
きゃっきゃと騒ぐ人はひとりも居なかった。
 
ケチャップ色ならぬ醤油色50円コーヒー色の空気だった。
 
BGMは『勝手にしやがれ』からの『メリーアン』からの『抱いてくれたらいいのに』からの『モーニングムーン』からの『ジュピター』。
 
会計をして「ごちそうさまでした」と言うと、
マダムは「うんうん」と笑顔でもなんでもない当たり前のような顔で満足そうに頷いてから「どうも」みたいに頭を下げはった。
頭の上には「昭和58年創業」とキャプションが添えられた写真が飾られていて、レジには「大盛割引券」が貼られていた。
 
昭和だとかノスタルジーとか映えるとかわたしは言わない。
 
それでお客さんが増えるならそれはそれでいい、いや、それが、それも、いい。
 
レトロ(だけ)じゃない。生きてるんだ。しんどいかもやが。あたりまえに。そのようにして。
 
茄子、美味しいとも美味しくないとも言えないくらいどうでもいい感じだった。
明日も茄子かな。煮豆とか薄揚げとか高野豆腐とかかな。気になるな。食べたくないけど食べたいな。
 
店を出るとき最後にかかっていたBGMは『銀河鉄道999』だった。
 
あれ、わざとじゃないけどわざとかな。違うけど。


今日はコールド・ムーン!

◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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