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冬の空よ、どこへ

空は狭いし、夜は星なんてほぼ見えない。
そんな都会が嫌いなわけじゃない彼女も、
やっぱり星の見える田舎の空のほうが好きだった。

彼の住んでいる田舎では、星がよく見える。
こっちは綺麗だよ
今日は星がよく見えるな
雲が厚くなってきた気がする

彼と空や星の話をするのは楽しかった。
一緒にいないけどすぐそこにいるような感じがして、自分の想像力が駆り立てられる感じがして、
ワクワクする時間だった。

冬の空は都会でもいくらかは澄んでいて、
とても綺麗な黒だった。
星の見えない、いつも通りの夜。
吸い込まれそうな田舎の、彼のいるあの町の黒と同じくらい、都会の空も悪くない気がした。

夜に窓を開けていると
少しだけ温かさを感じるようになっていて、
それはたぶん春だった。

いつからか空や星の話はなくなって、
一人で空を見上げる回数ばかりが増えた。
何をするわけでもなく、なんでもないことに考えをめぐらせてはため息をついて、また空に目をやる。
星の見えない、いつも通りの夜。
得意の想像力がこんなところで力を発揮して、
夜がぐっと彼女に押し寄せる。

真っ暗な空はいつの間にか白んでいて、
生活の音が少しずつ聞こえ始めて、
陽の匂いがしてくるとようやく頭の中が休まる。

季節は冬から春に変わって、
空はやっぱり暗い。夜の空は暗い。
星の見えない、いつも通り、なのかはわからない夜。
好きだった時もあったけど、
やっぱり都会の空はそこまで好きになれない。

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